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第九十三話


一五二六年五月 北近江小谷城周辺



数日に渡る浅井亮政との停戦交渉を終え、僕と朝倉宗滴は六角・京極連合軍の本陣へと戻った。

陣幕の中では上機嫌な京極高清と相変わらず気弱そうな高吉がおり、それを六角定頼が苦々しい顔で見ていた。



「おおお、神保殿!朝倉殿!。先触れの使者から浅井めとの停戦を纏めたとお聞きしましたぞ!!」



京極高清はまさに満面の笑みと言うわけだ。

それは自らにとって有利な条件での停戦だと信じて疑っていないからだ。

まぁそれはこのあと一変する訳なのだが…。

それを知らない京極高清が立ち上がり、僕に握手を求めようとしてきた。



「まぁまぁ落ち着きなされ、京極殿。まずはお二人に座って頂き、詳しい話をお聞きしようではありませぬか。」



六角定頼が横から口を挟んだ。



「あ、ああ。そうじゃな…」



京極高清が引き下がった。

それを見て僕と朝倉宗滴が腰を下ろした。



「さて六角様、京極様。こちらが浅井殿ら国人衆との停戦内容を書き起こしたものです。」



僕は二通の書状を取り出し、それぞれに手渡した。

六角定頼は淡々とそれを読んでいたが、京極高清は読み進めるにつれて顔を茹蛸の様に紅潮させた。

まさに煙が噴き出しそうな勢いだ。



「な、何じゃこれは!?」



京極高清が机に書状を叩きつけた。



「申し上げました通り、浅井殿ら国人と()()()との停戦内容ですよ。」

「神保殿! 貴殿は儂ら京極を舐めておるのか!?」



まぁ京極高清が怒るのは無理も無いだろう。

傍らでは京極高吉が体をビクビクさせながら、青ざめた顔で父親を見ていた。



「ろ、六角殿はこの条件で停戦を飲まれるのか?! 我等が一押しすれば…」

「高清殿、少し静かになされよ。」



六角定頼が京極高清の言葉をピシャっと遮った。



「神保殿、朝倉殿。我等六角はこの条件にて浅井ら国人一揆衆と停戦合意を結び、期限までに観音寺城へ撤退致す。」

「なっ…!」



京極高清が言葉を失って硬直した。

それを見た六角定頼がフンと鼻を鳴らすと、言葉を続けた。



「…一応確認だが、浅井亮政は小谷城を退去するのですな?」

「ええ。来週には美濃へ出国する手筈となっておりまする。」

「その間、小谷城はどうする?」

「浅井亮政の家臣に治めさせ、朝倉殿の手勢がこの場所にて半年間の停戦監視を行います。…その先に浅井亮政がどうするかについては関与致しませぬ。」



この場所は史実であれば、所謂「金吾嶽」と呼ばれた場所であった。

この歴史においては用途が異なるとはいえ、停戦監視に当たってもそれを踏襲する事とした。



「お、お二人はは我等京極を差し置いて、何を言っておられるのですか…?」



おお、これまでまともに言葉も発してこなかった京極高吉が口を挟んで来た。

さすがに茫然自失となってしまった父を見かねたのだろうか。



「…京極殿こそ、今の現状を分かっておられるのかな?」



六角定頼がそれに応じた。



「ど、どういうことです…?」

「京極家は江北守護の立場にありながら浅井ら国人衆に離反され、まともに兵を集めることも出来ぬ。浅井らは京極家そのものを廃する所までは目的としてはおらぬようだ。家名を保つ為には高清殿は隠居され、高吉殿も一度国外に出るがよろしかろう。」



史実では一五二三年のお家騒動の時に高清・高吉親子が尾張に追い落とされ、国人衆が推した京極高延(たかのぶ)が当主になったはずだ。

この歴史においてはやはりそれがずれ込んでいるようだな。



「それは六角様としては兄上が京極の当主になるべきだと…?」



京極高吉がガクッと肩を落とした。

傍から見れば気の毒にも見えるが、人望が無いのだから仕方ないね。



「京極殿らの行き先については追って連絡いたしまする。まずはゆるりとお休みになられます様。おい!」



六角定頼が家臣を呼ぶと、京極親子は陣幕の外へと連れ出されていった。

外へ連れ出されていく父高清はもはや顔面蒼白で何かをぶつぶつを呟くばかりであった。



「ふー…」



六角定頼が大きく息を吐いた。

そして僕を見ると、楽しそうに笑みを浮かべた。



「ははは、これでようやく面倒事が去ったと言うもの。この六角定頼、改めて礼を申し上げる。」

「あ、いえ、私は何も…。これも朝倉殿のお陰でありますれば。」

「何割かはそうなのだろう? のう、朝倉殿。」



六角定頼が朝倉宗滴の方を見た。



「それはそうなのですが、この御仁は浅井亮政が小谷へ戻れる道を理解しておりましてな。儂としては楽な停戦交渉でありましたぞ。」

「…なるほど。神保殿は食えぬ御仁と言う訳か。」



…これは褒められてるのかな??



「まぁ我等六角としては無駄な犠牲も出さずに撤兵できるし、浅井ら江北の国人衆もしばらく静かにおりましょう。我等も国内への差配がありますからな。」



これはおそらく伊庭氏への対応の事を指しているのだろう。

伊庭氏は度々六角氏に反抗していた筈だ。



「さて神保殿はこの後上洛されると聞いております。お急ぎで無ければ我が観音寺城へお寄りなされ。此度の停戦を纏めていただいた礼もさせていただきたく。」



観音寺城!!!

これはいい!!!

急ぎの旅でも無いし、名城として名高い観音寺城を見られるチャンスだ!



「ほう、儂もそのご相伴に預かろうかの。久々に良い酒を飲みたいものだわい。」



朝倉宗滴が顎髭を触りながら言った。

ええ、ついて来るの?

まあいてくれればボディーガードには良いかもしれないな。













花粉症がしんどいですね…


時に京極家のお家騒動は史実とはズレた形になっております。

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