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第八十三話


一五二四年十月 越中氷見狩野屋屋敷



越中東部での神保家と長尾為景軍との(いくさ)から五日後、僕は越中氷見の狩野屋屋敷を訪れていた。戦後復興について話し合うためだ。

今回の(いくさ)は作戦通りとは言え自らの領土をかなり破壊してしまった。

その復興は容易なものでは無い。



「殿、畠山義総様がいらっしゃいました。」

「お通ししてくれ。」



話し合いには畠山義総(あにうえ)も招聘していた。

流石に我が越中単独ではキツイ。



義兄上(あにうえ)、来てくださいましてありがとうございます。」

「うむ、この度は大変だったな。我が畠山はお前から西の抑えを頼まれていたから援軍を送れなかったが…」

「いえ、西だけでは無く有磯海(ありそうみ)(=現在の富山湾の事)まで押さえていただき大変助かりました。長尾為景軍の上陸地帯の陣地も義兄上(あにうえ)が落としてくださったのでしょう?」

「おや、気付いておったのか?」

「いえ、そうではありませんが、あの状況で出来るとしたら畠山家だけかと思いまして。」



正直アレは助かった。

長尾為景軍の海岸線陣地が健在であれば、長尾為景を取り逃していたかもしれない。



「多少なりとも役に立てたようなら何よりだ。だが聞いてはいたが、新川郡の被害は相当なものだな?」

「はい。まぁ自分で蒔いた種でもあるのですがね。民の生活が曲がりなりにも整うまで三年くらいは必要かと…」



復興についてはやることが多い。

魚津城等の軍事拠点の再建も必要ではあるが、まずは破却した領民の家々、田畑、灌漑の再整備が最重要課題だ。

それが無いと年貢や税による収入は一切見込めない。



「そうだな。我が畠山に出来ることがあれば何でも言ってくれ。」

「ありがとうございます。幸いにもこれまでの事業収益がありますから、必要な金子については何とかなりそうです。義兄上(あにうえ)には物資の手配、運送についてご助力いただけると助かります。」

「うむ、必要なものが分かり次第言ってくれ。七尾から船で運ばせよう。」

「承知致しました。」



僕は畠山義総(あにうえ)に頭を下げた。



「それと義兄上(あにうえ)、もう一つ助言を頂きたいことがあるのですが…」

「何だ? 申してみよ。」

「はい。実は今回の様な他国の侵攻を受けたのは初めてでして…。いや、この前の様な一向一揆(ぼうずども)の侵攻はありましたが、アレは特殊な事例でもありましたから…」

「言いたいことは分かる。今回の敵は他国の守護代で、その侵攻を撃退したわけだからな。越後守護の上杉殿らは関与しておらぬだろうが、他国への交渉事も必要になろう。」



一向一揆(ぼうずども)の侵攻については、現在加賀の守護はいない状態であるし加賀の一向一揆(ぼうずども)に交渉のチャンネルが無かった。

しかし今回に関しては越後守護上杉家の意向を無視した守護代の長尾家が侵攻してきたわけで、一定の戦後交渉をしなければならないだろう。

まずは復興を優先すべく、不可侵条約の締結だろうか。



「そこで俺は我が義弟(おとうと)にこう提案する。まずお前は出来るだけ早い時期に越中守護になるべきだ。」

「は、しかしそれは…」

「お前が幕府の権威を信用していないのは知っている。とはいえ、箔をつけるべきだ。お前は管領の細川高国殿と繋がりがあるし、俺も推薦してやろう。越後守護の上杉殿にも推薦するように要求できるだろう。」

「それは確かに…」

「在国もしない畠山植長なぞに遠慮もいらぬ。」



守護職か…。

足利幕府は今後数十年かけて末期に向かっていくにしてもそれまでは一定の権威はあるか。



「守護職に就けば他国の守護とも話がしやすくなる、と言う事ですか。」

「そうだ。お前は俺の義弟(おとうと)なのだからな。家格の問題もない。」

「…分かりました。それについてご助力いただけますでしょうか。」

「うむ。まずは管領殿に文を出そう。…それともう一つ。」



畠山義総(あにうえ)が机の上にある地図を手に取った。



「守護の上杉殿に越後の領地の一部割譲を要求するべきだ。場所はそうだな、朝倉宗滴殿が落とした越後不動山(ふどうさん)城から西を神保家の領地とするように要求するんだ。」

「え!? 領土割譲の要求ですか…?」

「当たり前だろう。お前は(いくさ)に勝利したのだぞ。それに親不知子不知の復旧もするのなら、そこはお前の支配下にあるほうがやりやすいだろう。」



まぁそれは理にかなっている話ではあるが…。



「しかし上杉様への文に、長尾為景の件は目を瞑ると書いてしまいました。」

「そんなことは気にする必要は無い。長尾為景を弱体化させた功績は上杉にとっても大きいだろう。」

「それはそうですが…」

「それと長尾家に対しては長尾為景の隠居と道一丸…長尾定長の家督相続だな。まぁこれだけで良いだろう。」



これについては完全に同意だ。

長尾定長には早急に家中の基盤を固めてほしいからだ。

その後も後から部屋に呼び出した狩野屋伝兵衛を交えて復興に関する話を重ねた。

そして夕刻になり日が傾いてきた、その時である。



「と、殿。早馬にて、松倉城から火急の連絡が届いております…!」

「何だ、申してみよ。」



「捕えておりました長尾為景殿が自害したとの由…!!」



…とんでもない情報が飛び込んで来た。









復興会議を行っておりました。

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