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第六十一話


一五二二年五月 京・三条御所



数日後、僕は公方に就任した足利義晴が新たに御所と定められた三条御所を訪れていた。

(もっともそれを定めたのは裏で権力を掌握している管領・細川高国の可能性もある。)

ここは現代に置き換えると中京区から東山区に相当するのだろうか?

まぁ京都の地理には明るく無いから、間違っているかもしれないけど。

三条御所の近傍ではおそらく細川高国が率いる細川京兆家のものと思われる数百~千の兵が守備に当たっているようだ。細川高国の軍は京の都全体で万を超える兵がいると言う事だから、自らの権勢を誇示していると言う事だろう。細川高国…、しばらくは敵に回したくない人物と言えるな。



「失礼、太刀はこちらでお預かり致しまする。」



御所の入り口では訪問者の武具は預けねばならぬようだ。

まぁそれは当たり前か。

名目上主君たる足利義晴への挨拶の為に全国から守護大名・諸侯が集まっている。

全てが足利義晴へ忠誠を誓っている訳では無いからな。

(僕もそうであるが。)

もちろん各大名家の警護兵も御所の中までは入ることが出来なかった。



「へえ、御所に来るのは初めてだがそれなりに立派な建物じゃないか。」



僕は当たりを見渡しながら思わずそう呟いてしまった。



「同感じゃ。高国め、いや、管領殿が威信を掛けて準備されたのであろう。そこな壺などは価値がありそうだが、そのようなものを揃えるために民の税を使ったのであればたまったものでは無いの。」

「う~む、それはそうだな。…って、誰?」



僕の横でまだ齢十にも満たないであろう少年がフンスフンスと言う感じで腕を組みながら立っていた。

身なりはそれなりにパリッとしているから家格は高そうであるが僕よりもだいぶ背が低く、まさにちんまりとした可愛らしい少年と言った感じだ。



「えっと、保護者はどこかな? お父さんやお母さんは?」



っと、しまった。

つい現代で子供に対して言うようなことを言ってしまった。



「む、其方は変わったことを聞く御仁だの。父上は既に死に、母上は阿波におるわ。」

「あ、いや何でもないから。…って阿波?。もしかして貴殿は細川の…?」



この時代の阿波を治めていたのは細川阿波守護家だったはずだ。

そのあたりで家格が高そうな家と言えばそこしかないのだが…。



「いかにもおれは細川、細川六郎と申す。義理の兄弟である管領殿に負けて阿波に逃げ散った細川澄元(すみもと)の子じゃ。」

「ほ、細川六郎!?」



細川阿波守護家の子供では無く、何と細川京兆家に関連する人物であった。

細川六郎、それは後に足利義晴から偏諱(へんき)を受け細川晴元と名乗る事になる人物である。

まさかこんなところで会うことになるとは。



「む、貴殿はおれのことを知っているのかの? どこかで会った事あったか?」

「あ、いえ失礼。初めてでございますよ。…某は越中守護代神保家が当主、宗右衛門尉(そうえもんのじょう)長職と申しまする。先程は大変失礼を…」



僕は思わす頭を下げようとした。

細川家と我が神保家の家格を比べたらまさに月と(すっぽん)というものだ。



「良い良い。貴殿はおれよりも年上でおられるのだろう。おれはまだ若輩故、世間知らずのクソガキでしかないからな。時に宗右衛門尉(そうえもんのじょう)殿。」

「は、何でございましょう?」

「ここにおられると言う事は貴殿も公方様に挨拶に来られたのだろう。おれは近習を撒いてごほん、一刻も早く公方様にお会いしたく先にここに参ったのだが、どうじゃ? 共に公方様へ挨拶に上がろうでは無いか。」



何て?

このクソガキ、今御供を撒いてとか言わなかったか?



「…某としてはもちろん良いのですが、その、御付きの方々はよろしいので?」

「おれが良いと言えば、それで良いのだ。それとも、貴殿にとってはおれがいては迷惑かの?」

「いえ、迷惑ではありませんが…」



細川六郎が僕の服の裾のあたりを引っ張ってきた。

足利義晴の公方就任の挨拶の時期ゆえに表立って何かされることは無い(であろう)とはいえ、後世両細川の乱と呼ばれる内訌の敵方が治める町に来ている割には実に無防備だ。

…まぁいずれは接点を持ちたいと思ってはいたしまだ幼い子供の頼みでもあるから、ここは恩を売っておいても良いかもな。



「分かり申した。某が公方様にお会いできる順番は少し先でありましょうから、とりあえず某を共に控えの間に参りましょうか。」

「おお、そうか。是非よろしく頼むよ。」



細川六郎がパァァァァと擬音語が付きそうなくらい顔を明るくさせ、終いには僕の左手に手をつないできた。僕は子守では無いのだが…。

細川六郎の子供らしい高めの体温を左手に感じながら、控えの間に向かうのであった。






細川六郎、後の晴元はこの年はおそらく八歳くらいだと思われます。

この時代に細川六郎が敵である細川高国の勢力下である京にて公方に会いに来るなんてことはどうかなとも考えましたが、歴史モノのフィクションと言う事でお許しくださいませ。

(後に六郎は義晴に鞍替えしたのも事実でありますし、まったく繋がりが無いことも無いのかなと)

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