第五十三話
一五二二年二月 越中守山城
「ふぁ~~」
僕は越中守山城の一室で気が抜けたあくびを連発していた。
外は季節相応の気温・天気であるが火鉢で暖められた部屋はそれなりに快適だ。
妻の芳は近くで昼寝をしていた。
その寝顔は未だあどけない少女そのものだ。
昨年までの戦で越中国内はそれなりにまとまりつつあった。
椎名長常を下した事で越中国人の大半は我が神保家に首を垂れたし、安養寺の実玄ら越中一向一揆が(もちろん全てでは無いが)恭順したため、概ね国内は我が勢力圏となったと言って過言では無いだろう。
そうそう、今年になって正式に征夷大将軍に就任した足利義晴から使者が来て僕に官位を与えられるのだがどうか? と言われたのだがそれは丁重にお断りし、代わりに神保家嫡流が継承(自称)していた宗右衛門尉のお墨付きを貰えるように要請した。
おそらくこれは許可されるであろう。
これは越中国内の国人領主へ周知する事で、神保家がこの国の筆頭として存在しているのをアピールするのが狙いだ。
まぁ現状の足利将軍家にはそれほど期待していないけど、とりあえず箔が着くと言うものだ。
「殿、失礼致します。」
「職信か、どうした?」
「はい。叔父上…、狩野屋伝兵衛から書状が届いておりまする。」
「ほう、伝兵衛から。」
僕は狩野職信から書状を受け取った。
「む、これは。…おお!!」
それを読んだ僕は思わず声を上げてしまった。
「と、殿!?」
その様子を見た
「あ、いや、すまぬ。この文にはなかなか凄い事が書いてあったのでな。」
「叔父上はどのような事を認めているので…?」
「かの有名な朝倉の九頭竜殿が俺に会いたいと言っているそうなのだ!」
「朝倉の九頭竜殿、と言うと、あの朝倉宗滴殿ですか?」
「うむ、あの朝倉宗滴殿だ。」
朝倉宗滴は言わずと知れた軍神である。
僕達は氷見での事業を始めてから狩野屋は毎月の様に京へ繋ぎを出していたのだが、そのルートは畠山家の廻船を使って敦賀の港を経るものを採用していた。
陸路は一向一揆の混乱で危険なためだ。
今月は狩野屋伝兵衛自らが京へ向かっていたのだが、敦賀に到着した際に敦賀郡司である朝倉景紀殿に呼び止められたらしい。
そしてそのままの流れで朝倉宗滴と会談を行ったんだそうだ。
「伝兵衛もなかなかやる。敦賀の港を使う際には敦賀郡司へ渡るように心付けを渡すようには指示していたが…、ここまでできるとはな。」
フフフ…
これはテンション爆上がりだ。
歴史ゲームでも家臣に出来た瞬間テンションが上がっていたものだが、その軍神とまみえることが出来るのだから。
「殿…、悪う顔をしておりますぞ。」
「賄賂を渡していたのだから、まぁ悪い事であろうよ。」
「そう言われてしまえば、もう何も言えませぬ。それで朝倉宗滴殿とはいつ頃…?」
「ふむ。文によればどうも朝倉の九頭竜殿も主家に内密に会談をしたいと言う事の様で、今月末頃に京から戻る船に乗って氷見に来られたいそうだ。」
「朝倉家に内密に、でございますか。」
「そうだ。この文言にもテンションが上がるな!」
「て、てんしょん…?」
おっといけないいけない。
「気分が高揚する、と言う事だ。俺も武士の端くれだ。あの軍神と会えるのだから当然だろ?」
「そうですな…。某もお会いしてみとうございまする。」
「職信も同席を許そう。…今回は義息子の朝倉景紀殿も来られるそうだ。非公式な会談と言う事であれば城じゃない場所の方が良いな。まあ歓待に関しては狩野屋に任せれば良いから、氷見の寺を都合しておくか。」
城でその土地の支配者に会うと言うのは外交や何か謀の一環と見られる可能性があるから、ここは配慮が必要だろう。
「職信。総光を呼んできてくれ。抜かりなく警備が出来るように準備せねばならないからな。」
「かしこまりました。」
「それと、一応義総にも伝えておくか。後で文を認めるから使いを出しておいてくれ。」
「そちらも万事抜かりなく。」
「よろしく頼むぞ。」
狩野職信が一礼して下がっていった。
うーむ、やはりテンションが上がってきた!
オラ、ワクワクしてきたぞ!
ここまでのやり取りの中でもむにゃむにゃと寝息を立てている愛妻の頭を撫でながら、気分が高揚しているのを感じていた。
仕事が忙しく疲れてしまっていて執筆できていませんでした。
亀の速度ですが再開していきたいと思います。
よろしくお願いいたします。




