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第五十話


一五二一年 一月 越中守山城



僕が神保家の家督を継いでから二回目の年明けを迎えた。

この年の新年は氷見では無く越中守山城に滞在していた。

念の為能登の義総(あにうえ)には七尾城を詣でたほうが良いかお伺いを立てたが、ほんの二月前に来たばかりだから、今回はそっちでゆっくりせい との返事であった。


そうそう、公方様(足利義晴)であるが昨年十一月末に氷見に同道してきてから一週間程滞在していた。

その間は神保家(+狩野屋)にて行っている事業をざっくり説明したりそれなりの規模で歓待をした結果、公方様本人も幕臣連中もそれなりに満足して帰っていったようだ。

(もちろん心ばかりの金子も手土産にしてな…)

その時三淵尚員(みつぶちなおかず)は苦笑いしていたな。

あの御仁はこれからも苦労するだろうな。



さてここで越中国内の状況について整理しておくか。

一五二一年は越中国内においてはそれなりに大きな動きがあった一年であった。

敵対していた叔父の神保慶明は国外に追放した。

新川郡の椎名長常も討伐することが出来たため、国内において懸念すべき勢力は砺波郡の一向一揆衆だけとなった。

また椎名慶胤が僕に対して臣下の礼を取ったことで、国内の国人領主達が神保家に服属してきたのだった。

これは非常に大きなことである。

人についても松波長利が加入し貴重な人材を得ることが出来た。

この後はどのようにしていこうか。

一向一揆については形の上では和睦しているとは言え、いずれ何らかの対策は取らねばなるまい。

ただあそこの坊主はちょっと苦手なんだよな。

武力をもって攻撃しても良いが、加賀の一向一揆が入ってきたら厳しい戦いになるかもしれない。

このあたり亡命してきた実悟に話をしてみるか。

あの御坊は亡命してきてから二カ月ほどだが怪しげな行動は見られないようだ。

いずれどこかの寺に入ってもらって、その周辺の門徒を束ねてもらうのも良いかもな。


他国の状況であるが能登は義総(あにうえ)の下、今は安泰な状況にあるようだ。

越後方面は特に動きは無い。長尾為景も静かにしているようだ。

西の加賀は一向一揆の国だ。出来るだけ関わりたくはない。

南の飛騨はよく分からないんだよな。

某歴史ゲームだと三木家(後の姉小路家)が台頭してくるんだっけな。

この時代だと江間家とか言う有力国人がいるようだが、よく分からない。

少しは飛騨方面にも探りを入れておかなければならないかな。

春になったら<薬売り>を向かわせてみよう。



「長職さま!」



色々な考えを頭に巡らせていると芳が僕の服を引っ張りながら話しかけて来た。

その顔は少しむくれているようだった。



「お、どうした? 芳。」

「せっかく芳と一緒にいるのですから、もう少し芳の事を構ってください!」

「う、うむ。それはすまぬな…」



僕は謝罪しながら芳の方を抱き寄せた。



「え、えへへ…」



芳はすぐ上機嫌になり、頬を赤らめた。

うむ、可愛い奴よ。



「それでね長職さま。芳は神保家に嫁いで一年以上経ちました。昨年の十月にも一度お伺いしましたが、芳としてはそろそろ長職さまのお慈悲を頂戴したく思います!」

「え、ええ!?」

「あのあと芳はたくさんご飯を食べました。少しは大きくなったんですよ。でも、これ以上は…」



確かに芳は飯をたくさん食べていた。

まぁそれなりに体つきは丸くなった気もするがそれでもまだ小さい。

僕のママ上はそれなりな身体つきだからそれを目指していたんだろうが、それは芳には無理そうだな。

これ以上ストレスになってはいけないか…。

芳は神保家の為によくやってくれている。

しかしこの時代は御世継を作れてこそと言う時代なのだ。



「そ、そうだな。この正月は明日に家臣達の挨拶を受けるだけでゆっくりできるから、今度こそ俺はお前を愛そう。」

「わわ!本当ですか!? 長職さま、大好きです!」



芳が僕のことをギューッと抱きしめて来た。

ま、まぁ悪い気分では無いな。

少し落ち着いてから、僕は女中を呼び出した。



「今日は芳と過ごすから、明日まで誰も近付けないように。」



そう厳命すると、察しの良い女中はウンウンと頷くようなしぐさを見せ下がっていった。

せっかくの夫婦の時間だ。

邪魔をさせるわけにはいかないな。













この後何が行われたかについてはお察しください。

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