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第四十六話


一五二一年十一月 能登七尾城



次期将軍・足利義晴との会談が行われた後、七尾城では歓迎の宴が執り行われた。

カッコ良く言えば晩餐会であるが、まあ時代的に華やかなものでは無い。

なお畠山稙長はこの宴に参加することなく七尾城を辞していった。

自ら守護を担当しているはずの越中には目もくれず、である。

まぁそんな事だから僕の親父殿が反旗を翻したんだろうし、僕も表立っては反抗しないが従う気にもなれないよな。


さて宴であるがこの場にいるのは次期将軍の足利義晴、義兄畠山義総、そして僕の三名である。

その他の幕臣や畠山・神保家の家臣達は隣室にて飲食してもらう事とした。

(これは足利義晴の命である。)

幕臣らははじめ難色を示していたが、主の命令であったため仕方なく従っていた。



「改めまして次期公方様、我が能登においで下さり真にありがとう存じまする。」

「うむ、余もこのような宴を催してもらい嬉しく思うぞ。」

「勿体無きお言葉にござりまする。」



畠山義総が頭を下げた。



「それに噂の義弟御(おとうとご)にも会うてみたかったからな。」

「某に、でございますか?」

「うむ。余と幾つかしか変わらない年にも関わらず色々な政治(まつりごと)を行っていると、幕臣供から聞いておる。」



足利義晴は年相応のはにかんだ笑顔を浮かべた。

確かこの時齢十歳だ。

話し方は大人びているが、まだ少年なのだ。



「余がまだ未熟者なのは自分でも自覚しておる。それ故に細川高国ら幕臣達が口うるさいのだがな。今回は余が自ら能登に下向する事を決めたのだが…。長職はその気持ち分かるか?」



細川高国と言うのは細川京兆家(けいちょうけ)当主にて管領を勤めているこの時代における有力者だ。

足利義晴はこの人物の庇護によって征夷大将軍に就任すると言っても過言ではない。



「大変申し訳ございませんぬ。某が家督相続した時には父もおらず有力家臣も父に殉じた為、越中守護代の椎名殿以外に頼れる武将もおりませんでした。その椎名殿も身内と抗争しておりましたし、常に某の傍にいていただくわけにもいかず。」

「ほう、そうなのか。ではここまでの政治はお主の才覚か…?」

「いえ、そうではございませぬ。家督を相続した時にはそうでしたがその後に義兄上(あにうえ)や頼れる家臣達に恵まれた為に今に至っております。某は周りの人物と積極的な意見交換をするようにしておりまして、任せられる仕事についてはその者に任せておりまする。」

「ふうむ、それがこの前爺から教わった、適材適所と言う奴だな。」



足利義晴が感心したように頷いた。



「義総。お主から見た義弟御(おとうとご)はどのような人物じゃ?」

「…公方様。少し表現について無礼講となりますが、よろしいでしょうか?」

「構わぬ、申してみよ。」



あれ、もしかしてなんか僕、何か酷い事言われるの?



「某から見た長職(おとうと)はそれはもう人たらしであり、生意気な人間にござる。せっかく義兄(あに)が訪ねたと言うのに、<義兄上(あにうえ)また来たのですか? 国は大丈夫なのですか?>等と生意気な事を言うのです。」

「え、だって義兄上(あにうえ)は氷見に来すぎではありませんか。」

「俺が家族に会いに行くのが何悪いと言うのか。」

「あいたっ!」



また頭をぽかっと叩かれた。



「まあそれでも我が妹と結婚した可愛い長職(おとうと)にござる。長職(おとうと)の家臣達も、長職(おとうと)には不思議な魅力を感じておりましょう。」



あれ、もしかして褒められてる?

突然こんなことを言われたもんだから思わず赤面してしまった。



「ははは!お主等本当の兄弟の様だの。余にも兄弟がおるが会うたことも無くての。」



確か義晴には後に義維(よしつな)と呼ばれた兄弟がいたな。

どっちが兄か弟かは分からないが、のちに政治的に対立している勢力に担ぎ上げられた筈だ。



長職(おとうと)は氷見での事業もうまくやっているようにござる。本日の宴にて用意した食材に関しましても、氷見から取り寄せましてな。七尾も負けていないと思いたいところですが、まあ我が国も長職(おとうと)の事業と協力していてうまい汁を吸わせてもらっております。」



今日の宴の食材は狩野屋を通して納入したものだ。

もちろん氷見うどんも用意した。



「左様か。義弟御(おとうとご)は大した御仁の様だの。」

「大した人物かどうかは分かりませんが、面白い奴だと思います。」



あの、義兄上(あにうえ)

褒めてくれるなら最後まで褒めてくれても良いんじゃない?



「そう言うところだぞ、ばかもの。」

「いたっ!」



また頭を叩かれた。



「まだ何も言ってないのに…」

「態度で分かるぞ。」

「そんな…」

「ははは! お主等本当に面白いな。ここまで面白いのは久しぶりだぞ。」



足利義晴は大変上機嫌だ。



「そうだ長職よ。余もお主には興味がある。此度の旅は急ぎでは無い故氷見にも行ってみたいのだが良いか?」

「はえ…。も、もちろん公方様のご意向でござりますれば…。しかしながら大したおもてなしも出来ぬと存じますが。」

「構わぬ構わぬ。余も政治(まつりごと)を学んでいかねばならぬ。そう言えば幕臣共も納得してくれるだろう。長職、よろしく頼むぞ!」



あちゃー。

足利将軍が越中に来ることになっちゃったよ。

早馬を出して、準備していかないとな…。










現段階で畿内の動乱については詳しく触れませんが、この後も史実では旗頭としての将軍職を巡っての動乱が続きます。

細川家とか三好家とか、有名ですネ!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「少し表現が無礼講」というのは違和感を感じます。 「些か礼を逸する表現」とかの方がわかりやすいのではないでしょうか?
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