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第四十五話


一五二一年十一月 能登七尾城



実悟が僕を訪ねて来てから七日後、僕は妻の芳や遊佐総光ら家臣、常備兵三百を連れ能登を訪れていた。

なおこの常備兵の甲冑は黒系の色で統一した。

いわゆる<黒備え>と言うわけだ。

<黒備え>で揃えた理由は完全に僕の趣味で、カッコイイからだ。

同じ色で揃えた軍勢が戦場を駆ける姿を思い浮かべると、まさに中二病的ではあるが、とても良いと思う。


そうそう実悟等であるが氷見郊外の屋敷を借り受け、当面の間そこに住んでもらう事にした。

あの坊さん、いや家族・郎党を含め十人程であったが、とても喜んでいたな。

袖の下で喜んでいる実玄らとはだいぶ違うな。

おそらく僕への好感度は爆上がりだろう。


さて我が神保家の兵は城の近郊に駐屯させてもらい、僕は僅かな供を連れて七尾城に入った。

神保家は能登においては他国衆ではあるが当主義総の義弟と言うのもあり、今や一門衆に準ずる扱いとなっていた。

義総の重臣達からのやっかみがありそうなものだがそれも聞こえて来ない。

義総が国内を掌握しているのがよく分かると言うものだ。


七尾城の謁見の間に入ると、正装をした義兄・畠山義総が待っていた。

いつもの上座では無く、その右手側だ。



「長職、よく来たな。お前は俺の横に座れ。総光達はすまないが端の方で頼む。」

「承知いたしました。」



僕達は義総に指示された配置に座った。

少しして明らかに身なりの良い男、というか少年が部屋に入ってきた。

その男は当然の様に上座へと陣取った。

後ろからついてきたこれも身なりの良い若い男もおり、この人物は僕達の対面に座った。

他にもそれらの臣であろう数名もいるが、これは触れるまでもないな。



「次期公方様におかれましてはご機嫌麗しゅう…。此度次期公方様の命により、我が義弟となった神保長職を連れて来てござりまする。…長職。」

「お初にお目にかかりまする。某が神保長職にございます。この度公方様にお会いすることが出来、恐悦至極にございます。」



僕は義総と共に平伏した。

何と目の前の少年は次期公方、つまりまもなく征夷大将軍になる足利義晴であるようだ。

史実であればまさにこの年に将軍職に就任するの筈だ。

まあこの経緯の中で畿内では戦が起きていた筈だが。



「うむ、大儀であった。此度余が下向したのは他でもない。越中における状況に心を痛めておってな。」



どの口が言うのか、とも思ってしまう。

この時代の足利将軍は日に日に権威が落ちてきた頃だ。

それでも担ぎ上げる神輿としては最適とばかり、畿内の有力武将に担がれてきた存在でもある。

目の前の少年もまさにそれだ。



「ご心配をお掛けし申し訳ありませぬ…」



それでも僕は頭を下げた。

まあこの人は将軍だからな。

形式上主君…の更に主君なのである。



「して神保長職よ、どうだろう。そこな越中守護の畠山稙長(たねなが)と正式に和睦し、越中に平穏を取り戻したいと考えておるのだが。」



なるほど。

対面に座ったのは神保家の主筋である越中守護だったのか。

まあ、普段越中にいないから会うのも初めてだな。



「これはこれは、御屋形様でございましたか。ご挨拶が出来ておらず申し訳ございませぬ。」



僕は畠山稙長の方を向き頭を下げた。

横目で義兄の義総をチラ見すると、義総は軽く頷いた。

この人はこちらの味方だ。



「今ほど公方様が仰られた件でございますが、我が父は御屋形様に背いてしまいましたが…私には御屋形様に敵対するつもりはありませぬ。」

「ふん…」



対面にいる畠山稙長は冷たい視線を浴びせて来た。

まあ、こういう人なんだろう。



「恐れながら申し上げまする。御屋形様は畿内にてご多忙でおられ普段越中にはおられませぬ故、越中が差配につきましては守護代である我が神保家にお任せくださいます様お願い申し上げます。」

「な、何だと!? 其方、国を簒奪するつもりか!」

「これは異な事を仰いますな。某としては御屋形様が畿内での活動に専念できるようにという臣下としての考えでござりまするぞ。」

「な、何…」



畠山稙長が色を成した。

口をパクパクさせているが、言葉が出てこない様子だ。



「ふうむ、これは困ったな。義総よ、其方はどう思う?」



足利義晴が頬を掻きながら畠山義総に問いかけた。



「某は畠山稙長殿と同族であり長職の義兄でありますれば双方に近い身として申し上げますが、国の統治と言うものはやはりその土地の、現地の様子を見ませんと出来ないものと存じまする。某としても長職の意見に賛成いたしまする。」

「な、何!? 義総殿は何を言われるのか?」

「ふむ、義総の言う事も一理あるな。」



畠山稙長、足利義晴それぞれがそれぞれの反応を示した。



「もっと言えば長職は我が義弟にて畠山匠作家一門に連なる者にござる。越中守護にもなれる家柄とも考えまする。」



義総の言葉に畠山稙長は口をあんぐりとさせた。

同族からまさかこんな言葉が出るとは思っていなかったのだろう。



「ふぅむ、それはさすがにやりすぎだと思うが…。ではこうしよう。越中に関しては実際の差配については神保長職に任せ、その監督を能登守護たる畠山義総に任せよう。畠山稙長は畿内・河内と紀伊の統治に注力せよ。」

「は、は…。しかしながら…」



畠山稙長が反論しようとした。



「これは次期将軍たる余の裁定である。重要なのは越中に平穏を取り戻すことだ。後程書状にて関係の者に申し渡す。」

「は、はは!!」



一同平伏した。

僕と義兄の義総は見えないようにニヤ付いていたのは言うまでもない。






義兄弟同士阿吽の呼吸と言うものです。


なお将軍の足利義晴については就任時期が何とも微妙なところで、本作では実質的にまもなく将軍職に就くところいう設定にしました。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ご存知かと思いますが、義晴も稙長もこの時期北陸に来れませんし、来る理由もありません。将軍近臣を使者に出して交渉するとかもう少しまともな表現があるのではないでしょうか?
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