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第三十九話 


一五二一年九月 越中放生津城



越中魚津城での戦いからひと月、戦後処理の為に越中諸将を集めた会合が開かれた。

場所は集まりやすさから放生津城に設定された。

僕は諸将から少し遅れて会見の間に到着した。

見届け人には義兄の畠山義総を招いており、会見の間では畠山義総を上座に案内しようとした。



「何を言っておる。俺は越中の守護では無いから、そのような扱いは不要だ。」

「し、しかし義兄上(あにうえ)…」

「どうしても、と言うなら長職(おまえ)は俺の隣に座れば良い。」

「は、はぁ…」



僕は渋々、畠山義総の横に並び上座へ座った。



「一同、面を上げよ。」



僕の一番の重臣となった侍大将の遊佐総光が号令した。

集まった諸将が顔を上げた。

椎名長常を討伐したことで今まで態度を保留にしていた国人領主なども集まり、いつになく数が多い会合と言えよう。

その中には新川郡守護代椎名慶胤もいた。

その出で立ちは簡素ではあるがいつになくパリッとした羽織袴を着用していた。



「皆の者、大儀である。俺が神保長職だ。どうやら初めて会う国人領主もいるようだが…」



僕は眼前の者達を見渡した。

日和見の立場であった国人領主数名が心なしか視線を逸らした気がするが、まあ見なかったことにしてあげよう。



「新川郡守護代を僭称していた椎名長常を討伐したことにより、まあ南に坊主共がおるにせよ、越中国内を平らげるのに一歩前進した。皆の働きを嬉しく思うぞ。さて、椎名慶胤殿。」

「はっ。」



僕は椎名慶胤の方を見た。

お互いの視線が交錯する。



「此度の戦の結果について、同じ守護代としては嬉しく思っておりまする。貴殿には引き続き…」

「恐れながら…」

「む…?」



椎名慶胤が僕の言葉を遮った。

いったい何だと言うのだろう。



「まず此度の我が弟、守護代を僭称していた長常討伐にご助力頂いたこと、ありがたき幸せにござる。」

「あ、ああ。それは約定でありましたからな…」

「しかしながら。」



椎名慶胤が自らの拳を少し前に出した。

何だ? 援軍のやり方が気に食わなかったのかな?

松波庄五郎の手際については報告を受けている。



「儂は此度の神保軍の動きを見て、己の至らなさを痛感致した。遊佐殿の剛、松波殿の軟。それが合わさっての動きでござった。お陰を持ちまして、我が軍の被害も思ったより少なく済み申した。」

「は、はあ。我が部下が優秀なだけでごさいますよ。」

「いや、長職殿の人徳があるからこそ、優秀な者が集まると言うもの。儂も戦場の倣いを再度学ばせていただきたく、神保家の、いや神保長職様が末席に加えていただきたい。」

「え、あ、ちょっと待って!?」



何と椎名慶胤の口から出たのは僕への服属願いであった。

国人領主たちがざわついていた。

それはそうだろう。

新川郡守護代にして神保家と同格であるはずの椎名慶胤がそのような事を言ったのだ。

ここにいる国人領主の誰よりも力を持っている男だ。

僕は口をパクパクさせながら、義兄(あに)の畠山義総の方を見た。

その様子を見て畠山義総は少しため息をついてから口を開いた。



「新川郡守護代、椎名慶胤よ。長職(おとうと)の代わりに能登守護畠山義総として尋ねる。」

「はっ。」

「其方が今言った言葉はそれなりに重いものだ。長職(おとうと)への服属と言う事は新川郡守護代職の返上と同義であることは分かっているか?」



つまりこれを願うと言う事は僕と同格では無くなると言う事だ。



「もちろん分かっておりまする。申し上げたように、長職様が器量は儂には到底敵わぬもの。」

「まあ、人たらしなのは認めるがな。」

「越中国平定の一助となれば、我が椎名家にも誉れでござりますれば。」

「だ、そうだぞ。長職(おとうと)よ。」



義兄(あに)の助け舟の間に、少し心が落ち着いてきた。

まぁそこまで言うのであれば拒む必要も無いか。



「分かり申した。椎名慶胤殿、いや、慶胤よ。我が臣に加わる事を許そう。」

「ありがたき幸せ。」



椎名慶胤が平伏した。



「うむ。貴殿には引き続き新川郡の統治をお願いしたい。今のところ我が方には代官を送る余裕は今無いのだ。」

「は。長常がおった魚津城は如何に致しますか?」

「うーむ、そうだな。元は貴殿が管理下であろうから、貴殿の郎党に任せられぬか。」

「何と、戦功を上げた殿の将に下賜されるなどは致さぬのですか?」

「うーん、だって。欲しい? 総光、庄五郎。」



僕は遊佐総光と松波庄五郎を見た。



「いや、儂はまだ侍大将として将兵の育成に忙しいから、守山城以外は要りませぬな。」

「某もこの放生津城を頂いたばかりですからな。まずは内政を手厚く致したい所存です。」



二人はやんわりどころか直球で断ってきた。



「だ、そうだ。引き続き慶胤が家中で治められよ。」

「はっ。かしこまりましてございます。」



うーむ、何か様相が変わってきた。

僕のプランでは椎名慶胤を守護代職に残したまま当地の体制を整えていくつもりだったのだが…。

まあ新川郡は引き続き椎名慶胤に任せるつもりだから、その実は変わらないのかな。

僕はそう思う事にした。






忙しくて更新が遅れておりました。

今後も飛び飛びで更新してまいりますので、何卒宜しくお願い致します。

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