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第三十五話


一五二一年七月 越中氷見 城ヶ崎城建設予定地



越後会談の翌月上旬、僕は氷見沿岸部の城ヶ崎城建設予定地を訪れていた。

義兄の畠山義総から派遣されてきた築城普請の技術者と打ち合わせを行うためだ。

なお先月に話になった新川郡椎名長常討伐の件であるがこれは主体が椎名慶胤であるので、こちらでは武具や兵糧の準備のみをすれば良いからそれを進めつつ、既に遊佐総光を指揮官とした五百の兵を魚津城を望める丘に布陣させてある。

また今回は畠山義総から二百の援軍を得ることが出来ており、椎名慶胤の千と合わせて千七百の軍となる見込みだ。

確か椎名長常の軍は七百程と言う事だから、調略と合わせて慎重に進めていけば数の上では有利だ。

まあ我が軍の副将に松波庄五郎を付けたから、その辺も考えてくれるだろう。


さてそろそろこちらの話を進め…って、叔父の神保慶明への沙汰はどうなったかって?

いやあ正直この御仁に関しては僕としては如何様にしても影響はほとんど無い人物だったので、一族郎党の助命を条件に越後方面に国外追放とした。

郎党については神保慶明に付いていくか越中に残るかを選ばせ、残った者は松波庄五郎の配下に組み込むことにした。その辺は松波庄五郎であればうまくやるだろう。



「神保長職様、設計としては概ねこのような感じでございますが…」



僕に話しかけてきたのは、今回能登から派遣されてきた職人頭の徳次郎だ。

この人物は中々柔軟な頭を持っていて、こちらの要望も出来るだけ汲み取ってくれていた。

こちらからの要望としては



・本丸は海側かつ一番高くなっているので断崖付近としたい。これは史実でこの場所にあった阿尾城もそうだったようである。

・最遠の城郭は近隣集落も内包する範囲としたい。史実では丘陵の範囲までを城としたようだが、それよりも遠い場所から城の範囲とすることで、もし敵から攻められることがあってもそれを遅延させることが目的である。

・本丸付近の断崖に、最悪の時に海に出られる船着き場を建設したい。これについては本丸近傍の断崖に作るのは無理であるから、少し下がった二の丸付近に建設することにした。



「うむ、これなら俺も満足できる内容だ。」

「ありがとうございます。しかしこの三か所の高台は何のためのものでありましょうか? この部分の城壁は不思議な形の狭間を要望されておりますな。」

「ああ、これは…」



不思議な形な狭間と言うのは、将来来るであろう銃砲火器の設置を想定したものだ。

南蛮人が種子島に来るのはまだ先の話なので今いる者に理解してもらうのも酷と言うものだ。

これが分かるのは僕や狩野屋伝兵衛のような未来から来た人物だけだろう。



「…今のところ何の意味も為さないな。まあとりあえずこの通りに設計図を完成させてくれ。」

「左様でございますか。承知いたしました。」



徳次郎は特に反論もせずに僕の要望を呑み込んだ。

この場所がこうなっているからとて特に城の防御力に影響を与えないからだ。



「ああそれと、城の建築資材については予め組み立てしたものあるいは出来るだけ同じ形のものを搬入して一気に組み立てていくものとしたい。基本的なフレーム…いや、枠組を予め何種類か準備しておいて、それを持っていくわけだ。分かるか?」



これは現代の(注文住宅ではない)家やユニットバスの様に工期を短縮するのが目的だ。

まああの豊臣秀吉の墨俣城をイメージしたのだ。まあ一夜城なんてものは眉唾物でしかないのだが。

それに規格をある程度統一させておければ部材の製造やメンテナンスも容易になる。

また規格品を作ることで少しでも費用の節約も出来よう。

この時代の城は見た目を気にすることなど必要ないのだ。



「なるほど、勉強になりますな。それなら完成までの期間の短縮も見込めます。」



徳次郎がうんうんと頷いてくれた。



「必要な金子が分かったら俺に上申してきてくれ。」

「かしこまりました。」



徳次郎は一礼するとこの場を離れて行った。

昨年からの事業でそれなりに金子の貯えはあるから、今回の築城資金についてはそれ程心配はしていない。

築城と言うのは通常では年単位を見込まなければいけないが、何とか一五二二年中にはある程度の所までもってきたいところだな。










ついに居城建設スタートです。

作中の通りこの時代の城に絢爛豪華な要素は必要ありません。

防衛や使い勝手が良いのが一番でありましょう。

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