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第二十九話


一五二一年六月 越後琵琶島城



先程の広間から異なる建屋に位置する宇佐美定満の居室。

某歴史ゲームでは上杉謙信の()()()()()()()()()()()()(その十数年前であろう)男が目の前に座っていた。



「宇佐美定満殿、お時間を取っていただきかたじけのうございます。」



僕は軽く会釈をした。

傍らには、と言うか僕より少し右後ろには長尾道一丸がいた。



「いや…。しかし某には風に聞こえる神保長職殿にお話できることなどあまり無いと存ずるが…」



まあ本人がこういうのも分かる気がする。

実の所、上杉謙信の軍師であると言う話は異説があり、創作である可能性があると言う。

目の前の男が本当に上杉謙信の軍師であったかどうかなど、僕には分かるはずもなかった。

しかしながら琵琶島城に拠する宇佐美家の力はそれなりなものがあるだろう。



「いやはや…。しかし越後の雄とならんとする守護代殿に明確に服していないだけでも、凄い事にござる。」

「な、い、いったい何を…?」



宇佐美定満が表情を変えた。

それはそうだろう。

僕は長尾道一丸の前でこの発言をしているのだ。

常識で考えたら意味不明な事と捉えられるだろう。



「定満殿、私は今父が行っている事が正しい事だとは思っていません。」

「えっ…?」



長尾道一丸はそれに追い打ちを掛けるような発言をした。



「これから父・為景の野心は越後の国人衆を飲み込もうとするでしょう。その矛先は私にも向いているのです。」

「仰っている事がよく分かりませぬ。道一丸殿は長尾殿のご嫡男ではありませぬか。」

「嫡男であろうとも、と言う事です。」



この世界における長尾道一丸の立ち位置は史実と違うように思える。

あと数年もすれば上杉謙信が生まれる筈ではあるが、どうなるかな。



「…道一丸殿は何をなさりたいのですか?」

「私は私に味方頂ける将を増やしたいのです。」

「それで某の元を尋ねられたというのか?」



宇佐美定満が道一丸を見た後に僕の方へ視線を移した。



「御名答、にございます。道一丸殿には味方が少ないのでしてな。守護の上杉様は御味方頂けるだろうから、上条殿も御味方にございますな。それに宇佐美殿が御味方頂ければ柏崎周辺を道一丸殿の味方で固められまする。」

「だがそれは越後の国に戦火を呼び込むだけではあるまいか?」

「道一丸殿が動かずとも、守護上杉家と同族の上条殿が動きましょう。…どうせ動くのであれば、動きやすい手段を模索するまでです。」

「ふむう…」



宇佐美定満が腕を組んだ。

先程までは混乱の色を見せていたが、だんだん落ち着いてきたようだ。



「神保殿が仰りたいことは分かった。道一丸殿も同じ考えでおられるのか? 失礼を承知で申し上げるが、はっきり言って道一丸殿は神保殿に利用されているとしか思えませぬぞ。」



まあ、それは正しい。

正直って僕も自分が生き残りたいから恐ろしい長尾為景を、そして数年後に生まれるかもしれない上杉謙信を牽制するためにも、長尾道一丸が力を持ってほしいと思っている。

言い換えれば利用したいと言う事だ。



「長職殿が私を利用されたいと言う事は分かっています。そして私に利用価値があるうちは、長職殿は私と敵対しない事も。それに…」



「長職殿は私に薬をくれた恩人です。恩人になら、利用されても構わないと思っています。」



何だ泣ける話じゃないかよ、道一丸君。

まあ先述の通り他意が無いと言えば嘘になるけど。



「なるほど…。そこまで聞いてしまったら、某には選択肢が無いではありませぬか、神保殿。」



宇佐美定満が顔を上に上げた。



「分かりますか?」

「先程の御屋形様との会見場で、長尾為景殿が某に疑念を持つようにわざと仰ってたでしょう…。某が味方するしないに関係無く、立場は悪うなりますな。」

「仰る通りです。」

「町場に流言を流していたのも貴方か?」

「敏いですな。さすがは宇佐美殿です。」

「もうかなわぬよ…」



それも気づいていたんだな。

その時、部屋の襖が開いた。



「おう、話は盛り上がっておるか?」



上杉定実だ。

部屋に入ってくるなり、僕達とそれ程遠くない場所へドカッと腰を下ろした。



「はい、今宇佐美殿と大切な話をしておりました。」



長尾道一丸が答えた。



「大切な話とは何だね?」

「有体に言えば、宇佐美殿は私に御味方いただける、と言う話です。」



その言葉に、上杉定実が目を見開いた。



「ははは、それは上々。…して、道一丸殿はどちらの味方かね。儂か、其方の父上(ながおためかげ)か?」

「もちろん、御屋形様の御味方にございます。」

「その言葉に、偽りは無かろうな?」

「二言はございませぬ。」

「ははは、そうか。そうだな、其方は儂の娘を娶る予定だから義息子(むすこ)の様なものよ。其方は義父(ちち)を助けてくれるか。」



そう言えばこの人には男子は生まれなかったんだよな。



「もちろんでございます。」

「期待している。…そうだ、道一丸よ。そろそろ元服するのも良いな。儂が烏帽子親となろうぞ。」

「ありがたき幸せにございます。さすがに父の許しも必要とは思いますが。」

「うむ、為景には儂からも言っておこう。」



ふむふむ、そろそろ長尾晴景の誕生かな?

このメンバーの密談は日が暮れるまで続いたのであった。





宇佐美定満ですが、いろいろググったりしてると、どうも上杉謙信の軍施説は怪しそうな雰囲気なんですよね…。まあでも無能な人間であるはずは無いので、ここで長尾道一丸の将と出来たことは大きい事であろうと思われます。


長尾道一丸の元服は具体的に何年に行われたかは分かりませんが、年齢的にはそろそろかと思われます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なにやら主人公と道一丸の間に泣ける話がある様ですがわたしにはわかりませんでした。薬を融通したという薄っぺらい話に感動的なもの覚える人はいるのでしょうか?薄っぺらい話を出したせいで緊張感…
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