第二十三話
一五二一年四月 越中氷見 城ヶ崎城建設予定地
よく晴れたとある日、僕は部下達と城ヶ崎城を築城普請を行う予定地の視察に来ていた。
「ふむ、中々良さそうではないか。」
発言の主は畠山義総、そう、義兄上である。
この義兄殿はもう一週間は氷見に滞在している。
一体いつまでいるんですか? 等と言いたいものだが、義総と一緒に馬に乗ってはしゃいでいる芳の顔を見ると中々それも言えない。
「ここに城を普請するならそうだな、海側に本丸を建ててその周囲に郭を重ねていけば良いな。近くの集落まで総構えにすればかなりの規模に出来そうだ。」
確かに山城に出来る部分だけでは大きな城にはできなさそうではあるが、城下の集落まである程度障壁や堀で囲い込めば城郭を大きく出来そうだ。
「義兄上、出来れば築城普請の職人をお貸し下さいませぬか?」
「おお、もちろん良いぞ。熟練の者を準備しよう。」
「ありがとうございます。」
城に関する知識はこちらには無いから、ここは畠山義総の力を借りないといけないな。
城の設計については狭間とかいろいろと工夫したいところだけど鉄砲伝来からは二十余年も前だし、とりあえず矢狭間を開けておくのと、鉄砲狭間っぽい丸穴も空けておいて貰おうかな。
僕達一行は一通りの視察を終えた後、周辺集落の状況確認や民への慰問を行い、この日の行程を終えたのであった。
◇ ◇ ◇
「殿、平長光殿がお見えです。」
「うむ、通せ。」
弥五郎改め狩野職信が片膝を着きながら僕に声を掛けて来た。
平長光は遊佐総光の郎党だ。
有能だと言う事で紹介を受けたので、僕の名の一字を与えたのだ。
「失礼致します。あ、これは畠山義総様もいらしたので…!?」
入ってくるなり、平長光が平伏した。
「うむ。そう畏まらくても良いぞ。」
「そうそう、もう一週間以上滞在していてな。もういつ帰られるのかと思って…痛っ!」
また義総に頭を叩かれた。
「長職め、近頃どんどん生意気になりおってからに…」
「義弟の頭をそう何度も叩かなくても良いでしょう!」
まるでコントだ。
だが僕はぼけているつもりは無いのだが。
平長光は何とも言えない表情を浮かべていた。
「…それで長光よ。どうかしたのか?」
「はっ。守山城代の殿より、大殿様へご報告にございます。」
遊佐総光は自分の事を城主とは名乗らなかった。
あくまでも自分は僕の城代なのだと。意外と律儀だね。
「報告とは?」
「はっ。山を一つ上りましてございます。」
「そうか。それはどこか?」
「越中蓮沼城に五百の兵を入れ、その周辺の街道まで押さえましてございます。」
「それはでかした!」
僕は思わず膝を叩いた。
蓮沼城はこの当時の北陸道が通る要衝である。
「当方の被害は?」
「大殿より頂きました策にて、ほぼございませぬ。」
「長職よ、それはどういうことなのだ?」
畠山義総が口を挟んで来た。
まあ聞いていれば気になるのは当然だな。
「は。実は遊佐総光へ砺波郡に入り込んできている一向一揆の支配地をかすめ取れないか動いていたのですよ。」
僕は遊佐総光へ指示した策を説明した。
「何と! 一向一揆に偽装した舞台で越中一向一揆の荷駄を襲撃して被害を与え泣きついて来るように仕向け、それに乗じて城を奪っただと!?」
「正確に言えば元々は遊佐の一族の城でしたので、奪い返したという事ですな。越中一向一揆の坊主の指導層は銭を包んでこちらに靡いておるので、そう簡単に露見することも無いかと考えましてな。」
「…うむ、実に恐ろしい策よ。」
畠山義総がうーむと唸った。
「蓮沼を押さえたという事なれば、砺波郡の安養寺より北は我らの勢力下におけました。…まあ俺が総光へ行った策は大枠ですから、それをうまく結果に結びつけたのは総光には褒美を出さないといけませぬな。」
遊佐総光への褒美は何が良いだろうか。
「太刀など良いのではないか? 美濃の関孫六あたりを取り寄せてみるのはどうだろう。」
太刀か。
確かに総光は侍大将を任じているから、良き太刀を持たせれば権威も示せるかもしれないな。
「義兄上、それは良き案でございまする。…伝兵衛、入手できるか?」
「承知いたしました。…早速我が狩野屋の者を美濃へ向かわせましょう。」
「うむ、よろしく頼む。」
…と言う事で遊佐総光へ与える太刀を手に入れるために、狩野屋の手代を美濃へ向かわせた。
この時は思わぬ収穫があるなんて思いもしなかったものだ。
関孫六(孫六兼元)と言うのは岐阜県関市で活動していた刀匠です。
皆さんも包丁で聞いたことがあるのではないでしょうか?
作中の年間に活躍した二代目孫六兼元が有名だったそうです。
全然関係ありませんが私は三月にこの関市にある某インターチェンジに行ってきました。




