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第二話


一五二〇年 五月 越中守山城



その日、僕は越中の地図と睨めっこをしていた。

地図と言っても<現代>の地図にように精巧なものでは無い。とは言え大まかな位置関係は掴むことが出来た。

僕がいる越中守山城は越中平野を見下ろすことが出来る山城(やまじろ)だ。城山は高く周囲は川や湖も存在する要害であり、それなりに堅固な城と言えよう。



「やはり…今年中に再び戦は起きるのかな。」



僕は腕を組んだ。昨年一五一九年末の戦は、後世に名の残ったそれなりに大きな戦の一部であったはずだ。

名前までは思い出せないが、その戦で父・神保慶宗と先日この城を訪れていた椎名慶胤が討ち死にをした。

だがこの二人は同じ時期に討ち死にしたはずで、それも確か一五二〇年末の頃だった気がする。

昨年の戦の時点で僕が越中守山城にいるのも不思議で、(本来は放生津城(ほうじょうづじょう)が神保家の本拠だった筈だ。)少しずつ史実から外れている可能性もある。

もっとも、伝えられている歴史自体が正確ではない可能性もあるが…



「殿、いかがなさいましたか?」

「ん、弥五郎か…」



話しかけてきたのは、僕の小姓として仕える少年だ。

元服前で、名を弥五郎と言うらしい。

おそらくは僕と少し下くらいの年齢なのだろうが、僕は彼の事についてほとんど何も知らない。

薄情な様であるが、越中国人には有名な人物があまりいない気がする。

小島職鎮等はおそらくまだ生まれていない筈だ。

(そういえば、僕・神保長職はいま何歳なんだろう?)



「うむ、僕…、いや…」



<僕>と言う一人称は、まだこの時代には無かった気がする。

やめておくか。



「…俺はいま我が神保家の周りの状況について考えていたのだ。亡き父上の奮戦で畠山・長尾は一度は退けた。だが椎名慶胤殿の新川郡の東の方は長尾方の勢力下にあるようだな。」



僕は地図の新川郡のあたりを指さした。



「左様ですな。確か椎名様は居城の松倉城は維持できておられるようですが、その当方の城郭・砦などは長尾方に通じた椎名長常殿が押さえているようですな。」

「ふむ…」



この弥五郎、中々に聡明なのかな。

僕・神保長職は元服しているから十代半ばであるとして弥五郎はおそらく少し下で元服前と言う事だから、十代前半だろう。

それにしては受け答えがしっかりしているな。



「弥五郎、その方、そのような情報は誰から聞いたのだ?」

「私の叔父が氷見で商家を営んでおりますので、その伝手で情報が入って参ります。」



なるほど。詳しく聞くと、弥五郎の叔父は狩野屋と言う商家を氷見にて経営しているらしい。

そのついでに、弥五郎は飯久保城(いいくぼじょう)城主、狩野某の次男であることを聞くことが出来た。(狩野って、絵師の?)



「して弥五郎。その叔父御に会ってみたいのだが、取り次いで貰う事はできるだろうか? 俺も色々と情報を仕入れたいのでな。」

「かしこまりました。この城の物資も一部を叔父の狩野屋から仕入れておりますので、早速叔父に書を送っておきまする。」

「頼むぞ。…あとは一向一揆か。父上は越中一向一揆と何か繋ぎがあったらしいが詳しくは分からんな…」



一向一揆…。

一向一揆とは浄土真宗本願寺教団によって各地で起こされた一揆の事だ。

北陸においても加賀や、ここ越中でも猛威を振るっており豪族化していた。

父・神保慶宗は主家に背く際にこの一向一揆と関係改善を図っていたようだった。



「一向一揆でございますか…。砺波郡のほうは一向一揆の勢力が強いと聞いたことがございます。」

「その者達と会う事は出来ないかな?」

「何とも言えませぬ…。それも我が叔父に聞いてみましょうか。」

「そうだな。よろしく頼む。」

「かしこまりました。では私はこれにて…」



弥五郎が平伏してから部屋を去っていった。

今から城を作ったりとかは間に合わないので、とにかく味方を増やしていくしかないな。

ひとまずは弥五郎の叔父の狩野屋とやらに期待するとしよう。










主人公・神保長職の小姓である狩野弥五郎ですが、(叔父の狩野屋含め)架空の人物となります。

飯久保城(いいくぼじょう)は実在していてこの城主もこの時期は狩野氏であったと思われるのですが、その時の当主などは分かりませんでした。

神保氏家臣で有名なのは作中の通りまだ誕生していないものばかりで、その他の家臣・国人に関してはとにかく情報が無いです。


先代の慶宗が一向一揆との和解を進めていたのは事実の様なので、架空戦記と史実を織り交ぜたものとなっております。


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