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第十七話


一五二一年 一月 能登七尾城



年が明け、一五二一年一月となった。

史実では起きていた戦が起こらず、ここ数年においては珍しく平穏な新年を迎えていた。

僕は和睦の約定通り、畠山義総へ年始の挨拶をする為に七尾城を訪れていた。

僕の供は城下に待機している百の常備軍の他には侍大将として遊佐総光、狩野屋伝兵衛、狩野弥五郎、そして神保家客将として椎名慶胤を連れてきていた。畠山義総に、椎名慶胤を越中新川郡の守護代として認知してもらうためだ。



「うーむ、まさか僅かひと月でまた七尾城に来ることになるとはの。」



遊佐総光がポリポリと頭を掻きながら言った。

まあ立場は違うけどね。

謁見を待つ能登畠山家の家臣達からの視線を感じるのは、致し方のない事だな。



「俺は総光を侍大将として召し抱えたのだから、当然では無いかな?」



僕は横目で遊佐総光の方を見て言った。

さすがに主従になったので、呼び方・話し方は改めることにした。



「殿がそう言っていただけるのは有難き事にござるが…」

「七尾に来るのに百の兵も連れて来たのだから、それなりに箔も付いたものだろ?」

「それは、まあ、左様でございますな。」

「おや、あれは長尾道一丸殿であるな。」



神保家がいる場所から対面側の視線の先には、長尾道一丸がいた。

能登畠山家と長尾家は同盟関係であるから、その使節団としてここに来たのだろう。

定期的に送っている薬が効いているのか、顔色も良さそうだ。

義総への挨拶が済んだ後、タイミングが合えば話しかけるとするかね。

そうこうしているうちに、能登畠山家当主、畠山義総が謁見の間に入ってきた。



「皆の者、大儀である。此度は珍しく平穏な年始を迎えることができ、能登畠山家当主として嬉しく思うぞ。」

「ははっ!」



重臣達が平伏をした。僕達もそれに倣った。

長尾道一丸は同格の立場として来ているから、浅めに首を垂れていた。

それからは来客や重臣たちが順番順番に一言二言の挨拶をしていた。

こういう挨拶は儀礼的なものであるからもちろんその挨拶はするが、それに時間を掛ける事は出来ないものだ。

年始の挨拶を済ませ、僕達一行は一旦謁見の間を辞した。

控室は少し離れたところを与えられているので、とりあえずそこへ向かう事にしたのだ。



「長職殿!」

「おお、道一丸殿。昨年の八月以来ですな。」



話しかけてきたのは長尾道一丸だ。

こちらから挨拶に行こうとしたが、向こうから来てくれるとは。

後ろには数名の供がいるようだが、この時代の長尾家家臣は分からないな。

年代的にはもうあの有名な宇佐美定満はいるはずだが、この時代は越後守護上杉家が存在するから、まだそっちの家臣かな?



「その後お加減はいかがですか?」

「はい! 長職殿が届けてくださる薬のお陰で、かなり元気になり申した。その節はありがとうございます。」



長尾道一丸が僕に頭を下げた。

それを見た供が訝し気な表情となった。

まあ本来は敵方の人間に若君が頭を下げるのは奇異なものに見えるのかもしれない。



「お役に立てて何よりでござる。」

「長職殿もあの後、芳姫様とご結婚なされたようで、おめでとうございまする。」

「いやはや、ありがとうございます。」

「私の申した通り、結婚して良かったでありましょう?」

「うむ、ああ、あれは中々の女子でございました。」



僕の嫁、我が神保家のアイドル、芳姫。

今日はここには連れて来ていないが、今頃家中に愛想を振りまいている頃だろう。



「おうおう、我が義弟(おとうと)に道一丸殿。このような廊下で何を立ち話しているのだ。」



年始の謁見を終えたのだろう。

畠山義総がこちらに歩いてきた。



義兄上(あにうえ)、お疲れ様でございます。」

「うむ。廊下で立ち話等せず、我が居室へ参るが良いぞ。道一丸殿もな。」



そう言うと義総は僕の後ろに控えていた遊佐総光を見た。



「総光よ、息災か? と言っても越中へ送り出してまだひと月であるが。」

「御屋形様…、いえ、畠山義総様。某は殿より守山城代と侍大将の任をお任せいただいておりまする。」

「ほほ、そうか! それはめでたき事よ。」

「義総様は、某をお恨みではありませぬか?」

「何故だ? まあ確かに俺とは道を違えたが、お主程の一廉の将が輝けるの場があるのは素晴らしき事よ。総光、義弟(おとうと)をよろしく頼むぞ。」

「はっ、かしこまりました。」



遊佐総光が一礼した。

畠山義総は遊佐総光の実力は認めていたのだろう。

畠山家中においては、活躍の場が無かっただけなのだ。



◇ ◇ ◇



その後、僕と道一丸は畠山義総の居室へ通された。

供はそれぞれ1名ずつのみ許されたので、僕は弥五郎を供とすることにした。

道一丸の供は…中条藤資(なかじょうふじすけ)と言う男だ。

某歴史ゲームで名前は聞いたことがあって、それなりに有能な武将であったはずだ。



「うーむ、しかし家臣共からの年始の挨拶と言うのも肩が凝るものであるな。」



畠山義総は右肩に手を当てて首を回した。



「あ、それは父・為景も申しておりましたな。…ねえ、長職殿もそう思われませぬか?」

「え、ああ、私の所はそれほど家臣もおりませんので…」

「あ、えっと、何かすみませぬ…」



まさか戦国の世でこの様なやり取りをするとは思わなかった。

これはいろいろな時代で共通なのか?



「そ、そうだ、義兄上(あにうえ)。お願いしたい義がございまする。」

「む、なんだ? 長職よ。」



僕は弥五郎に視線を送ってから義総の方に向き直った。

弥五郎も僕に倣った。



「私の小姓の狩野弥五郎を元服させようと思っておりまして、もしよろしければ義兄上(あにうえ)に弥五郎の烏帽子親になって頂きたく、お願いの義でござりまする。」

「ほう、それはめでたきことよ。俺で良ければ是非ともやらせてもらうぞ。」

「あ、有難き幸せにござりまする!」



弥五郎が涙声で礼を言った。

余程感激をしたのだろう。



「その方、狩野弥五郎と言ったか。元服後の名はそうだな、長職から一字拝領して、狩野職信(かのうもとのぶ)と名乗るがよかろう。」

「ははっ!」



僕と弥五郎が平伏した。

この数日後、元服の儀式を終えた弥五郎は、狩野職信かのうもとのぶと名前を変えたのであった。








中条藤資は実在の人物です。越後守護上杉家の家臣でありましたが、長尾道一丸の父、長尾為景と協力関係にあったと言われております。

某ゲームではそこそこの能力を持ち、顔グラが白髪のおじいさんであった記憶があります。

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