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第十五話


一五二〇年十一月 能登七尾城 評定の間



翌日、七尾城評定の間は何とも言えない空気に包まれていた。

ここに集結しているのは能登畠山家の重臣、家臣達。

顔を紅潮させているのは遊佐総光(ゆさふさみつ)だ。

遊佐総光(ゆさふさみつ)は本来は遊佐惣領継ぐべき嫡流であるが、この時代は庶流豊後守家がその地位にあった。それでも遊佐家中において大きな力を持つ武将で、畠山慶致派と目されていた。

その他にも温井や三宅等の重臣もいた。

僕は正確には畠山家家臣では無いので、少し離れた入口近くの末席に控えていた。

時折視線を感じるが、隠岐統朝等の義総派の家臣を除き、歓迎のそれでは無いように思えた。



「者共、大儀である。」



評定の間に当主・畠山義総が入ってきた。

家臣一同が平伏した。

もちろん、僕もそれに倣う。



「御屋形様!」



大きな声が聞こえた。発言したのは前述の遊佐総光だ。



「何じゃ、総光。」

「此度はいったいどのようなっておるのですが!? 我等が演習にて七尾から離れてる間に慶致様を廃する等と…。納得行く説明を頂きたい!」



遊佐総光の問いに、畠山義総があからさまに不機嫌そうな顔を浮かべた。



「簡単な事よ。父上には隠居頂いたのだ。」

「それは何故にございますか!?」



遊佐総光の顔は怒りにますます赤くなっていった。

まるでタコ坊主だ。



「父上が二元政治を行ったからよ。俺に意見するのなら構わぬが、好き勝手にやられるのを正したまで。」

「しかし、信義に反するものですぞ!」

「総光よ、お主も父上と同じような事を言うのう…」



畠山義総が首を振った。



「我が家中は長らく先代様と父上の間で権力抗争が行われてきた。そこに信義等あったのか?」

「そ、それは…」

「混乱が長引けば、苦しむのは民だ。どこかで終止符を打たねばならぬだろう。」



畠山義総は遊佐総光に近付き、その首の付け根に扇子を当てた。



「お主はどうしたい? 父上に殉じて戦いたいと言うのであれば、相手になるぞ。」

「ぐ…ぬ…」



遊佐総光が閉口した。その拳はブルブルと震えていた。



「お主等はどうするのだ? のう温井、三宅よ。」



温井や三宅など、呼ばれた重臣達は平伏したまま動かなかった。

その姿からは、さすがに表情まで読み取ることが出来なかった。



「此度の乱は俺の独断だ。だが俺は正しい事をしたと思っている。もし俺の意に賛同できぬと言うのであれば、この場を去って自領で戦の準備をすれば良かろうよ。…連れてこい。」



義総が合図をすると、拘束された義総の弟、畠山九郎が部屋に入ってきた。

家臣達がざわついた。



「九郎よ。この場においてお前への沙汰を決めようと思う。」

「・・・」

「お前にまずは選択肢をやろう。」

「選択肢だと…?」



畠山九郎が義総を睨みつけた。



「言ったように、父上には政治(まつりごと)から離れていただいた。もう二度と畠山の中枢に戻ることは許さぬ。」

「く…」



畠山九郎が苦渋の表情を浮かべた。

先にも述べたが畠山九郎の家中における力は強くない。

慶致がいたからこそ、庶流の嫡男に納まっていられたのである。



「総光にも言ったが、俺に背くと言うのならここを去るが良い。いったんは見逃してやろう。



史実であれば後の世で加賀へ出奔したのだがどうするのかな。

出奔するとすれば、史実より十年以上早いわけだが。



「…兄上に従いまする。何卒、お許し下され。」

「そうか。」



これは意外だ。

あるいは今は背くチャンスでないと考えたか。



「ならば九郎には父・慶致の家を継ぐことを許す。が、所領は没収する事とする。身柄は西谷内殿(=畠山家俊(はたけやまいえとし)の事)に預けるものとする。今後能登の為に何が出来るか、静かに考えるが良い。」

「ははっ…」



畠山九郎は頭を下げた後、近習に連れられ評定の間を退出していった。



「者共よ。俺は忠義に厚い臣からの言葉は無下に扱わぬ。俺の命に何もかも従うとは言わん。意見があればその都度述べるが良い。」



畠山義総が家臣達を見渡した。



「讒言も心して聞こう。畠山家中に従順な無能は要らぬ。確と心せよ。」



家臣一同平伏した。

遊佐総光もふとまずは義総に従う事にしたようだ。

だが心中穏やかでは無いだろうな。



◇ ◇ ◇



「長職よ。」



七尾城の廊下にて義総に呼び止められた。



「何でしょう、義兄上(あにうえ)。」

「此度はお主のお陰で物事が順調に運んだ。感謝するぞ。」

「それは勿体なきお言葉で…」



僕は義総に首を垂れた。



「先程は畠山家中の場にて言えなかったが、お主には褒美を与えねばならぬな。何か欲しいものはあるか?」

「そうですな、私は既に一番の褒美である芳を頂いておりますが…」



ママ上を交えた面会の後、僕は婚約相手の芳姫を氷見へ連れて帰っていた。

この芳姫であるが、中々に性格がいい娘だった。

武家の姫であるにも関わらず狩野屋の事業を手伝おうとし、また洗濯や掃除・炊事等もしたがった。



「お義兄さまは私を籠の鳥のように大切にしてくださいましたが、私はいろいろな事に挑戦してみたいのです!」



これが芳の口癖だった。

ここまで来ると氷見の神保家関係者の中でアイドルのように人気者になったのは言うまでもない。



まあそれはさておき、褒美か…。

そうだ、あれはどうかな。



「では義兄上(あにうえ)。畠山家中から誰か侍大将になれる人物を、我が神保家にお貸しいただけませぬか?」

「ふむ…?」

「我が神保家中は些か人材不足でしてな。常備軍を育成するにあたり、指揮に慣れた将が欲しいもので…」

「なるほどな…。分かった。考えてみる故、少し時間を貰おうか。」



義総が腕を組んで頷いた。













義総が起こした乱は一先ず収束致しました。

史実とは違い、畠山九郎は義総に下る決断をしました。

命を取らなかったのは、兄である義総の温情とも言えるでしょう。


遊佐総光(ゆさふさみつ)ですが有名な遊佐続光(ゆさつぐみつ)の父であると言う説がありまして、本作ではそれを作用することにいたします。

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