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第百四十四話


一五三三年八月 越前敦賀金ヶ崎城



気候も暑くなってきた八月、僕は敦賀朝倉家が本拠地としていた越前金ヶ崎城を訪問していた。

かねてからの予定通り、敦賀朝倉家当主・朝倉宗滴と会談を行うためだ。



「長職殿、よくぞ参られた。」

「は、九頭竜殿にはご機嫌麗しく!」



僕は朝倉宗滴に一礼した。



「そんな畏まらずとも良い。まぁまず一杯やらんかね?」



朝倉宗滴が徳利と猪口を取り出した。



「…昼間からにございますか?」

「我が敦賀の地酒じゃ。駆けつけ三杯ともいうじゃろ?」

「三杯は多いですが、まぁ、一杯頂きます。」



僕は朝倉宗滴から酌を受けるとグビっと酒を飲み干した。



「…これは中々にキツイですが、さわやかな味がしますね。」

「そうじゃろう。我が敦賀も名産品が欲しくてな。我が家臣に山崎なる者がおるのだが、その者に命じて敦賀の酒蔵と協力して新しい地酒の開発を命じたのだよ。まだ開発途上であるということだが、中々の出来だろう。この酒で晩酌するのが儂の楽しみでな。」



各地に名物・名産があるのは良い事だ。

それぞれ特色ある産業を育成できれば、経済的にプラスになることだろう。



「晩酌は良いのですが酒の飲み過ぎは体に毒にもなりますから気を付けなされよ。」

「ははは、言ってくれるじゃないか。」

「少なくとも隠居され景紀殿に跡目を譲るまではまだまだ九頭竜殿には北山協定の一員として存分に働いていただかなくてはなりませんからな。」



朝倉景紀も優秀な男だが、まだ朝倉宗滴あっての敦賀朝倉家と言えよう。



「フム…、まぁな。」

「この酒が売り出せるようになったら是非こちらに相談下され。狩野屋の販売網にて、他国にも売り出せることでしょう。」

「ああ、よろしく頼む。」



良い名産品を生み出しても拡販出来なければ勿体ないからな。



「時に長職殿、能登での計画については聞いた。」

「ええ。能登を造船の一大拠点にしたいと思っておりまして。」

「それは交易にとって良い結果を生み出すだろうな。…それと水軍だな。」

「さすが、よく分かっておられる。」



さすがは朝倉宗滴である。

海においての軍事力整備の重要さを分かっているようだ。



「まぁそれについては長職殿と畠山殿にお任せする。必要あれば我が朝倉からも人を出そう。」

「何かあれば相談させていただきます。さて、次に若狭の件ですが…」

「ああ、そう言うと思って呼んでおるぞ。おい、お連れしてくれ。」



ん、誰を呼んでいるのだろう?

しばらくすると小姓に連れられ剃髪した僧が入ってきた。

年齢は僕よりも年上であろう。



「宗滴殿、こちらの御仁は?」

「若狭守護の武田元光殿、今は宗勝(そうしょう)と名乗られているか。」



なるほど。

この僧が若狭武田家当主の武田元光(宗勝(そうしょう))か。

出家はしているがまだ次代の武田信豊には家督を譲っていないんだな。



「ただいま朝倉殿の紹介にあずかった武田宗勝(そうしょう)にござる。神保殿、お初にお目にかかりまする。」



僕の眼前に座った武田宗勝(そうしょう)が僕に向かって頭を下げて来た。



「神保長職にござる。こちらこそよろしくお願い致しまする。」



武田宗勝の挨拶に応じると、僕は朝倉宗滴のほうを向き直った。



「宗滴殿、武田殿をお呼びしたと言う事は?」

「うむ。長職殿がこれから話されたい事に必要な人物かと思ってな。」

「なるほど、そうですな。」



以前から述べているが管領・細川高国の方面へ何かしらの支援を進めていくのであれば、越前の隣国である若狭の安定は重要だ。



「以前より我が武田は朝倉殿の支援を頂いており、その縁を持ちましてこの場にお呼びいただけたものと考えております。」

「武田殿にお伺いしたいのですが、現在の若狭の状況は如何か?」



僕は武田宗勝に若狭の状況を尋ねた。

曰く、現在の戦況は一進一退と言うところらしい。

史実においては若狭武田氏は先代元信とこの宗勝が最盛期となったのであるのだが、細川晴元方との戦に敗戦してから落ち目になっていった。

この歴史においては若狭の隣国に居る丹後一色氏の侵攻を受け、史実よりも状況が悪いようだった。

そこで朝倉宗滴独自の判断(もちろん報告は受けている)により援軍を出し何とか一進一退の状況に持ち込めているとの事だ。



「状況は分かりました。」

「…可能であれば若狭武田としましては更なる支援を頂戴したく。」



北山協定として加賀の状況が良くなってきたことで、軍事的には正直余裕がある。

若狭武田は現在の所陣営加盟国では無いし大規模な支援まではする義理は無いが、前にも述べた通り管領支援の為には通り道であるとも言えよう。



「宗滴殿はどう思われるか?」

「我が敦賀朝倉家としては現在孫次郎を大将として軍を派遣しているが、追加派兵の準備をしておる。数は三千を予定しており、派兵されれば総勢五千となるな。」



なるほど。

北山協定として出兵しない場合でも独自に派兵予定と言う事か。

北山協定は軍事・経済ブロックを目的とした同盟であるが、各国は基本的に対等だ。

僕が盟主と言う事はなっているが様々な面において協議・要請は出来るものの、各国において独自の判断を行う事が認められている。(報告は義務付けられてはいるが。)



「なるほど…。では武田殿に一つ問いたいのですが、よろしいかな?」



僕は武田宗勝の顔を見た。











若狭方面の話が続きます!

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