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第百四十三話


一五三三年七月 越中氷見狩野屋屋敷



「私が七尾の畠山様の所に、でございますか?」

「ああ、そうだ。この書状に認めた内容にて、畠山家(あにうえのところ)との事業を進めてもらいたい。」

「は、拝見いたします。」



僕は狩野屋“市兵衛”に書状を手渡した。

狩野屋伝兵衛の法要も済ませ、重要な会議を行っているのだ。

市兵衛は書状を開き内容を読み始めた。



「こ、これは…!」



書状の内容は、北山協定加盟国として能登畠山家には七尾での造船事業の拡大を進めてもらいたいと言うものだ。

七尾湾は日本海側の沿岸における最大級の内湾であり、七尾港は天然の良港として栄えて来た。

我等越中の氷見も良い港湾都市であるのだが、やはり波も穏やかである七尾には敵わない。

元々造船技術も進んでいるのもあり、僕の腹案としては畠山家(あにうえのところ)に北山協定加盟国の造船基地となってほしいと考えていたのだ。

(造船技術は更に発展していけば、水軍の整備も可能であろう。)



「御屋形様、これは画期的な事業に御座いますな。能登はどうしても農業、とりわけ米の耕地面積に関しては北山協定の他地域よりはどうしても弱い。それについては他国に任せるとして、畠山様には立地の特徴を活かした造船事業に注力していただくという事ですな。」



北山協定各地に海運・交易の玄関口となり得るのは敦賀、氷見、柏崎等いくつかあるのだが、七尾は先に言った立地の特徴から、現在における呉のような造船ドッグを整備していきたい考えたのだ。



「その通りだ。必要な投資については我が越中から拠出できるし、造船に必要な木材等の資材も手に入るからな。市兵衛には七尾を訪問し、その準備を進めてもらいたい。」

「承知いたしました。能登では畠山様や現地造船業者との話し合いになりますが、私としてはどこまで?」

「全て市兵衛に任せる。」

「御意。」



市兵衛は伝兵衛の言う通り優秀な男だな。

書状の内容を見て趣旨をほとんど把握してくれたようだ。

まぁ今までの薬売り(ちょうほういん)としての経験も生きているのだろうな。

畠山家(あにうえのところ)も先の戦で被った被害からの立て直しや温井等の重臣の跡継ぎ問題もかなり解決に進んで来たと聞いている。

重臣温井家の跡継ぎ問題だが激しい対立をしていた総貞の弟達では無く、庶流・彦五郎家の者を当主に据えたようだ。

主君の言葉も聞かずに内紛を続けた総貞の弟達は国外に追放されてしまった様だ。

重臣で家系あっても不義をしたものは厳罰に処されると言う事で、結果畠山家中の引き締めにも繋がったらしい。

結果オーライと言う事だ。



「しかしこれほど重要な事業であれば御屋形様が直接向かわれると思ったのですが…」

「いや市兵衛(おまえ)であれば実力的に信頼できると思ったのでな。」

「そ、それは恐悦至極に御座います。」



市兵衛がサッと姿勢を正した。



「それと俺はこのあと敦賀の朝倉殿を訪ねようと思っていてな。」

「なるほど。管領様と若狭武田への手当と言う事ですな。」



管領・細川高国は丹波八上城にて公方方(くぼうがた)の攻撃を良く耐えている状況だ。

僕の進言もあってか、丹波の波多野氏と上手くやってくれているのも大きい。

とは言えもうじき一年になるからこちらとしても支援のやり方を考えていかなければなるまい。



「その為にもまずは若狭武田だ。」

「委細、承知いたしました。そう言えば御屋形様。我が狩野屋にも公方様からの書状が届きましたぞ。」

「…またか。」



公方・足利義晴はまだ僕達北山協定、とりわけ神保家を自らの味方とすることを諦めていないようだ。

僕宛にも何通にも渡る書状が送られてきていたのだが、完全に無視していた。

それ故に何とか神保家への繋ぎを取りたくて、御用商人である狩野屋経由での連絡を試みて来たのだろう。

一方で、細川高国は何も連絡をしてこない。

そう、薬売り(ちょうほういん)を通して状況を把握てきているからだ。

細川高国は僕に対して信頼を置いてくれているのだろう。

丹波の波多野氏が薬売り(ちょうほういん)の活動を完全に黙認してくれているのが大きい。



「…私ども狩野屋としては公方様からの文は完全に握りつぶしている状況に御座います。」

「それで良い。」

「ああ、ついでに文を無視している事については狩野屋の伝手を持って触れ回っておりますよ。」

「それは最高だな。」



噂話を流すのも情報戦の常套手段である。

神保家が管領方であると見られるわけだが、それは今更と言う事だ。

公方方(くぼうがた)には本願寺教団が味方に付いている訳だが、敵対している神保家に対して文を送り続けていることについて快く思っていないだろう。

噂を流すのは心理戦に意味もあるのだ。



「…では私は準備が出来次第、数名を連れて七尾に向かいまする。」

「うむ、よろしく頼む。必要なものがあれば言って…、いや市兵衛の判断で調達して良い。」

「御意。」

「俺はこの後敦賀へ向かう。何かあれば薬売り(ちょうほういん)を通して、な。」

「畏まりました。」



市兵衛が一礼した。

さ、準備開始だ。








北山協定は能登を造船事業の一大拠点として整備する計画を進めていきます!

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