第百四十話
一五三三年一月 越中城ヶ崎城
この日、僕は我等が神保家根拠地である越中城ヶ崎城で政務を行っていた。
昨年は大きな戦もあったから中々内政に力を入れることが出来ていなかった為、この数日溜まっていたものや今年の方針を決める業務を行っていたのだ。
まず他国がらみだ。
加賀での戦の(神保家側の)後処理であるが、加賀における神保家所領の代官として松波長利を派遣した。
松波長利は越中においては工兵部隊の整備を担当していたのだが後進も育ってきたので、彼には加賀で活躍してほしいと判断したのだ。
その為松波長利は国替えとなったが実質的な加増となった為やる気満々と言う形で加賀へ出かけて行った。
やる気があるのは嬉しい事だ。
定期的に繋ぎを取り、疲弊した加賀の復興に臨んで貰うとしよう。
また安養寺の大谷兼了には配下の僧をアドバイザーとして派遣してもらった。
現在の所加賀の一向門徒は静かにしてくれているが、色々と気配りが必要だろうな。
また同盟他家に割譲となった地については、基本的な統治はそれぞれに任せるつもりだ。
次に畿内の情勢であるが薬売りやその他のルートで収集した情報によると、管領・細川高国と公方・足利義晴の戦は籠城戦となっており、管領方は善戦していて膠着状態になっているようだ。
おそらく本願寺教団側の想定より早く我等北山協定が加賀を平定してしまったことで、同教団内で動揺が発生しているようだ。
とは言え兵力の差で管領方が不利なのは変わらない事から、こちらへ対しての手配りが必要であろう。
同盟国である敦賀朝倉家が支援する若狭方面の情勢が安定すればもう少し出来る事は増える気がするが、朝倉宗滴との調整が必要だろうな。
能登についてはやはりそれなりの混乱がまだ続いているな。
できるだけ早い立て直しを期待したいところだが、今度七尾を訪問して確認しなくてはならないな。
「うーん、やることが多いな。」
僕は思わずため息をついた。
「御屋形様、ため息をついていると幸せが逃げるぞ?」
そう言ってきたのは長岡六郎だ。
長岡六郎は加賀での戦が終結したタイミングで呼び戻していたのだ。
「そうは言うけどな。戦は我が方の勝利で終わったがやらなければならんことが多いんだ。六郎も分かるだろ?」
「まぁそれはな。」
「国が大きくなるとどうしても人が足らん。」
長岡六郎を呼び戻したのはそれもあるわけだ。
「人材か。そう言えばおれが畿内にいた時に世話になった家の三男がいるのだが声を掛けてみようかな。」
「ほう、誰ぞ心当たりがあるのか?」
「まぁな。今度文を送ってみるよ。」
長岡六郎は不思議を憎めない人物であり、不思議と人を惹きつける魅力がある。
まあそれなりに期待して待ってるとしよう。
「さて弥五郎よ。昨年の年貢・税収は如何ほどであったかな?」
ここからは内政タイムだ。
僕は弥五郎から国内各地の状況を受けた。
「ふむ、概ね想定の範囲内と言えるな。」
越中国内の状況は概ね悪くない様だ。
昨年は戦で忙しかったわけだが今年は国内の開墾・治水事業に力を入れていきたいと考えている。
氷見を中心とした国内各地の産業振興は上手くいっており、その資金があるからな。
「御屋形様、直江実綱戻りまして御座います。」
「おお、よくぞ帰った。まずは麦湯でも飲んで休むと良いぞ。」
「は、いただきます。」
直江実綱は一礼すると、侍女から渡された麦湯に口を付けた。
「神五郎。越後の様子はどうかな?」
「はい。上杉様の説得で揚北衆の多くが上杉家の麾下に加わっているようにございます。」
「うむ、それは上上。」
上杉定長は戦を極力使わない方向で国内を平定しようとしているようだな。
それも良い選択肢だ。
「御屋形様、今は越中の国内政策についてお話をされていたようですな。」
「今年は内政に力を入れていきたいからな。そうだ、今年は神五郎にも加わってもらうとするか。」
「はっ。某に出来る事であれば喜んで。」
今年一年はなるべく越中の近場での戦が無いようにしたいものだ。
久々に内政タイムになります。




