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第百三十九話


一五三三年一月 越中城ヶ崎城



「父上、お帰りなさいませ!」



我が愛息、松風丸が大きな声で僕を出迎えて来た。



「松風よ、息災であったか?」

「はいっ! 母上も杏も元気にしております!」



ふむふむ。

松風丸も母と妹を気遣えるようになったか。



「これは長職さま、お帰りなさい! 申し訳ございません、すぐにお出迎えできず…」



少し遅れて我等の愛娘、杏を抱っこした芳が姿を現した。

芳は子供二人を出産して大人っぽく…はあまりなっていないようだが、ここ最近忙しくてあまり会えていなかったから家族で対面できるのは嬉しい事だ。



「いやいやお前には俺の不在中は色々と苦労を掛けているからな。何か無理はしていないか?」



僕は芳に近付くと軽く頭を撫でた。



「いえ、皆様も変わらず良くしてくださるので…」



芳はそっと顔を赤らめた。



「…父上と母上は相変わらずですね。これが父上が言っていたラブラブと言う奴ですか?」



松風丸が僕達を冷やかすような声を上げた。

こいつめ、両親を冷やかすようになったか。



「松風よ、お前も言うようになったな。」

「父上、僕はもう一人くらい弟か妹が出来れば我が神保家もにぎやかになると思うのですよ。」

「松風、お前な…」



ははは…。本当に言うようになったな。



「な、長職さま。立ち話もアレです。さ、奥の部屋でお休みしましょう!」



顔を真っ赤にした芳に手を引っ張られ普段休息を取る居室に通された。

何に気を使ったのか分からないが、息子の松風丸は侍女に妹を抱かせどこかに行ってしまった。

まぁ久々の夫婦水入らずの休みだからゆっくりするとしようかな。



「もうあの子ったら…」



そんな事を言いながらも芳がチラチラとこちらを見て来た。



「…芳、こっちに来なさい。」

「はい…!」



芳が僕に近付き体を預けて来た。

久しぶりに感じる愛妻のぬくもりだ。



「松風に言われたからでは無いですが、長職さまが戦場に出られるときはいつも心配に思っていました。武門の妻として失格かもしれませんが…」

「いや、心配かけてすまんな。」

「ねぇ、長職さま。」

「…なんだ?」

「長職さまは側室をお迎えにならないのですか?」



いきなり何を言い出すんだ?

前にも誰かに言われた気がするけどな。



「おいおい、どうしたんだ?」

「松風が言うように神保家の安寧の為にも子が多いのが良いと思いまして…」



まぁ今は戦国の世だ。現代とは違う。

我が越中は国内政策として医療の充実や衛生状態改善を図ってきており他国よりも良い状況であると自負しているが、それでも現代には遠く及ぶものでは無い。

そもそも戦が各地で起きるものであるから命を失うリスクは身近にあるのだ。

それ故に側室を持つのは当然とも言えた。



「しかしな、俺は芳以外の妻を持つ気は無いよ。」

「長職さま…」



俺はハーレムを目指すつもりは無いからな。

我が妻は可愛い。



「ところで松風と言えばそろそろ元服を考える年になったな。大きくなったものだ。」



松風丸は今年で十歳になる。

元服とは概ね十一歳~十六歳ごろに行われる事が多い。

要は成人と言う事になり(いみな)を名付ける重要な儀式だ。



「烏帽子親ははやりお義兄(にい)さまに?」

「ああ、それが良いだろうな。まぁ今は加賀の戦の後処理があるからすぐにという訳にはいかないがな。」



畠山義総(あにうえ)は加賀の戦の後処理で現在大わらわになっていた。

前にも述べたが温井親子や畠山常陸等の重臣・一族の者が討ち死にし兵の半数近くを失ったからだ。



「お義兄(にい)さまは今大変なのですね。」

「ああ。必要に応じて我が神保から支援をしなければならないだろう。」



神保家から畠山家への支援なぞ、十数年前の自分たちには考えられなかったことだ。

現状越中の国力は能登のそれに大きく勝っているのだ。



「松風の件は機会を見て義兄上(あにうえ)に話してみるとするよ。きっと喜んでお引き受けいただけるだろう。」



まぁそれは間違いないな。



「…長職さま。」

「なんだ?」

「今宵はこのまま芳と過ごしていただきたく…」

「…もちろんだ。」



この後の夫婦の時間は誰にも邪魔はされたくないものだ。

とは言え家中のものはいろいろ察してくれたのか、翌朝日が高くなってくるまで誰も部屋を訪れる事は無かった。








神保長職と芳のラブラブ時間も必要ですね!

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