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第十三話


一五二〇年十月 能登七尾真言宗寺院



季節が進んできた十月、僕はついに能登の七尾を訪問していた。史実であれば二ヶ月ほど後には昨年に引き続きの戦が起きるような時期だ。

なお能登国内は畠山義総の父、慶致が未だ健在の為、七尾城では無く七尾郊外の真言宗のとある寺院で会談することになっていた。

…ママ上だが、宣言通り付いてきてしまっていた。久しぶりの外出で高揚しているのか、あたりをキョロキョロと見渡していた。



「おう、長職。二ヶ月(ふたつき)ぶりだな。」

「は、ご機嫌麗しく…」

「あー、堅苦しい挨拶は良いと言っただろう。…おや、そちらの女性(にょしょう)は?」



義総がママ上の存在に気が付いたようだ。



「は、某の母でございます。この度の七尾訪問に付いていくと聞かぬもので…」

「畠山義総様、お初にお目にかかります。息子の長職に目をかけて頂いているようで…」



ママ上が頭を下げながら義総に挨拶の言葉を述べた。



「御母堂、面を上げられよ。長職はいつも面白い事ばかり申すから、俺も退屈せぬよ。」



義総が笑いながら応じた。



「此度は不肖な息子に義妹御を御紹介頂けると伺い、居ても立っても居られず参りました。」

「ははは、嫁見定めに参られたか。今日はたっぷり時間を取っているから、存分に仲を深められよ。」



義総はそう言いながら上座に腰を下ろした。



「御母堂が楽しみにしておられるようだから、まずは芳を呼ぶとしようか。…芳、入るが良い。」



義総が手を叩くと、横の襖を開けて一人の姫が部屋に入ってきた。

髪の毛は現代で言うところのボブの長さで、あどけなさを残した顔と相まって可愛らしい。この時代の女性は髪を長く伸ばすのが一般的であった…はずなので、少し珍しい。

長尾道一丸(はるかげ)が言っていたように、確かに可愛いと思う。

スタイルは…まあ、これからの成長が楽しみと言うことにしておこう。



「お初にお目にかかります、長職さま。芳にございます。」



芳姫が僕の方を見て挨拶をしてきた。



「は、はい。私が神保長職でござる。」



実は僕、あまり女性と話したことが無いのである。実に緊張してしまっていた。



「どうだ、長職よ。中々に器量よしの女子(おなご)だろ。俺の自慢の義妹(いもうと)よ。」

「お、お義兄(にい)さま…!」



芳姫が顔を赤らめた。



「長職殿!」



ママ上が突然立ち上がった。



「この婚姻、必ずお受けしなさい!」

「は、母上?!」



ママ上の発言に僕は目を丸くした。



「だってこんなに可愛らしいのですよ!私はこんな可愛い娘を持つのが夢だったのです。」



ママ上は芳姫を見ながら目を輝かせた。



「ははは、長職よ。外堀が完全に埋まったな。」



畠山義総は上機嫌な表情で言った。




◇ ◇ ◇




「どうだ、微笑ましい光景ではないか。」



畠山義総が庭を見ながら言った。

視線の先では僕のママ上と芳姫が楽しそうに談笑していた。ママ上が時折芳姫の頭を撫でる姿は本当の母娘の様だ。



(あれ)の母親は何年も前に死んでしまったのでな。まだ母親が恋しいのかもしれぬ。…ここまで来て断るとか言ってくれるなよ?」



義総の圧が凄い。まあ、あれを見たら断れないのは確かだ。



「は、芳姫様との婚姻、お受けいたしまする。」

「おお、そうか。それは上上。」



義総が満足そうに頷いた。



「さて長職よ。お主が義弟(おとうと)になった所で、この前も少し話した義兄(おれ)の願いを聞いてくれるか。」

「義総様の御父上様の事でございますか。」

「うむ、父上には御隠居頂く。来月動こうと思っている。此度の其方との和議と婚姻の件で、敵味方が分かってきた。我が方で信を置ける者には粗方声を掛けている。」

「承知いたしました。私の方からは足軽を百、農民兵を四百程動員できるでしょう。」



自領の戦力を空には出来ないから、現状で他国へ派遣できるのはせいぜいこれくらいだ。



「上出来だ。此度の件を成功させるには如何に迅速に動けるかが肝だと思っている。大軍ではそれが難しいからな。長引かせれば内乱の元になってしまいかねん。」



義総の言う通りだ。

先代義元と慶致の争いでは内乱に発展したものだが、避けられるならそれに越したことはない。



「俺が手勢にて父上の御所を制圧する。長職は七尾市街の警備と称して守護代の遊佐を牽制してくれれば良い。その他の家臣にも要所を押さえるように下知しておるところだ。」

「弟御方はどうされるおつもりか?」



ここで言う弟と言うのは畠山慶致の嫡男の畠山九郎等のことを指す。

無論義総の実弟なのであるが義総が先代義元の養子となり当主を継いだことで、その仲は良い状態では無かった。



「…九郎達は俺の意向に従うなら良い。だが逆らうのであれば処断せざるを得ないな。」

「であれば、私の足軽百にて九郎様方の身柄を押さえましょう。義総様は御父上様の捕縛に専念なされませ。」

「頼めるか?」

「は、おまかせください。」



史実では(だいぶ後の話ではあるが)畠山九郎は弟の駿河等と共に義総と対立し、加賀へ出奔している。つまり、独力ではどうにもできなかったということだ。

能登国内にいる現在では、それ程兵力も持っていないはずだ。



「九郎達の居場所は事前に知らせる。」

「かしこまりました。」

「期待している。ああ、それと…」

「何でございましょう?」



「俺の事は義兄上(あにうえ)と呼ぶが良いぞ。」



義総、もとい、義兄上(あにうえ)が上機嫌な様子で答えた。





神保長職のママ上の名前は不明な為作中では名乗りませんので、ご了承くださいませ。


畠山義総の弟には畠山九郎や駿河がおりましたが、作中にある通り加賀一向一揆と共に義総に叛乱しています。加賀一向一揆と結ばないと叛乱できなかったということは、能登国内においては強い地盤は無かったものと考え、本作ではそのような取り扱いとしております。


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