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第百二十四話


一五三一年七月 能登七尾城



梅雨の時期も明け暑くなり始めたこの日、僕は『三越・能登相互協力同盟』の会合を持っていた。

参加したのは『三越・能登相互協力同盟』参加国の当主はもちろんの事、それらに属する有力な家臣達だ。

我が神保家からは侍大将の遊佐総光や松波長利、狩野屋伝兵衛を連れて来ていた。

遊佐総光や松波長利は軍事・内政について頼りになるし、狩野屋伝兵衛は御用商人として財務方面での調整を引き受けてくれているからだ。

ちなみに今回の会合は義兄の畠山義総の居城で開催しているがあくまでも同盟国四家は対等な立場である為、畠山義総(あにうえ)も上座では無く“同じ高さ”で相対していた。



「キャッキャッ!」

「おーおー、これが畠山殿の若君か。可愛いのう! 名は何と言ったかな?」



朝倉宗滴が一人の赤ん坊を腕に抱いていた。

この子は昨年生まれた畠山義総(あにうえ)の嫡男となるべき子供だ。

ついに生まれた子と言う事で、畠山義総(あにうえ)の喜び様と言ったらそれは凄いものだった。



「…次郎にござる。ようやく出来た子にて、我が室もがんばってくれたものだ。」



前にも述べたが、この子供はおそらく畠山義続では無いのだと思う。

畠山義続は史実では畠山義総(あにうえ)の跡継ぎであった人物で生母・生年が不明なのだが、少なくとも今年生まれでは無かったと思われる。

その様な事を考えていると、隣に座っていた上杉定長に肩を叩かれた。



「そう言えば長職殿のところの姫君はお元気ですか?」



そう、畠山義総(あにうえ)の子と数日違いで僕にも女児が誕生したのだった。



「ああ、中々に元気な子でな。泣き声も大きいのだが、松風が兄としての自覚を持ったのか、芳を良く助けてくれているよ。」



我が神保家ではおおよそ戦国のそれとは違う育児が行われている。

仕事の合間を見て僕も出来るだけ育児に参加するようにしているのだが、あれはなかなか大変なものだ。

ちなみに名は(あんず)と名付けた。



長職(おとうと)よ、そなたの姫君だが器量よしに育ててくれよ。」



畠山義総(あにうえ)が口を挟んで来た。



義兄(あにうえ)こそ、次郎殿を暗愚に育成なされますなよ? 我が杏を将来次郎殿の嫁に迎えたいと言っておられるが、暗愚な者の所にはやれませんからな。」

「言ってくれるじゃないか。…まぁそれにはまずは我等がしっかりせねばらぬな。」

「そう言う事です。」



そのような明るい雑談が繰り広げられたわけだがさすがにそろそろ仕事の時間だ。

次郎は畠山義総(あにうえ)の奉公人が他の部屋に連れて行った。



「えー、ごほん。畿内の情勢にございますが…」



僕は咳払いをしてから話し始めた。

で、畿内の情勢なのであるが、ついに公方・足利義晴と管領・細川高国の間での戦闘が勃発したらしい。

史実において同じ時期に大物崩(だいもつくず)れと言う戦が起きてこの戦で細川高国が自刃するわけだが、それとはまったく違うものだ。

畿内の歴史もかなり違うものになってきたわけだ。



本願寺教団(ぼうずども)が公方様に取り入っているわけだな。」

「その通りです。幕臣達にもかなりの賄賂が送られているとか。」



これは戦国の世も変わらないと言う事だ。



「幸いにも北陸においてはかの勢力は加賀に押し込められております。宗滴殿ら敦賀朝倉家が大聖寺周辺まで進出できたのもかなり大きい。」

「それについては我等朝倉としては神保殿に例を申し上げなければなるまいな。」

「いえ、恐縮です。」



敦賀朝倉家と加賀一向一揆の戦いであるが、敦賀朝倉家とってかなり有利な状況で講和することが出来た。

大聖寺城およびその周辺のいくつかの城を制圧したことで、加賀の五分の一程を手に入れた状況だ。

停戦を促す文を送るタイミングを上手く調整できたところもある。



「それに景紀めがだいぶ成長してきたものでな。」



朝倉宗滴が目を細めていた。

あの義親子(おやこ)は本物の親子の様だな。



「我が神保家の方では内ケ島家を庇護下に置いていますから、飛騨から加賀への補給路も寸断できております。」



飛騨の内ケ島家は一向門徒であったが我が国の門徒を束ねている大谷兼了(かねあき)を介して統制下に置くことが出来ていた。

飛騨方面にはあまり目を向けるつもりは無かったのだが、結果的に良い方向に向かってくれたな。



「なるほどな。では加賀一向宗(ぼうずども)は海路に頼るしかないから、しばらくは大人しくしているだろうよ。」



それでも脅威には違いない。

厳重に監視していく必要があるだろう。

いや、同盟国で結束して加賀へ侵攻すると言う手もあるのだが(犠牲はそれなりに出るだろうが勝ち目あるはず)、朝倉も講和を結んだわけだし現状そこまでの大義名分が無い。

何だかんだ戦には大義名分が必要だし、公方・足利義晴が本願寺教団と結託してしまったから簡単に攻め込むわけにはいくまい。

今は表立って幕府と対立するタイミングでは無いのだ。



「私としては当面管領・細川様を水面下で支援していくべきかと考えております。」

「我が朝倉から若狭武田への支援も上手くいっておる。」



史実と違って管領・細川高国はそれなりに勢力を残しており、協力者もいるようだ。

これならまだ戦えるだろう。

僕の忠告を聞き入れてくれたのかな。


権威的には公方の方が強いはずであるが、自身を押し上げてくれた細川高国に対して戦闘行動を起こした足利義晴への評判はあまり良くないかもしれない。

畿内はこれからどうなっていくのだろう…?















ついに畿内で管領と公方の諍いが発生してしまいました。

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