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第百二十三話


一五三十年八月、越前朝倉家による一向一揆討伐が開始された。

史実における越前国内での一向一揆との戦いと言えば、一五〇六年の九頭竜川(くずりゅうがわ)の戦いが思い出される。

この九頭竜川(くずりゅうがわ)は越前九頭竜川にて朝倉宗滴を総大将とする朝倉氏と、加賀や越中等北陸の一向一揆衆との戦いであった。この戦いでは相当な数の一向一揆が加賀より越前へ侵攻を行い、これに対し朝倉宗滴を総大将とした朝倉軍が九頭竜川をはさんで対峙した。

そして夜半に朝倉軍が奇襲を掛けて一向一揆軍を撃退したと言うものだ。

この歴史においても同じような戦いが起きたようだが、どうやら越前国内の一向一揆衆を駆逐するには至らず、加賀との国境付近に幾分の勢力を残してしまったらしい。

とは言え、周到に準備された今回の戦いでは終始朝倉軍が優勢に戦いを進め、その軍勢は越前・加賀の国境を突破していた。史実においては一五五五年に朝倉軍による同様の侵攻が行われたのだが、それよりだいぶ早くそれが起こった形だ。



「勝どきじゃ!!」

「「「「おおおおおおおおおお!」」」」



そして年を明けた一五三一年三月、朝倉景紀を総大将とした朝倉軍が加賀国江沼郡にある大聖寺(だいしょうじ)城および近傍の日谷(ひのや)城等を制圧したのだった。




一五三一年四月 越中城ヶ崎城



その日僕、神保長職が相対していたのは公方・足利幕府から派遣されてきた使者であった。

この使者はおそらく近江国に居る幕臣の永田某と言ったか。

傍らには加賀一向一揆衆の僧が随伴していた。

おそらくはここに来る途中に加賀で一向に加わったのだろう。



「使者殿は此度如何な御用で参られましたか?」



通常であれば幕府の使者と言えば上座に座らせるものなのだが、本日は敢えて対面・あくまで並列の扱いとして臨んでいた。

使者の永田某はその扱いにも些か不満そうな表情を浮かべていた。



「…公方様は此度の朝倉家による一向門徒への狼藉について懸念し、心を痛めており申す。この狼藉と止めるべく、越中守護職神保右衛門佐殿の働きを望んでおりまする。」

「ほう…?」



僕は永田某の横に控える僧に視線を向けた。

そしてすぐに視線を永田某に戻した。



「それについては越前“守護”の朝倉太郎左衛門尉殿から聞き及んでおりまする。太郎左衛門尉殿は国内の治安を乱す反乱分子を誅するための軍事行動と聞いていますが…」

「な、何じゃと!?」



永田某の傍らの僧が色を成した。



「なれば何故に朝倉は国境を侵し、大聖寺まで進出してきたと言われるのですか?」

「…元は言えば加賀の一向門徒から越前に侵攻したのでは無いかな?」

「そ、それは迫害された門徒を保護するなればこそ!」

「ふん、笑止な…」

「ぐ、うぬぬ…!」



僕は僧の言葉を鼻で笑った。



「右衛門佐殿。我等は貴殿と言い争いをしたいわけではござらん。此度の戦いを止めたいと言うのが公方様の御言葉にございまする。」



永田某が慌てた様子で僧を制しながら言った。



「まぁ公方様の御言葉には一理ありますな。某とて無用な争いは望みませぬからな。」



僕はそこまで言うと、傍らに置いてあったお茶をグビっと飲んだ。



「朝倉太郎左衛門尉殿は我が『三越・能登相互協力同盟』の同盟国ゆえ、使者を出すのは吝かではござらん。」

「で、では…」

「朝倉殿にはひとまず現段階の戦線にて戦いと止めるようにとの文を認めましょう。」

「な、何!? 貴殿は大聖寺などを朝倉に譲れと言われるのか!!!!??」



僧が再び色を成した。

立ち上がって殴りかかろうとするような勢いだ。



「しかし不思議な事であるな。我が領民にも一向門徒は神保家との諍い等無く、それどころか神保家に合力してくれていると言うのにな。」

「奴等は本願寺教団の統制が効かぬ者共にて…」

「それよ。貴殿等は自らに従わぬ者は同門であっても仏敵とし討伐対象にするのだろう? それはご都合主義と言うのだよ。」

「ぐぬぬ…」



僧が拳を強く握りしめた。



「使者殿、話は終わりにござる。先程の内容にて朝倉殿に文を出しましょう。…ところで。」



僕は改めて使者の永田某に視線を向けた。



「管領の細川道永様は御元気でいらっしゃいますか?」

「道永様については某の知る所にございませぬ。」

「左様か。…では朝倉殿への使者については先程の通り対応する故、公方様にお伝え申し上げよ。」

「…承知致しましてございます。」



永田某が苦虫を噛み潰したような顔で応じた。



「さて本願寺教団には我が神保家の気持ちとして銭十貫文を寄進いたしましょう。お持ち帰りになるが良い。ささ、おさがり下され。」



永田某と僧は追い立てられる様に部屋を後にしていった。

さて一応は公方・足利義晴の顔を立てて敦賀朝倉家には間違いなく文を出そう。

ま、その時期は少し遅めにしておくか。

あくまでも『現状の位置』で戦いを止める要請だからな。


僕は薬売り(ちょうほういん)に出来るだけ朝倉家に有利な位置で文を届けるべく指令を出した。









文中の通り、史実でも朝倉家は加賀に侵攻しています。この歴史では同盟によってその時期がかなり繰り上がった形です。

管領の細川高国(道永)は反本願寺ですから、間接的にもその支援に動いた形になりますね!

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