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第百二十一話


一五三十年五月 越中氷見某所



今日はそれなりに目出度き日だ。

色々な事情があって先延ばしになっていたのだが、神保家家臣となっていた長岡六郎の婚姻の義が行われていたのだ。



「ぷ、くくく!」

「ちょ、御屋形様!そこまで笑わなくても良いだろう?」



正装に身を包みカチンコチンに緊張している長岡六郎の姿を見て、僕は思わず吹き出してしまった。

雅な家の出である長尾六郎であるから正装が似合っていないわけでは無いのだがな…。

それでも京の都を離れすっかり田舎生活に浸かってしまったということだ。



「六郎様!青姫様が参られたぞ!」



大きな声で長岡六郎に話しかけたのは柿崎誠家(のぶいえ)だ。

越後から長岡六郎の郎党として来てから一年余り。

この二人は年が近い事もあり六郎、弥次郎と呼び合う仲になった。



「お、おう。」



緊張がピークに達しているようだ。

実に面白い。

少しして白無垢に身を包んだ女性が部屋に入ってきた。

越中長岡家に嫁いできたこの女性は古志長尾家当主、長尾豊前守房景の娘、名を青と言った。

眼前の青姫が史実において上杉謙信の生母である青岩院(せいがんいん)である可能性があると言う。

もっともこの歴史では長尾為景が既に故人であるから上杉謙信が生まれる筈も無いのだが、長岡六郎より少し年上であるこの女性は年齢的にそうかもしれない、と言う事だ。

この青姫は整った顔の美人であるが中々に気が強そうな女性だな。



「お、義父上(おちちうえ)、青! よ、よくぞ参られまし…、あ痛い!」



六郎め、舌を噛んだな。

笑いを堪えるのが大変だ。



「は、ははは。…右衛門佐(うえもんのすけ)様。此度は仲人を務めていただき恐悦至極にございます。」



苦笑いを浮かべた初老の男が長尾豊前守房景だ。

この御仁は正直あまり馴染みがない。

某歴史ゲームにはおそらくほとんど登場したことも無く、狩野屋伝兵衛が言うには史実では基本的に長尾為景に従っていたようだ。

古志長尾家自体も上杉景勝あたりの時代に滅んでしまったらしい。

それでも長尾一門衆としては上位の家柄で間違いないようだ。



「我が家臣である長岡六郎も良き縁を結ぶ事が出来たと言うものに御座る。それどころか、青殿は六郎にはいささか勿体無き女性に思うが。」

「いやはや、青は些か行き遅れにございましてな。良き家へ嫁げるか心配しておりましてな。い、痛っ!」

「父上、御殿様に余計な事を言われますな!」



どうやら青姫は自分の父親を強くつねったようだ。



「…しかし(わたくし)の旦那様になられる六郎様は良き御家の出であられるが、些か頼りないように思えますね。」



青姫が長岡六郎にキッとした視線を向けた。

…我が愛妻の芳とは正反対の性格だな、恐ろしや。



「青殿はやはり結婚を御家柄で考えられるのかな?」

「…これは右衛門佐(うえもんのすけ)様。武家である以上、それは当然なことにございませんか? 右衛門佐(うえもんのすけ)様の奥方様も名門畠山家の御出身でらっしゃると思いますが。」

「それはそうだけどな。」



この時代は政略結婚が当然のように行われていたから、そういう考え方がある意味常識であったのは間違いない。



「だがそれだけではつまらぬだろう? 違うかな?」

「それはそうにございますが…」

「我が家臣の長岡六郎は頼りないように見えるかもしれんが、俺はそれなりに信を置いているつもりだ。まぁ、それなりにだがな。」


「ぷ、くく!」



今度は柿崎誠家(のぶいえ)が口を押さえながら吹き出した。



「あ、あの、御屋形様? 御屋形様はおれを褒めようとしているのか、けなそうとしているのかどっちなんだ?」

「ははは。もちろん精一杯褒めて助け舟を出そうとしたに決まっているじゃないか。」



僕は笑いながら長岡六郎の肩を叩いた。

青姫の方をチラッと見ると、少し表情が柔らかくなったように見えた。

その後長岡六郎の結婚式は宴会まで含めて、つつがなく行われたのだった。
















長岡六郎の結婚式会でした!

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