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第百十八話


一五二九年四月 能登七尾城

<畠山義総視点>



「わはははは! もう飲まんのか、定長殿よ。」

「ひ、ひいいい。もう勘弁してくださいいいい…!」



酒瓶を持った軍神・朝倉宗滴が上杉定長に絡んでいた。

今日の日中、俺・畠山義総と義弟の神保長職、そして眼前の二人が一堂に会し、能登・越前・越中・越後の四ヶ国による同盟/陣営を組むための話し合いが行われていた。

そして今はその後の酒宴が行われているという訳だ。

それぞれが連れて来た家臣達も含め、まさに無礼講の酒宴となっていた。



「ふうむ、軍神殿もかなりご機嫌だな。」



俺は朝倉宗滴と久しぶりに会ったわけだがこの御仁は相当な威厳と言うか風格がある人物だ。

俺もそれなりに胆力がある方だと思っていたが、それでもかなり緊張したものだ。

それが酒の力と言うのもあるがここまで陽気な人物だとは思わなかったな。



「そう言えば長職(おとうと)がおらんな。」



乾杯の時には一緒にいた筈だが気付いたら席を外していたようだ。

酔い覚ましで夜風にでも当たっているのかな。

あいつは酒があまり強く無いからな。

俺は水の入った竹製の水筒を二つ持ち部屋を出た。

長職(おとうと)は少し離れた部屋の縁側に腰かけていた。



長職(おとうと)よ、ここにいたか。」

「これは義兄上(あにうえ)。」



長職(おとうと)が崩していた姿勢を正そうとした。



「良い。今夜は無礼講だからな。」



俺は長職(おとうと)の隣に座った。



「軍神殿もかなり盛り上がっておったぞ。」

「朝倉家の内訌(ないこう)も集結した事ですから、その反動もあるやもしれませんね。」

「うむ、そうだな。…水を持ってきたが飲むか?」

「頂きます。」



俺は水筒を一つ渡した。

長職(おとうと)は水筒の水をグビっと飲んだ。



「しかしまぁ、お前が提案して来た四ヶ国同盟には少し驚いたよ。」

「そうですか?」

「…正直俺には全く思いつかぬものであった。」

「まぁ中々単独ではこの乱世、生き残るのは難しいですからね。」



長職(おとうと)はあまり表情を変えずに答えた。

この男はあまり特別な発想だと思っていなかったようだ。



「…長職(おとうと)よ。せっかくだから一つ聞いても良いかね?」

「は、何でしょう?」

「お前はいったい何者なのだ?」

「…それはどう言った質問でしょうか。」



長職(おとうと)はここで初めて表情を変えた。



「いや、お前は俺の義弟として我が畠山家に対しても良くやってくれているし、何より武家の当主・一国の守護として良く国を治めていると思うよ。だが此度の同盟もそうだが…」



俺は一呼吸置いた。



「以前から、何かお前は先が見えている様な気がしていたのだ。それは何故なんだ?」



俺は長職(おとうと)の顔を見た。

長職(おとうと)は少し顔を伏せた。



「…その質問に答えるためには、少し荒唐無稽な話をしなければなりませんが、よろしいでしょうか?」

「もちろんだ。」



荒唐無稽な話? 

長職(おとうと)は何を言おうと言うのだろう。



「…義兄上(あにうえ)の仰るように、俺は“歴史”を知る、今より先の世の記憶があります。」

「先の世だと?」

「…正直説明は難しいです。しかしながら俺は自分自身がどうなるかも知っておりました。俺は必死にそれに抗おうとしているのですよ。」



にわかに信じがたいが、思い返せば神保家が行っていた数々の政策は先進的だった。

無理して考えたものとまでは思っていなかったが、それらは確実に神保家を栄えさせるものだった。

それに便乗して来た我が畠山家も共に大きくなってきたと言えるだろう。



「お前が知る所の神保家はどうなっていたと言うのだね?」

「俺が知る神保家はまぁまだ先の話にはなりますが、周囲の大大名である上杉や武田、そして覇者となる尾張の織田等に翻弄され、衰退していきます。」



上杉…は同盟者の上杉では無いと言う事か。

武田は甲斐の武田かな。

流石に若狭武田では無いだろう。

尾張の織田は、斯波武衛家の家臣にそのような者がいた気がするが。



「…では我が畠山はどうなる?」



仮に長職(おとうと)の言う事が正しいとすれば、畠山家の今後についても知っているはずだ。



「能登畠山家は義兄上(あにうえ)が当主の内はここ七尾を中心に栄えておりましたが、次代から衰退しくことになります。」

「…衰退、それは何故か?」

「気を悪くされませぬか?」

「約束しよう。」



長職(おとうと)は再び水を飲むと話を続けた。



「畠山の次代、俺が知る歴史では義続と言いましたが、上手く家臣団を統率できず…」

「何と…」



まぁそれはあり得る話だ。

元々我が畠山の家臣団はかねてより主張の強い連中であった。

俺が父上を追放してからは何とか平穏無事ではあるが…、その腹の中では反発が無いとも限らない。



「その家臣達は…、いや、聞くのはやめておこう。それで、お前が知る世では我等の同盟の無いと言う事なのか?」

「その通りです。それどころか俺が芳と結婚し、義兄上(あにうえ)と縁を結ぶ事もありません。」

「そうなのか…」



俺は長職(おとうと)と初めて会見したときの事を思い出していた。

長職(おとうと)は何故俺の前に現れたのか。



「お前は先程自分が知る歴史に抗おうとしていたと言ったな? 俺の前に現れたのもそう言う事か?」

「…有体に言えばそうです。あの時俺の周りには敵ばかりでしたから。」

「そうか…」



なるほど。

長職(おとうと)が言う事が正しいとすれば、全てが繋がるな。



「ですがこれだけは信じてほしい。俺は芳を愛していますし、義兄上(あにうえ)も家族と思っております。宗滴殿、定長殿とも友として付き合っていきたいのです。」



今までの長職(おとうと)の態度を見れば、それについては全く疑っていない。



「…信じよう。俺とお前は家族としてもう長い付き合いでは無いか。」

「…ありがとうございます。」



長職(おとうと)が軽く頭を下げて来た。



「時にこの事は他に知っている者はいるのかね?」

「ええ。狩野屋伝兵衛が知っております。…と言うか狩野屋も俺と同じ境遇でしてね…」

「あの御用商人もか。それは強いな。」



思えば長職(おとうと)と狩野屋は阿吽の呼吸で次々と施策を進めて来ていた。

そう考えれば納得だな。



長職(おとうと)よ。俺も畠山を潰したくはない。引き続き家族として力を貸してくれるか?」

「もちろんです。是非よろしくお願いします。」



俺は長職(おとうと)の肩を叩いた。

その後も長職(おとうと)と幾つかの話をし、その夜は更けていったのであった。












お義兄さん視点です。ついにぶっちゃけました。

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