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第百十六話


一五二八年十月 越中城ヶ崎城



「キャハハ、ちちうえー!!!」

「ふごっ!!!」



我が愛息、松風丸が僕に向かって突っ込んで来た。

子供の体力は無限大だ。

そして頭突きを伴う盛大なハグも相当な威力と言える。



「こ、こら。松風!!」

「きゃきゃ!!」



松風丸もはや五歳となった。

前にも述べたがこの時代の武家は乳母や傅役等の育児・教育係を付け、当主たる者が子育てに参加するケースが少ない。

だが僕がいる神保家はそうではない。

僕や愛妻の芳がかなりの面で子育てに参加していた。

もちろんこの間に戦乱や内政でやむを得ず離れることもあったが、それでも極力関われるようにしていたのだ。

子は宝なのだ。



「御屋形様。長岡六郎殿、松波長利殿がお戻りですが、いかがなさいますか?」

「おう、通してくれ。」



越前に派遣していた長岡六郎らが帰還したようだ。

松風丸と遊んでいても特段気にせず謁見を許可することとした。

少しして二人が部屋に入ってきた。



「六郎、長利。良く戻ってきたな。」



長岡六郎らが僕の前に進み一礼した。



「あ、六郎の兄ちゃんだ~」



松風丸が僕の膝から離れ、長岡六郎の横にストンと座った。

この二人はどうも仲が良い。



「これはこれは若。お久しゅうござるな。」

「長岡殿、まずは御屋形様への報告が先でござるぞ。」

「おお、松波殿。そうであるな。」



長岡六郎は松風丸の頭をひと撫ですると僕に向かって姿勢を正した。



「御屋形様。松波・長岡両名、越前より戻りまして御座います。」

「文で概略は聞いておるが、宗滴殿ら敦賀朝倉家が越中国内をうまく平定できたようだな。」

「左様で。支援の礼として丹生郡厨城及び港湾施設の管理を委任されると。」



実質的に越前国丹生郡の一部を神保家に割譲してきたと言う訳だ。

援軍の礼としてはかなり良い条件には違いない。



「しかし宗滴殿も食えぬ御仁よ。確かに此度の朝倉家の内訌は家中に少なからず損害を生み出してしまったが、家中の反対勢力となるべき者共を排したばかりか、朝倉孝景殿らを取り立てて逆に結束を高めた訳だ。」



朝倉孝景に与していた家臣らも軍神・朝倉宗滴の強さに畏怖しただけでなく、その寛大な措置に胸をなでおろした事だろう。



「そしてその同盟者たる我等神保家が治める一定の支配地域を設ける事で、越前国内の引き締めを行う事ができるな。あ、場所的に加賀の一向一揆への備えにもなるという訳か。」



長岡六郎が腕を組みながら続いた。



「ほう、分かってるじゃないか。この一件でお前も成長したか?」

「あ、いえ。おれは此度の遠征で自分の力の無さを痛感したぞ。松波殿や朝倉景紀殿がおられなければどうなっていたことか。」

「お前は俺と同じで武の方は少し欠けている点があるがな。我等が侍大将・遊佐総光の言葉を借りれば、それが分かっただけでも成長したとも言えると思うぞ。」



自分の足りない部分を把握できれば、それは成長に繋がると言う事だ。



「まぁ両名とも此度はよくやった。…褒美を取らそう。六郎はそうだな、以前郎党や嫁となるべき者が欲しいと言っておったな。」

「ああ、言った。御屋形様には誰ぞ当てが?」

「実はな、越後より有力な国人の嫡男を預かっておる。名を柿崎誠家(のぶいえ)と言う。確かお前とほぼ同い年であるが、武に秀でていると聞いている。お前の力になってくれるだろう。」

「お、おお! 真にございますか!?」

「ああ。それと嫁候補も見つけてやったぞ。越後の長尾豊前守の娘だ。上杉定長殿に頼んであるから、段取りを進めてくれるはずだ。」

「お、おおおお!」



郎党と嫁候補…。

長岡六郎は余程感激したらしく、満面の笑みで応じた。

長尾豊前守の娘に関しては会ったことも無いからどのような女子かも分からないのだが。

ま、それを言うのは野暮と言うものだろう。



「さて次に長利だな。お前にも何か褒美を…」

「御屋形様。某に、と言うよりは某が管理させていただいている工兵部隊の装備を、より充実させたく存じまする。」



な、何と言う仕事熱心な事だろう。

これが戦国の梟雄(きょうゆう)と言われた人物なのか…?



「分かった。全てを叶えられるかは分からんが、必要と思われるものを書類にして提出してくれ。狩野屋と共に話を揉むことにしよう。」

「ありがたき幸せにございまする。一両日中には。」

「うむ、頼んだぞ。」



うむ、まっこと頼もしいやつよ。

主としても出来る事を進めて行かないといかないな。



「ねえ、ちちうえー? 六郎のお兄ちゃん? まつなみのおじちゃんもー、遊ぼうよー!」



ああ、愛息がいじけ始めた。



「分かった分かった。仕事の話はいったんこれで終いだな。六郎、長利。今日は泊って行け。夕餉も馳走する故、松風丸の遊び相手になってくれるか。」

「ええ、それはもう。」

「ほんとう!? やったー!」



うむ、可愛い。

我が愛息は実に天使であると言えよう。









頑張っている家臣には報いるものです。

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