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第百十四話


一五二八年七月 一乗谷



オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



ここは越前朝倉家の本拠地である一乗谷城。

現代における福井市の市街地から東方の一乗谷川沿いの谷あいにある山城だ。

その麓には城下町が広がり、応仁の乱以降荒廃した京の都から避難した公家や僧、文化人・経済人等により京文化開花した土地であった。

しかし現在、この一乗谷は恐怖が渦巻いていた。

ここから僅か数キロ西方の平野で大規模な合戦が起きていたからだ。

合戦での両軍の咆哮、法螺貝や陣太鼓の音、はたまた激しい剣戟の音。

一乗谷に住む者はこの音が聞こえてくるような思いを浮かべていた。

いや、実際に聞こえていたかもしれない。

その時、所々怪我を負っている伝令が陣中に入ってきた。



「一大事に御座います!!!」



「え、永平寺に入っていた大野郡司・朝倉景高(かげたか)様の軍が峠を越え一乗谷へ迫っております。」

「孫八郎が…!?」



思いもよらぬ報告に、朝倉家当主の朝倉孝景がガタっと立ち上がった。



「馬鹿な…、大野郡司が我等を裏切っただと…」

「数が如何ほどか!?」

「せ、正確な数は分かりかねますが、三千から四千程と…!」



つまりは大野郡司が動員できるほぼ全軍と言う事だ。

対して軍の主力を福井平野へ差し向けている朝倉宗家の守備兵は千余りしか残していない。

一乗谷の山城の守備に裂くとすれば、眼下の城下町は守れないだろう。



「いったいどういう事なのだ!?」

「何故大野郡司の景高(かげたか)殿が我等に牙をむくのだ?」

「まさか敦賀に通じていたとでも言うのか…」



ここ一乗谷に栄華を築いていた筈の越前朝倉家。

その家臣団が大混乱に陥っていた。

当主朝倉孝景の大叔父にあたる朝倉宗滴が主家を裏切るのもあり得ない事だと皆が思っていた。

しかし数で上回っていた筈の戦いがまさかここまで苦戦する事になろうとは、誰も思っていなかったはずだ。



「…士気の差がここまで出るとはの。いや、練度もそうか?」



越中の神保家がいくらかの援軍を送っていた事は、朝倉宗家も掴んでいた筈だ。

神保家の軍主力は農民兵では無く職業軍人であるらしい。



「…打って出る。」



朝倉孝景が立ち上がった。



「は…? 御屋形様、何を!?」

景高(かげたか)は我等の三倍の兵力で迫っている。そして主戦場も大叔父上に対して劣勢だ。このまま城に座していても命運は開けぬ。藤右衛門尉!」

「ここに!」



孝景に藤右衛門尉と呼ばれたのは一乗谷奉行人を務めた重臣だ。



「お前はここに残り、景高(かげたか)の軍が来たら白旗を上げよ。」

「は…、しかし…?」

「時間稼ぎに無用だ。城下にいる公家共や領民に害が及ばぬようにせよ。景高(かげたか)も弁えているだろう。」

「…承知。」

「その他は俺と共に来い。朝倉家の命運を握る戦いぞ!」



孝景の言葉に家臣達は平伏した。




◇ ◇ ◇




それからどれ程の(とき)が経っただろう?

現代の時間に換算して数十分、いや数時間かもしれない。



ガン! バキ! ザシュ!



戦いの音が辺りに響く度に将兵が命を散らしているのだ。

高い士気と練度でいつしか優勢に戦いを進めるようになっていた敦賀朝倉軍に対して、決死の覚悟で総大将朝倉孝景が打って出て来た朝倉宗家軍。

多少の士気を取り戻した朝倉宗家の軍も必死の抵抗を見せた。



「朝倉孝景様!御命頂戴仕る!」

「おうよ、俺とて簡単に斃れたりせぬぞ!」



迫りくる敦賀朝倉軍の兵に対し、あまり最前線に出ることが無かった朝倉孝景自身も剣を振るい、それを打ち倒す。

朝倉家に於いて朝倉宗滴や景紀らが目立ち過ぎていただけで、決して彼も無能な人間では無いのだ。



「栂野殿、お討ち死に…!」



それでも地力が違った。

一度下がってしまった士気は中々取り戻すのは難しい。

もう少し早く打って出る意思があれば、少しは違ったかもしれないが。



「ぐ、むう…」



敦賀朝倉軍に次第に押し込まれ、朝倉孝景は一度本陣へと戻った。

大叔父上、何と恐ろしい御仁だろう。

孝景はそう思っていたに違いない。

将兵は疲れ切った様子を見せていた。



「御屋形様、これまでにござる。」

「右兵衛尉景隆…」



この人物は読みは同じ「かげたか」であるが朝倉景高とは別人の一門衆だ。



「ふふふ、そうだな。これほど大叔父上や景紀を恐ろしいと思った事は無い。」

「これ以上の抵抗は無駄と存ずる。」

「では我が首を大叔父上らに差し出し降伏するかね? 俺の首一つでこの戦いを終わらせられるのなら安いものよ。」

「…御免!」



ザシュ!!!



景隆の件は孝景の首では無く、その利き腕を捉えた。

激痛の余りか、孝景はその瞬間気を失った。



「…御屋形様の手当てをせよ。朝倉家はこれより白旗を上げる。御屋形様の首を斬るかは、朝倉宗滴殿が判断されるだろう。御屋形様を差し出した褒美を得られるかもしれんな!」

「そうじゃ。これ程の事態になったのは御屋形様の力量不足よ!」



この時本陣にいた数名の家臣はほくそ笑んでいたに違いない。

















朝倉家の内紛はもうじき終わりそうです!

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