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第百十話


一五二七年八月 越中氷見市街



越中城ヶ崎城での会談から数日後、僕と上杉定長は僅かな供を連れ、氷見の町へ巡視に向かっていた。

僕は越中を統べる領主として、出来るだけ領内を見て回る様にしていた。

確かに家臣や薬売り(ちょうほういん)の報告があればある程度の情報は収集できるのだが、実際に見て掴むそれには及ばない。



「長職殿。」

「ん、何かな? 定長殿。」



僕の横で馬に乗る上杉定長が僕に話しかけて来た。



「領民と話をするときは必ず下馬をしてその者の近くで話を聞いておられましたが、いつもそのようにしているのですか?」

「ああ、それか。」



確かに疑問に思うかもしれない、

もっとも僕と同じように領内巡視を行う領主はいるだろうが、僕ほど近くで話をするものはいまい。



「俺は領民の暮らしについて生の声を聞きたいと思っている。周りに配下を侍らせて遠くで話を聞くのでは、彼等は本音で話してくれないだろう?」

「は。確かにそうですが…」

「他国の勢力と争っている地域ではさすがにそうもいかないがね…」



僕は上杉定長に越中の状況を説明した。

以前にも述べた気がするが我が越中では常備軍を設立/育成を行った。

要するに志願兵制度である。

通常この時代は兵士の主力は農民兵であったから、農民は家に武器を所持しているものが多かった。

しかし越中では常備軍がある程度の規模を確保できた段階で、兵士に志願した者以外の家から武器を全て買い取ったのだ。

そして彼等の安全は神保家やその郎党が保証することで自らの職業に専念してもらっていたのだ。

この歴史において長尾為景らを撃退した以降の越中国内は他国よりもかなり治安が安定していると言えよう。



「なるほど。それで彼等は武器を持たずとも安全に暮らし治安も保たれているから、あれだけ領民の近くで話が出来るという訳ですか。」

「越中の国人領主も神保家に恭順してくれて国内の平定が出来たのが大きいな。」

「ふむぅ。国内が荒れている我が越後ではそれはできそうにありません…」



出奔した上杉定実(ぎふ)や揚北衆を抱える越後ではまだ難しいのは確かだな。



「だが常備軍を編成していくのは良いと思うぞ。まぁ、いつでも戦争が出来るからな。」

「フフフ、あまり戦争をしたくなさそうな人が仰ると聞こえ方が違いますね。」

「分かるか? まぁそれでもやるときはやらねばならないしな。」



そんなことを話している内に僕達は狩野屋屋敷に到着した。



「おお、これは長職様に上杉様。ようこそいらっしゃいました。ささ、中へお入りください。」



手代に迎え入れられ、僕達は狩野屋屋敷の奥、いつも狩野屋伝兵衛等と会談をしている部屋に入った。



「伝兵衛、邪魔するよ。」

「おうおう、いつも長職様は忙しい時間に…っと、これは上杉様!」



僕を見るなり悪態をついていた狩野屋伝兵衛がサッと姿勢を正した。



「お前、何だその態度の差は?」

「そりゃ他国の太守には敬意を払わなければいけないだろう?」

「…自国の太守は払わなくても良いのか?」


「ぷ、ふははは!」



僕と狩野屋伝兵衛のやりとりを見ていた上杉定実が笑い出した。



「ははは、あなた方は面白いですね。まるで秘密を共有している昔からの親友の様ですよ。」



まぁ転生者同士という秘密を共有してはいるが…、



「俺と伝兵衛(こいつ)が親友? 勘弁してほしいくらいだ。」

「私もですよ。御免被ります。」


「ははは、実に面白い。」



上杉定実が笑いながら腰を下ろした。



「…しかしあれですね。先程の巡検でも思いましたが氷見は、いえ、長職殿の治世の越中は実に治安が良く商業的にも発展していますね。」

「そ、そうか?」

「ええ。私が長職殿の御父上が存命に頃に見た越中とは大違いですよ。」



それはそうだ。

僕の父がいた頃の越中は荒れに荒れていたからな。



「私も上手く越後を治めていかなければなりませんから、色々と参考にさせていただければと。」

「…そうだな。何かあれば相談してくれ。」



僕は頷きながら応じた。



「そうだ、定長殿。越後の伝手で誰か良き女子(おなご)はいないかな?」

「良き女子(おなご)、にございますか。もしや長職殿は側室をお迎えになりたいのですか?」

「え、俺じゃないよ。俺は芳がいるからな。実は俺の配下の長岡六郎が室が欲しいと言っていてな。」


「何だ、長岡六郎(あのガキ)。急に色気づいたことを言いやがって…」



狩野屋伝兵衛がボソッと文句を言った。



「まぁまぁ。で、その長岡六郎殿と言うのはあの細川京兆家の?」

「ああ、そうだ。知っていたのか。」

「お会いしたことはありませんが、噂で長職殿の家臣になられたと聞いておりました。その長岡六郎殿は今氷見におられるので?」

「いや、今敦賀朝倉家の支援で越前に派遣しているよ。」

「…ふむ。そうですね。」



上杉定長が腕を組んで少し上を向いた。

もしかしたら当てがあるのかもしれない。



「長尾家の分家である古志長尾家の当主、長尾豊前守房景に良き娘がおりまする。本当であれば長尾為景(わがちち)の側室となる予定でしたが…」



上杉定長がそこまで言ったところで狩野屋伝兵衛が僕の肩を掴んで耳打ちして来た。



「(おい、それってもしかして青岩院(せいがんいん)に事かもしれないぞ。)」

「(青岩院(せいがんいん)?)」

「(もしそうだとすれば後に虎御前(とらごぜん)、上杉謙信(長尾景虎)の生母になる女子だ。)」

「(な、何だってー?)」


「あの、お二人とも?」



上杉定長がきょとんとした顔で口を挟んで来た。



「ああいや、すまない。もし可能であればその娘を一度氷見へ連れてくれないか? 六郎が帰ってきたら一度会わせてみたい。」

「承知いたしました。越後に帰りましたら、長尾房景に使いを出しましょう。古志長尾家としても神保家や細川京兆家に縁を結べるのであれば、良い事でありますからな。」



長岡六郎の嫁探しが一歩前進した気がするな!











歴史改編も進んでいきますね!

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