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第百八話


一五二七年八月 越中城ヶ崎城



「暑い…!」



僕は居城である越中城ヶ崎城の執務室で思わず声を上げた。

今年の夏は天候が良いのもあり、どうも暑い気がする。

もっとも現代の様にコンクリートに囲まれている訳では無いから酷暑にまではならないが、それでも冷房が無いわけだから暑いものは暑いのだ。



「何だ何だ、だらしない恰好をしおってからに。」



部屋の中に狩野屋伝兵衛が入ってきた。



「狩野屋、お前は暑く無いのか?」

「そりゃ暑いがね。だが最近俺は暑がる暇もなく仕事をしてるんでな。」



狩野屋伝兵衛はそう言いながら、僕の近くにドカっと座った。

いくら御用商人とは言え、取引相手の武家の主の前に断りもなく座る商人は他にはいないだろうな。



「…まるで俺が仕事してないとでも言いたげだな。」

「違うのか?」

「まあ、三割くらいは当たってるよ。俺の部下は皆優秀で意欲に溢れているからな。」

「そうだろうそうだろう。」

「でも七割くらいはそれなりに仕事してるんだぞ。それなりにな。」



僕は大げさに肩をすくめてみせた。

前にもこんなことを言った気がする。



「…それはそうと長職様の優秀な部下の一人である長岡六郎(あのぼうや)は上手くやってるのかね?」

「ああ。薬売り(ちょうほういん)の報告では長岡六郎らが率いる部隊は越前海岸にある朝倉宗家の城や集落を制圧してまわっているようだ。」

「へぇ。長岡六郎(あのぼうや)にしては良くやっているようだな。」

「宗滴殿には()()()()()()と文を送っておいたから、義息子(むすこ)の景紀殿を補佐に付けてくれているようだから何とかなっているところもあるかもな。」

「ほぅ。至れり尽くせりじゃないか。」



此度、長岡六郎を指揮官として援軍を送るにあたっては事前に文を送っておいた。

まぁ通常先触れはしておくものだが、長岡六郎は初陣だったからな。



「それでも越前海岸に橋頭堡を築くことが出来れば、我々神保家も援軍を送りやすくなるのは間違いない。そうなれば少しでも敦賀朝倉家に有利な状況を作れるかもしれないからな。」



現状では当然のことながら朝倉宗家の方が勢力が大きい。

戦力比で言ったら一対三と言ったところだろう。

それだけに如何に良いところを確保できるかが鍵だ。



「フーム。俺は軍事については門外漢だが、ひとまず物資を運び込める仮設港湾施設を建設してほしいものだ。」

「…松波長利が工兵部隊に当たらせよう。」



戦国時代にも黒鍬(くろくわ)と呼ばれた戦闘工兵の様な者達がいた。

しかしながらその扱いはあまり良くなかった様子で、雑務などを行っていたようだ。

神保家では戦闘支援兵科としての工兵に注目して、騎兵や足軽等と対等な集団としての育成を開始したのだった。

その第一弾として参謀として有能な松波長利に育成を任せ、現在では千名程の人員を擁していた。

おそらくこの歴史、この時代においては最も有能な技能集団であると自負している。



「さて、そろそろ上杉定長殿らが来る頃かな。…お、来たようだそ。」



そう、今日は越後守護となってから初めて上杉定長との会談が設けられていた。



「神保長職殿、ご無沙汰しております。」



上杉定長がにこやかな顔で挨拶して来た。



「ああ、定長殿も元気そうで何よりだ。さ、こちらに。」



僕は上座から降りて上杉定長を迎え、横に座るように促した。

お互い一国の守護になったわけだから、上下関係とかは一切ナシだ。



「失礼仕る。」



上杉定長がそう言って対面に腰かけた。



「時に定長殿、最近の越後の様子はどうかね?」

「ふふ、長職殿は薬売りである程度把握されているのでは?」

「それはそうだがね…」

「あ、いや失礼。ちょっと冷やかしたくなっただけですよ。」



上杉定長がポリポリと頭を掻いた。



「冗談はさておき、越後国内の状況ですが国人衆の多くは私に靡いてくれました。我が方は宇佐美定満が上手く働いてくれましてな。」

「うむ、それは上上。」



ふむ、宇佐美定満は某ゲームの通り有能な武将の様だな。



「もっとも長職殿の取次である直江実綱殿が事前に国人衆に話をして下さったのが大きいと存じます。ありがとうございます。」



上杉定長が頭を下げた。



「しかしながら一つ懸念点がありまして…」

「何かあったのか?」

「…薬売り殿らもまだ掴んでおりませんか。」



我等の薬売り(ちょうほういん)も万能ではない。

今は越後より加賀や越前方面に諜報活動の多くを向けていると言うのもある。

諜報活動に穴が出来てしまったか。



「実は我が義父(ちち)が出奔致しました。私が領内巡視を行っている隙を突かれまして…」

「上杉定実(さだざね)殿が…」



先代守護の上杉定実(さだざね)は残念ながら円満に家督を譲ったわけでは無かった。

娘婿である定長に不満を持っていたのだろう。



「現在居場所を探しておりますが、少なくとも上越後には居らぬようです…」

「揚北衆のいずれかが絡んでいるのだろうか?」

「断言はできませぬが…」



家督相続の経緯から、上杉定実は不満を持つ国人衆、特に独立色の強い揚北衆の一部の旗頭になるかもしれないな。

実に面倒な事だ。



「相分かった。定長殿さえ良ければ薬売り(ちょうほういん)を三名程越後に派遣しよう。あと軍事行動が必要になったら相談してくれ。」

「ありがとうございます。是非お願いいたします。」



越前もそうだが、越後方面にも安定してもらわないといけないからな。

打てる手は何でも打つ必要があるだろう。








久しぶりの上杉定長との会談です!

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