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第十話


一五二十年 八月下旬 越中氷見 狩野屋屋敷



「お主等の金儲けには俺も絡ませろ。」



そう言った畠山義総はニヤリと笑っていた。



「は、それはもちろん構いませぬが…」

「長職よ、お主の事だ。既にいくつか考えておるのだろ?」

「は…。詳細は狩野屋からの説明の方が分かりやすいのですが…」



僕は義総に氷見の産業を発展させるための方策を説明した。

最初はにこやかに聞いていた義総も、次第に真剣な眼差しに変わっていた。



「薬種問屋を構えるだけでは無く、それを土地を回って売りに行くと言うのか。」

「は…。農民などは最初は無理でしょうが、裕福な商人や武家、神社仏閣に行商に向かいまする。定期的に通いながら、使った分・無くなった分だけ銭を頂戴します。客からしてみればいざという時に便利ですし、銭の負担も抑えられるわけです。私共はこれを<置き薬>と名付けました。」



まさに、越中富山のアレのイメージだ。



「なるほど、実に面白い。変わった事を考えるものだの。」

「難点があるとすれば戦場に近いところでは難しいですな。…何しろ薬を置いたところで我が父のように討ち死にした相手からは銭が取れませんからな。」



僕は大げさに肩をすくめた。



「ははは、違いないな。だが安定した町には良い仕組みになろうな。」

「はい。それにその客との縁が出来れば、訪問先で情報収集も出来まする。私としてはそれが一番の狙いでして。」

「相手がこちらに気を許せば銭だけでは無く、情報まで搾り取るか!」

「故に行商人には自衛できる程度の武芸も仕込みまする。いざと行った時には(つわもの)にもなりましょう。」

「…中々恐ろしい事を考えるものよ。」



畠山義総が自らの顎に右手を当てた。



「お主が他国までその仕組みを広げるのならば、そこまで至る足が必要になろう。陸路は加賀等が坊主どもで危険であるから、海路も必要だろう。…よし、俺のほうで七尾の廻船問屋を都合しよう。後に狩野屋へ向かわせるから、好きなように使うが良い。」

「かたじけのうございまする。」

「俺の方も七尾を発展させていきたい。その為にはお主の力添えを頼むぞ。」

「は、かしこまりました。」



畠山義総は満足げだ。

ここまでは120%うまくいったと言えるだろうな。



「そうだ、長職よ。」

「は、何でございましょう。」

「お主は嫁を取らぬのか?」

「ぶっ!!!」



僕は思わず吹き出してしまった。

<現代>でももてなかった僕には、戦国時代でも浮ついた話は無かった。



「ざ、残念ながらその予定はございませぬ。」

「ほう、そうか!」



義総が笑みを浮かべた。まさか…?



「義父義元の側室の娘…、俺の義妹(いもうと)になるが、今年十二になる娘がおるのがどうだ?」

「ど、どうと言われましても…」

「義父が五年前に死んでしまったのでな、そろそろ縁談を決めてやりたいのだが、難しくてな。」



既に死した先代の娘となると、家中の立場も微妙であろう。

状況に応じては髪を下ろす(仏門に入る)こともあるくらいだし。



「先代の側室の娘とは言え、能登守護家の血筋だ。お主にとっても悪く無かろう。」

「しかしながら、まだお会いしたこともございませぬし、ここで即答は…」



<現代>に政略結婚はほとんど無いモノだし、まさか自分にそれが降りかかってくるとは…。

おや、そんなことを話している間に長尾道一丸と狩野屋伝兵衛が戻ってきたようだ。



「戻りました。」

「おお、道一丸殿。薬は貰えたかな?」

「はい、既に飲ませていただきましたが苦い丸薬かと思いましたが、甘い味が付いていて驚きました。」



長尾道一丸が手に持っている薬袋を掲げた。



「その丸薬は子供でも飲みやすいように工夫しておりましてな。ひとまずひと月分お渡ししております。もし継続してご入用でしたら、畠山様にお届けしますので、越後までお運びくだされば。」



狩野屋伝兵衛が説明した。

越中から東に行けば越後へ向かえるが、長尾家とはまだ和睦したわけでは無いからな。



「うむ、承知した。代金は俺の供から受け取ってくれ。」

「かしこまりました。」



狩野屋伝兵衛が一礼した。



「それで義総様と長職殿は何をお話されてたのですか?」



長尾道一丸は少し体調が良くなったのか、明るい笑顔で質問してきた。



「実はな、長職へ俺の義妹(いもうと)を嫁にどうか? と話していたのだ。」

(よし)姫様をですか?」

「ああ、そうだ。だが、長職は少し乗り気では無いらしい。」



畠山義総が大げさに残念がるようなしぐさを見せた。実に大げさだ。



「長職殿!」



それを聞いた長尾道一丸がクルっと向き直って僕に歩み寄ってきた。



「な、なんでしょう??」

「長職殿は是非、(よし)姫様を室に迎えるべきです! あんな器量よしの姫は越後では見られません!」



長尾道一丸が僕の肩を掴んでゆさゆさと揺らした。



「そ、そうなのですか? しかしそれなら道一丸殿が…」

「私は主君の上杉定実(うえすぎさだざね)様の姫を室に迎えることになっています!」

「さ、さようですか…」

(よし)姫様を室に迎えれば、長職殿は義総様と義兄弟になるのですよ!? もし会ったこと無いのにと言われるのなら、まず(よし)姫様にお会いになってください!」



あの長尾晴景がまさかこんなに饒舌にごり押ししてくるとは…。

その後ろでは畠山義総が満足そうに頷いていた。










越中富山のアレですが、前の話で述べたように江戸時代になってから発展したものですので、本作ではそれを先駆けて興していこうと言うものになります。


作中に登場した畠山義元の娘・(よし)姫ですが、架空の人物となります。

畠山義元には確かに娘がいたらしいのですが生年不明ですので、架空の姫を登場させました。

(そもそも畠山義元に側室がいたかも不明ですが…)

なお神保長職の室(妻)は不明ですので、この架空の姫と婚姻することになっても問題無いと判断致しました。


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