第一話
頭が痛い。
こめかみのあたりが酷く痛む。
「お方様!! お方様!! 一大事でござる!!!」
(おそらく)部屋の外から、ドタドタという足音と主に、怒号の様な声が響いていた。
「お方様、失礼致す!!!」
先程の声の持ち主であろう男が、この部屋の中に入ってきたようだ。
僕はうっすらを目を開けた。
視界がぼやけていてよく見えないが、どうやら視界の先に何者かが平伏しているようだ。
「どうしたのです? 慌てた様子で…」
お方様と呼ばれた女性が応じたようだ。
「はっ…、慶宗様、お討ち死に!」
「と、殿が…!?」
女性の悲鳴が聞こえたところで、僕は再び意識を失った。
◇ ◇ ◇
一五二〇年 四月 越中守山城
僕は評定の間において上座に座っていた。
横に控える女性は、おそらく母親なのだろう。
自分の母親の事を<おそらく>などと言うのは訝しく聞こえるかもしれないが、それは仕方ない。記憶が曖昧なのだ。
母が言うには、僕は三月に渡って床に臥せっていたらしい。そこからようやく現在に至る訳だ。
「ははは、宗右衛門尉殿。元気になられたようで何よりだ!」
「は、ええーっと…」
「(椎名新七郎慶胤様です。)」
母が僕に耳打ちした。
そう、僕の目の前で豪快に笑うのは、父の盟友であった椎名慶胤だ。
昨年のここ、守山城の戦いでは父・神保慶宗と共に、越中守護畠山家・長尾家の連合軍と戦ったらしい。
「し、失礼。新七郎殿。だいぶ良くなったとはいえ、まだ全快では無く…。」
「そうか、それはいかんな…」
体調も確かに前回では無い…が、それよりも今自身が置かれている状況に頭を痛めていた。
この数カ月、母や家臣のものから色々見聞きして、状況が分かってきた。
(周り者は僕の質問に訝しげな表情を浮かべていたが、病の為に記憶が曖昧と言う事で何とか納得させ、状況を聞き出していたのだ。)
うん、想像以上にまずい状況だ。
元来越中国は守護である畠山家が治めていたところだ。守護の畠山尚順はほぼ在京していたため、守護代であった神保家や椎名家が実質的に統治を行っていた。
しかし父・神保慶宗は独立志向を強め、眼前の椎名慶胤と共に主に背いたのだった。
結果、昨年の守山城の戦いで打って出た際に討ち死にしてしまった。
僕は嫡男として、越中神保家の家督を継いだわけだ。
「宗右衛門尉殿よ。いつまでも臥せっている訳にはいかぬぞ?。お主もよう分かっておろう。」
はい、十分に分かっておりますよ。
親父殿とアンタが突然主の畠山さんに背いたもんだから、長尾家…長尾為景なんて猛将が出てきてしまったんだぞ?
長尾為景ってあの上杉謙信の父親だぞ?
正直勘弁してほしい。
僕は顔をしかめた。
そう、僕には少しだけ知識がある。
それなりに歴史が好きで、某歴史ゲームやちょっとした歴史小説は読んでいたのだ。
つまり、僕は住んでいた時代から遥か過去、戦国時代の武将神保長職に生まれ変わってしまったのだった。
「は、分かっております。昨年の戦いでは父慶宗の決死の攻撃で何とか畠山・長尾の軍を撃退しましたが、奴等いつまた攻めてくるかも分かりませぬ。…叔父の慶明も虎視眈々と、我が神保家当主の座を狙っておりましょうな。」
「左様。儂の弟の長常はその長尾に靡いているようだ。忌々しい事よ。」
あれ、そう言えば親父殿が死んだのって少し早いような気がするんだよな。
なんとかペディアとか見られれば調べられもしようが、まあそれは無理だな。
「いずれにしましても我が神保家も椎名家も一枚岩ではござりませぬ故、早々に何らかの手を打たねばなりませぬな…」
僕は<心の中で>ため息をついた。
目の前の御仁に、あからさまにそれを見せるわけにいかないからな。
久しぶりの小説執筆は歴史ものです。
とは言っても歴史知識も豊富ではありませんので、色々とミスがあるかもしれませんが何卒ご了承くださいませ。
今回は某歴史ゲームではとなりの強い軍団にのされてしまう神保氏で書いていこうと思います。
主人公の神保長職の生年が分かりませんので、一五一九年の時点で元服仕立てと言う事にしました。
また父親の神保慶宗は一年早く討ち死にさせております。
この小説はIF歴史と言う事で進めて参りますので、今後ともよろしくお願いいたします!!
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