狂気、雷鳴、乱入
「どちらさま?」
「どけ、貴様に用はない。今なら見逃してやる」
振られました。名前が出なかったから知りたかっただけなんだけどなぁ。
【】がついているモンスターはネームドモンスター...つまり二つ名がついているということ。
ネームドは倒すと特殊なドロップがあるので上位プレイヤー達は常日頃からネームド探しに明け暮れているらしい。
「撤退を推奨します、彼の目標はワタシです」
「いやだね、一発ぶん殴ってやる。私は死んでも大丈夫だからあんたこそ逃げなよ」
「異邦人の特異性は理解しています。ですが拒否します」
「まあいいけどさ、てか何アイツ?ストーカー?」
「…類するものです」
「ふーん...おい!デカブツ!」
「なんだ人間」
「気になる子に振り向いてほしいからって付きまとうのはどうかと思うわ!」
「...意味の分からん事を抜かす『異邦人』だな」
黒鬼が不気味に微笑む。
「気が変わった、貴様は殺す」
うわぁ嫌な笑顔。
「質問です。何故怒らせるようなことを?」
「ムカついたから」
コイツは許されないことをした。
「食べ物は大事にしましょうって教えてもらわなかったかぁ?!」
食べ物の恨みを舐めんなよ。
――――――――――
ごめんなさい、許してください、調子乗りました。
これ考えた人バカじゃねぇの?ってなるくらい強えぇわ。
レベル、ステータスの差を考えても圧倒的に手が足りない。今はなんとか二人がかりでしのぎ切るのが精いっぱいだ。
このままだと絶対死ぬ、じり貧で死ぬ。
正直予想通りだけどね。今の私のLvはパックウルフとの戦闘を経て13だ、ステータスポイントも割り振っていないのだ。うん弱いね。
無愛想ちゃん(名前聞いてない)のほうが頼りになりそうだが、戦闘続きで疲弊しているのだろう。動きが悪く致命傷すら食らっていないものの、傷だらけだ。
「10分以上の戦闘継続は不可と判断します。撤退を推奨」
「無理でしょ!逃げれるもんなら逃げたいわ!」
「同意します」
「逃がすわけないだろう!」
轟音と共に金棒が私のいた場所を通り過ぎる。赤く染められた食らえば一撃で沈むような攻撃だ。
隙があれば切り付けてはいるが全くダメージが入っている気配がしない。
無愛想ちゃんの槍は傷を与えられている...が一回通ってからはすべて防ぐか避けられている。
私の斧は避けることすらされない。当たったところで傷すらつかないと思われてんだろう。ムカつくわ。
「あんま舐めんなよ!っと『アンプトン』!」
「効かん!」
「ほんとに効いてる気しねぇなぁ!」
「同意します。損傷は確認できません」
こちらの勝っている点は二人いること。一人が隙を作れればもう一人が攻撃することができる...がそもそも作ったところで攻撃が通らない。
最悪私は死んでもリスポーンできる。だが無愛想ちゃんは違う、NPCは死んでも蘇らないのだ。無愛想ちゃんだけでも逃がしてやりたい。
こんな森の中にこんな時間に一人でいた強そうなNPC...レアな予感しかしない。
このままだと二人とも死ぬんだけどね。
「ここにおったか」
突然、天より響く声。見上げるとそこには白いワンピースを着た少女が浮いていた。ゆっくりと私たちと鬼の間に降りてくる。
「何故ここに...」
「来たか!」
「下がれ、エリス」
「…了解です」
舞い降りた人影の声に反応して無愛想ちゃんが高速離脱していった。
え?私は?とか、誰あんた?エリスって無愛想ちゃん?とか思いつつ振り返りかけたその時。
「エレクトロ・ヴォルテックス」
舞い降りた少女から青白き雷渦が周囲へと広がる。
荒れた大地も、黒き鬼も、鎧の女もすべてを巻き込んでいった。
黒いのの武器は金棒です。金剛棒《朱天》