ゲームスタート
まず初めにご都合主義があること、そして矛盾点や違和感などがあると思います。VR物として、何より小説としても未熟です。そのことを踏まえたうえで温かい目で見守ってください。
合わないと思った人はブラウザバックを推奨します。
楽しめる物を作っていければと思います。
上段からの大槌と下段からの鉞、その間を縫って迫りくる鉄槍の間を掠めるように避け、武骨な鉈を首に叩きつける。
何万と見てきた7本の腕に握られた武器から繰り出される猛攻の中の僅かな隙を突き何千と繰り出し続けた攻撃もこれで最後だ。
「っ!…おらぁ!」
目の前の四面七臂の巨漢の頭が宙を舞い、膝が地に着いた。
次第にその巨躯が崩壊し始める。
「しゃーーーーい!!」
ボロボロと朽ちてゆく身体を横目に刎ね飛ばしたばかりの首と眼が合う。
「じゃあね、まぁ良ボスだったけど二度とやりたくないわ」
半機械の無機質な瞳だったが心なしか満足しているように見えた。
――――――――――
「疲れふぁぁぁぁ…眠...そうだ集合前に…これでいいか」
約二時間にも及ぶ先ほどの戦闘をほぼそのまま動画投稿サイトにアップする。記録用で今は特に編集とかをしていないので簡単な切り抜きから投稿までVR機器ですべてできる。いい時代になったものだ。
時計を見ると既に二十三時前、約束の時間間近だ。
「お待たせ~」
「遅いぞルリ。何してたんだ?」
「ムソウ初期武器ソロ討伐」
「何回目だ、よくやるなぁお前。ガチ装備PTでもギリギリだってのに」
「ちな、TAしてた。最速でたわ」
「そもそもやる奴いねぇよ!」
場所はギルドハウス大広間。集まっているメンバーは7年間このゲームを共に駆け抜けた仲間たちだ。
明日0時、あと1時間もしないうちにこのゲームはサービス終了を迎える。
迷作(個人的)ゲームの『Canibal ISLAND』、食人族住まう広大な島で食人族やクリーチャー、時にはプレイヤーとも戦うことになる、PvPvE想定のVRMMO作品。十数年前に今の最新ゲームと遜色ないクオリティでリリースされVR業界の成長に大きく貢献した作品だ。
同接は多い時で5万程とかなりの規模のゲームだったが最近では100人を下回っているらしい。
所属しているギルドも規模は大きいが7人しか来ていない。いや7人も集まったというべきか。
初期からのメンツは私も含め全員来ているようだ。
過去のイベント振り返りや、倉庫のアイテム全部売却したら幾らになるのかとかバカ騒ぎしながら過ごし時刻は24時直前。
ギルドリーダーの掛け声がかかった。長ったらしい話のあと最後の言葉は
「またどこかで会おうぜ!」
円陣のような形で拳を突き合わせてそう告げた。
その言葉に全員が同意したところで『Canibal ISLAND』はサービスを終了した。
――――――――――
「お姉ちゃん!!」
「…んぁ?」
眼を開けるとカーテンの隙間から差し込む朝日...いやこれ夕日だ。既に夕方の五時だ。
あの後VR世界で交流できるVRWへ移動し大騒ぎして、運営に怒られて眠りについたのが午前五時。実に12時間ほど眠り続けていたらしい。
寝ぼけた視界で周りを見ると声の主が見つかった。
「なんに」
「宅急便!!ここ置いとくからね!!」
あーはいはい宅急便ね…なんか頼んでたっけな
「?...ありがと」
「はぁ…今度は何時まで起きてたの?お肌に悪いよ?」
「んーきをつけるー」
それだけ言い残すと妹は部屋を出て行った、友達と通話でもするんだろう。
ふぁ、ねむ。
さてと、この荷物はなんだろうか。直近で届く荷物はないはずだが。
差出人は...エデン社。知り合いではあるけど何か送るという話は聞いていない。というかそこまで連絡を取りたい間柄でもない。
「よし!開けるか」
考えてたってなにも変わらないしとりあえず開封しようかな。
その前に顔を洗ってこよう...
――――――――――
色々スッキリしてきた私は箱の中身を視てスッキリしなくなった。
中身は...大きめのヘルメットタイプのフルダイブVR機器、結構お高い…というか最新のクソたけぇ奴。それから二年くらい前から人気絶好調だが諸事情でプレイする気のなかったゲームソフト、『GRANT WORLD』。そして...一枚の手紙。長ったらしくお堅い校長の話みたいなその内容を簡潔に砕けた感じにすると。
『神野瑠璃 様
『Canibal ISLAND』でPvEスコア一番高かったからこれ上げるね『GRANT WORLD』つけとくから遊んでね。
『GRANT WORLD』開発責任者 枝園創楽』
「…ストーカーか何か?」
いやまぁ知らない人ではないけど…
枝園創楽。代表作は『Canibal ISLAND』など多くのヒット作を生んだクリエイター。最近は『GRANT WORLD』の開発責任者として名を聞くことが多い。
個人的繋がりがないわけでもない人だが。
…そういえば今使ってる機器も貰ったやつだったな。…怖。考えるのやめとこ。
それにしてもPvEスコアが一番多いとは...ランキングとかはなかったが一位だったということだろう。
さて、このソフトどうしようか。
――――――――――
数分後、私は気づいたらソフトを読み込ませゲームを開始していた。
「はっ!わたしはいったいなにを...」
...まぁやっちゃうよね。
これでもゲーマーの端くれ、いくら苦手な人間が関わってるゲームでもここまでお膳立てされたらやらないわけにはいかない。
「ようこそいらっしゃ...おや瑠璃様ですか?お久しぶりでございます」
「...」
「お忘れですか?ワタクシです『MOTHER』です」
「いや...覚えてるけど...ここでなにしてるの?」
「チュートリアルの案内人。になりますかね」
ログインした私を待っていたのはエデン社統括AI『MOTHER』。枝園創楽が生み出した秘書みたいなものだ。白い光の玉のような見た目をしている。
チュートリアルをしてくれるらしいが...
「こんな仕事もするの?」
「命令ですから。いろんな人間が来て結構楽しいですよ?」
「楽しいならいいけどさ…で、なにから始める?」
「まずはプレイヤーネームを」
「ルリ」
まるっきり本名だがあまり気にしていない、ありふれた名前だし。
「そうだと思ってました。容姿はどうなさいますか?」
「あー見た目ねぇ…」
正直苦手だ、こういうものをうまく作れた事がない。
「おまかせでいい?無難な感じで」
「かしこまりました、では次は初期職業、次いで初期装備を選んでください。こちらがここで就くことのできる職業一覧になります」
結構長めのウィンドウが表示される。
剣士、闘士、戦士、魔法使い、鍛冶師、錬金術師、召喚士、魔物使い...この中でも職業によっては武器種や属性特化などに細分化されていてかなりの数がある。
とりあえず近接で...剣士は最近嫌というほど使ったから...
「はい。戦士(斧)ですね。これ以外にも街中で初期から就ける職業が存在しておりますし、転職は初回なら費用、デメリットなしで可能ですので」
「うん、わかった。これで終わり?」
「まだ一番重要なことが残っています、『デザイアシステム』についての詳しい説明をします」
「あーなんかスキルとか職業くれる奴だっけ」
「…知らないのですか、このゲームのメイン要素なのですが...」
「これあんたの親に送り付けられたんだよ」
「そうだったのですか?今日来るだろうから出迎えてやれと言われており不思議だったのですが...そうですか創楽様が...わかりました詳しく説明いたします」
――――――――――
長かった、要約すると
・デザイアシステムは一人一人個別に千差万別のスキル、職業を与えるシステム。
・デザイアスキルはこの場でいくつか質問に答えこの場で貰う『質問判定』ゲーム内でしばらく過ごす必要のある『行動判定』のどちらか選べる。
・デザイアスキルにもレベルがあり使用していったり本人のレベルが上がっていくと稀に効果が増えたり強化されていき、さらに自分に合ったスキルになっていく。
・デザイアシステムのレベルアップ時に個別の職業が与えられる、最初のレベルアップでもらえる者もいるし、複数回レベルアップを重ねないと貰えない者もいる。これを昇華と呼ぶ。
「...ふーん、ちゃんと自分に合ったの貰いたいし、行動判て、」
「ルリ様はもう決まっておりますよ?」
「なんで?」
「わが社の作品をここ数年やっていましたからねルリ様のデータは潤沢にありますので」
ドヤ顔してそう。顔ないけど。
「...ストーカーってことでよろしい?」
「規約にゲームデータを収集しますとの記載がありますので」
「...」
「...」
「はぁ...まぁいいや」
「ご納得いただけたようで何よりです」
「それでどんなスキル?」
「それはゲーム内でお確かめください」
「...チュートリアルはこれで全部?」
「世界観等のご説明もありますが...」
「パスで」
「だろうと思いました、では以上となります。他にご質問は?」
聞きたいこと...あ、そうだ。
「このゲームってなにすんの?ストーリーないって聞いたけど」
「はいメインとなるストーリーはございません。クエストなどで関連したものが続くことはございますが…大いなる厄災を防いでください。」
「大いなる…厄災?」
「フフ…さて、他にご質問は?」
「それ以上は教えてくれないわけね...まぁないかな」
「それでは最初の街へお送りいたします。行ってらっしゃいませ」
「ありがとー」
視界が白く染まる。
――――――――――
白い視界が開けるとそこは人通りの多い石造りの広場だった。かなりの大きさがあるようでプレイヤーらしき人々がちらほらと沸いているが広場が埋まる気配は全くないほど巨大な広場だった。広場の周りには町が広がっており遠くに城のようなものも見える。さらに向こうを壁がぐるりと囲っているようだ。
さて...まずはステータス確認だ。
PN:ルリ
合計Lv:1
所持金:5000ゼニィ
主職業:戦士(斧使い)Lv1
HP《体力》:50
MP《魔力》:30
STR《筋力》:10
VIT《耐久力》:10
DEX《器用さ》:10
AGI《素早さ》:10
LUK《運》:1
MND《特殊防御》:1
残りステータスポイント:10
装備
右:初心者用汎用斧
左:×
頭:初心者用戦士鎧(頭)
胴:初心者用戦士鎧(胴)
腕:初心者用戦士鎧(腕)
腰:初心者用戦士鎧(腰)
脚:初心者用戦士鎧(脚)
装飾品:なし
デザイアスキル・仮初の不死:Lv1
職業・未獲得
これか『デザイアシステム』えーとスキル説明は…?
仮初の不死:一定時間死を無効化する。
発動条件:任意発動、持続時間3秒、24時間orリスポーン固定で再発動可能
強い…?とは思うが任意発動かぁ…不発したくないし使いどころが難しそうだな。
とりあえずSPの割り振りは後回しにして街の外に出てみよう。
――――――――――
このゲームはオープンワールドだ。なのでどこに行こうと自由なのだが一応エリアに順番はある。初期スポーンから遠いエリアほど敵のレベルが上がるらしい。レベル差があっても倒せなくはないらしいが。
ちなみにリアルを追求したゲームとだけあって眠気、空腹等の感覚も再現されているらしい。
ログアウトは町の外でもできるが、セーブは宿屋などでしかできないようだ。
街から出るのは簡単だった。広場から門までまっすぐ道が続いていたし、門番的な人はいたが手続き等もなかった。
門をくぐってしばらく歩く、一応道は整備されているものの最低限と言った感じだ。今いる場所は『カヤ平原』初期スポのある街『アルファ』の周囲に大きく広がっていて、出現する敵もほとんどが弱い、という始まりの平原な場所だ。
とりあえずはこの平原でのレベル上げをしつつ次のエリアを目指していこうかと考えている。
しばらくまっすぐ歩く、特に何もなく少し気の抜けてきた頃。
「ヂュー!」
「あぶねっ!」
突然突っ込んでくる黒い影をギリギリでよけ、体勢を立て直す。
突っ込んでいった先で振り返りこちらの隙を伺っているような影を正面から見ると。
大型犬くらいのサイズの灰色の身体、口から大きく飛び出た前歯。
「ネズミ?」
どうやらこのファンタジー溢れる世界での初戦闘はファンタジー要素がデカいこと位のネズミが相手なようだ。
この辺はテキトーです。
この作品の主人公は彼女ですが場面場面で結構メインになる人が変わります。ご了承ください。