凡人の驕り
「ねぇどこまで行くつもりよ。」
「うるさい、道を間違えたら困るだろ。」
困る?
「私は何にも困らないけど、なんか不都合でもあるの?」
「だから!ここで迷ったら俺が困るだろ!」
なんか本性を出してきた感じがする。一人称まで変えてるし。さっきまでの高貴なふりをした喋り方を諦めたみたい。
「というか千里眼持ってるんでしょ?困る理由が分からな……」
「ああ…あれな、全部嘘。」
男は食い気味に反論してきた。
「は?」
その発言こそが嘘ではないかと疑う。ならばなぜ私たちのことを知り得たのか理解できない。
「大体お前らのことなんか俺は何にも知らない。」
男は飄々とあり得ぬことをつらつらと言う。
「ならなんで私たちのことを言い当てたのよ!出鱈目だとしてもありえない!」
「なんて言えばいいのか…解りやすく言うと劇の台本を読んでた気持ちだった。」
「まさか!?私を騙そうとしてるのか!そうだろう!」
刺激しない程度に詰め寄る。
「もし仮に貴様を騙したところでどんなメリットがあるって言うんだ?」
「え?」
私にしては素っ頓狂な声が出る。刃物が擦れるくらい高い音だった。
つい感情に任せて詰めていたが鋭利な返答に貫かれる。
なんでこんなに熱くなってたんだろうか。私は目を見ればそいつが嘘を言ってるかぐらいわかるのに。
さて、こいつの目は……濁りがない。
驚いた。こんなに清浄な目を見たのはペラと森で偶に見る生まれたての動物の赤ちゃんぐらい。
ようするにこの世を知らない無垢な者に見える目だ。
この男は世の穢れ汚さを知ってるはずなのに何故?
「何だ?人の目をじろじろ見て!嘘だって言ってるだろ!」
ということはこの男嘘をついていない?増々混乱が押し寄せる。
「嘘じゃないのは本当みたいね。」
「やっとわかってくれたか。」
「だとしたら何が目的なのよ!」
それが嘘じゃないにしてもペラを連れ去ったこと及び私たちのことを知っていたのは理由がはっきりしていない。
「そろそろ黙ってくれ!本当に迷いそうなんだ!」
こんなに大事な話より道の心配か。いっそ迷ってもらえばいいか・
このまま森の奥に迷ってくれれば容赦せずにこいつを殺せる!
「何を焦ってるの?馬鹿なの?言っとくけど黙れと言われると喋りたくなるのが理だって知ってる?それすら知らないなら絶対迷うわね。」
男はこちらを無視して「あっちか?それともこっちか?」と独り言のように呟きながら悪戦苦闘と言った感じだ。
無視されるというのは実に腹立たしい。いっそのこと手の爪でも剥がすか?
このスンとした涼しい顔を苦痛の顔にしてやりたい。
しかしこの男がどんな存在かすら知らずに害を与えるとどんな危険があるか想像もつかない。
今は話しかけるだけに留めておく。
しkさい挑発的に話しかけたのに一切のリアクションがない。
聞こえなかったということはあり得ない。
「ねぇ聞いてる?それとも無視してんの?答えてよ。」
男は嫌そうな顔をしながらこちらを向く。
「全部聞こえてるよ、耳が詰まってるように見えるか?」
見えるかと言われても顔面を仮面で覆っているせいで耳もよく見えない。
こんなに熱いのに外さないのはなぜだろうか。汗が滴ることも無いのを見ると増々不思議だ。
仮面の裏に冷却装置でもあるのだろうか?
「お前はここいら周辺を全て知り尽くしていると思ってるんだろうな。」
急に散々思っていたことをドンピシャに言われた。
心を読んでいるかと思うほど正確だった。
「何故そう思う。」
「だって知識しか取り柄のない雑魚と会話した時と言動が似てるからね。」
「あぁ!馬鹿にしてるならここで殺してやろうか!」
「それがお前の本性か?随分と獣臭いな。」
男は醜い獣を見るように蔑んだ視線を向けている。それが非常に最悪な気分にさせる。
「私と獣を同一視する気か?愚かにもほどがあるな!」
「そうかいそうかい、そう思い込んでおけばいい。」
駄々をこねる子供をなだめるような対応。最悪に最悪が重なっていく。
「そこまで言うならお前の顔を見せろ!」
私は男の仮面を取って慌てふためく姿を見てやろうとした。
「ふざけんな!」
男は激高した。突き飛ばされた私は木に激突する。
「痛て、ここまで飛ばす力があるとはね。」
「あれだけの勢いでぶつかって何故無事なんだ!」
男はありえないと思っているのだろう。
「残念だけど私は頑丈なのよ。」
私は土埃を叩き落とし、背伸びをした。
「俺の全力のパワーで飛ばしたんだぞ!」
「その程度ってことじゃない?私に怪我させたいなら」
男は明らかに引いていた。
「お前は人間なのか?」
「分からないわ、人間だと思ってるけどね。」
私が何者かなんて考えるだけ無駄。
「と、いうより人間の定義って難しいのよ?それがお前に完璧に説明できるの?」
「そんなの心を持っている者だろう、化け物には他者を思う気持ちなど微塵のかけらもないからな。」
やっぱりこの程度か、今まで何人かにこの質問をしたが私の持っている回答とは違う。
「黙ったということはやはり正解だろう?」
もう面倒だから黙っていようと私は思った。所詮は無知な凡人なのだと気づいたからだ。




