〜プロローグ〜 マインドコントロール
「こんなもんでいいかな」と独り言を漏らすのはこの森で現状2人しかいない、今この世界の情勢は西にピューロ帝国、東にはアストロ帝国、南にはキルナプール帝国、北には未開のピラミッドがあり情勢は絶えず動いている。
しかしこの森ではそんなことは関係ない日常が行われている。
「カラァーン」と音が鳴り響く。
この館は広いので誰かが来ると扉から音が出るようにしてある。
オマケに結構響くので遠くても大抵は聞こえる。
「ただいま〜」
「おかえりなさい、ちょうどこの辺の地図を書き終えたとこよ。」
この外から来た少女は私の親友のヴァナル・ペラドゥアラ、私はペラと呼んでいる。
髪がピンクで可愛い子供らしい顔をしている。
「誰か来る気配はあった?」
「いや?だーれもいなかったよ〜。」
「そう、まぁ気長に待つしかないわ、きっといつか来てくれるわ。」
私たちはこの生活に飽き飽きとしていた。
何日も、何年も館で暮らす生活に。
しかし私は引っ込み思案なので一切館を出たことがない。
一方ペラは活発なのでよく館の外に出て遊んでいるが、ペラに人を連れてきてとは言えない。
もしペラが森に人を誘おうとすれば魔女だなんだと変な噂が流れるに決まっている。
私が無理やり誘拐まがいで連れてくることもできるがリスクが高すぎる。つまり最終手段だ。
待ちわびた時は1週間後に来た。
私とペラが紅茶を入れて一息ついていた頃。
「カラァーン」
はっ!と私達は顔を見合せた。
私とペラはそっと紅茶のカップを置いた。
すぐさま玄関へ向かい重厚な扉を開けるとそこには幼く、白髪ボブカットの少女が立っていた。
「あの、私を助けてくれませんか?」と真っ直ぐな眼差しで見つめてくる。
いきなりそんなことを言われて時が止まったかのような沈黙が流れた。
とりあえず対応は私がすると決めていたので口を開く。
「とりあえず中に入って。」
この少女がどう言った経緯でここに来て、なんの用事があったのか、とりあえず応接室に通して話を聞くこととした。
応接室は溜まっていた暖かな空気が放出されて冷たい空気が入っていく。
テーブルを挟んで長いソファが2つある。
片方に私とペラ、向かいに少女が座った。
まるで面接をするかのような配置になった。
「私はペラドゥアラ、ペラちゃんって呼んでね〜、で〜こっちが」
「シラリアよ、今からいくつか質問するわ、まずなぜここへきたの」
その質問をすると少女は顔を俯きしばらくの沈黙の後語り始めた。
「私の名前はヴェスヴィアス・フレンと言います、何故ここへ来たかと聞かれると私はもう死にたいと思っていたのです。
その一言に私たちは息を飲んだ。
「かなり奥深い森の中なので死んでも誰にも気づかれないと思ったので……」
少女の告白は私達以外の人に会えた喜びを、沈黙へと早替わりさせた。
重すぎる理由にシラリアもペラも凍りついたかのように動きが止まっていた。
シラリアが意を決して「で、ここに来てあなたは何をしたいの?」と聞くと少女は「別に。何かしたい訳でもないしなにかして欲しいなら遠慮なく言って。」と軽くいなされた。死を覚悟した者は恐れが無くなると本で読んだが本当にその通りで、初対面の私たちに向かって堅苦しい様子もなかった。
私たちは「分かった」と言ってフレンを近くの適当な部屋に案内した。
「ねぇ、あの子フレンって言った〜?」
「ええ、そう言っていたけど。」
「彼女、相当な訳ありね〜、話し相手になってくれなさそ〜。」
「確かにあのままに放っておくのも気が気じゃないし何とかしないとね。」
とは言っても死を覚悟している人間に話し合いでどうにかなるものか?そんな簡単に済む話じゃない。
その日の夜私はペラが寝静まったのを見計らってフレンの所へ行くため、暗い廊下を一人で歩いていた。
フレンになんて声かけようかと考えながら静かに歩く。
考えながら歩いていると部屋を通り過ぎてしまった。
フレンのいる部屋のドアをノックするが返事がなかった、多分もう寝てると思うがまあ自殺なんかされたら困るのでこっそりドアを開けて生死を確認する。
だが疑念は心配ないと言うように大きなベットで気持ちよさそうに眠っていた。
とても昼間に死にたいと言っていた者とは思えないほどの気持ち良さそうな寝顔をしていた。
こう見るとなんの悩みもないように思える。しかし本質的な原因を知らない以上、無闇に手を出すことはできない。
そう思いながらそっとドアを閉めて、壁に掛かっている燭台を頼りに暗い廊下を音を立てることなく歩いていく。
しかし今部屋に戻っても眠れる気がしない。
そこで1階の書庫でこの夜を過ごそうと考えた。
私は薄暗い廊下を窓から差し込む月明りと燭台に灯っている明かりと自身の夜目で歩いていた。
ふと窓の外を見ると煌々と輝く三日月が出ていて、いつもより大きくなっているように感じた。
少し歩いたところに書庫はある。
中に入ると壁ではなく本棚が周りを取り囲んでいて、壁などなかったように思える。
昼間は本棚の合間の窓から陽光が差し込んでいるが、深夜だと月の光で全体を青白い光で照らしてくれている。
私は部屋の奥に進むと道中にある適当な1冊を持つ。
奥には木製の椅子があり、そこで本を読み始める。
偶々それはこの国の歴史に関する本だったが私にとっては既に知った事だったので飛ばし飛ばしでパラパラと読んでいたが途中目を引くようなページがあった。
私はあまりこの国に対しての思い入れはない為関心がなかった。
「この国には昔とある占い師が残した予言があるそれは代々王家に関わりのある者たちに語り継がれている。」
その占いとは『遠き未来、森の奥の奥にて天より2つの授かりしものありける』と言ったという。
しばらくしてからこの土地に光が差し込んだかと思う間に絢爛豪華な城と言っても差し支えない程の純白の館が現れたのだ、そしてその占い師は『この国の王家の何処かでこの館の主となるもの、産まれる少女を導くだろう』と言ったと言われている。」
それを読んだ時瞬時にこれは私のことだと何故か直感で思った。
だが自分にそんなことができるとは思えない。
第一人が来ない館で何を導くっていうの?私は少々混乱していたのかもしれない、そのせいでますます眠気が遠ざかってしまった。
私はもう寝るのを諦めてその本をじっくり読みたいと思いイスに深く座りなおした。
しかしそれ以外にめぼしい情報はなくつまらない戦争や紛争、政治や革命といった在り来りなものだった。
そのまま朝となり朝日がまぶしいころ合いに書庫を後にし皆を起こしに向かう、なぜならペラはベッドから落ちるまで寝続けるほど起きないので私が起こしに行くことがもはや習慣となっている。
ペラの扉の前に立ち起きていないだろうけど一応ノックをするがもちろん起きているわけもなくいつもの通り部屋の中に入り「ペラ朝よ、起きて。」と言い「ふぁー、おはよう今日もありがとね」と言って長い一日が幕を開けるのです。
しかし私は今になって眠くなってきた。
「ペラ、悪いけど私は今から寝るから、昼になったら起きる。」と言い私が朝に寝始めることほ結構あることなのでペラも「うん、わかった、しっかり寝てね〜、掃除とか諸々は私がやっておくから〜。」
ええ、ありがとう、と言い私は近くの何の気なしに入った部屋のベットに入りすぐに寝ることができた。
私は夢を見た、夢を見ること自体久しぶりだったのだが内容はとても悍ましいものだった。
私は田舎でひっそりと暮らす少女となっていて、そこへ王国の騎士が娘を差し出せと隣の家の両親を脅し暴力まで与えるという地獄絵図を小麦畑の中から隠れながら見ていると遅れてやってきた馬鹿な下っ端の兵士が私をその両親の娘と勘違いし「隊長、見つけました!」と言い出ししびれを切らしていた隊長と呼ばれた騎士も私を娘と勘違いし両親もこれで娘を連れられずに済むと思ったようで、連れて行かないでくれ。娘を返せ。など騒ぐが心がこもっていない、あの両親にとってラッキーとしか思っていないのだ。
その後、王の眼前に連れてこられたが「この女は違う!こんなまがい物地下牢に入れて処分しろ!」というな否や地下牢にて絞首刑として吊るされたあたりで目が覚めた。
起きた私は涙を流し夢と現実を区別するのに時間をかけて落ち着いて外の空気でも吸おうかと思い扉を開け一歩踏み出すと「つるっ、…ドーン」と音の出るほどきれいに転んだ。
まるで漫画の一コマかと疑うほどに見事な転び方だった。
「いてて、なんでこんなところにバナナの皮なんて置いてあるのよ!」
私の目の前には誰かが食べた後であろうバナナの皮がおちていた。私が置いた覚えもないし、昨日館に来たフレンもそんな悪戯をするような子には見えない。
(きっとペラの仕業ね、あとできっちり問い詰めなきゃ)
…でもおかげで陰鬱な夢を忘れられたから結果的にはよかったかもね。
そう思いながら今は何時かと思い部屋に戻り、この部屋にもともとあったルビー・サファイアが美しく装飾され絢爛な時計を見ると長針がⅪ、短針が真南(11時30分)を指していた。
「少し早いけどペレのところに行こう、多分そろそろお昼の準備でもしてるだろう。」
私たちはお昼の時は食堂に集まり一緒に食事することを約束している。
そのことは昨日フレンにも伝えておいたがまぁ…来るか来ないかは任せるか。
ちなみにここから食堂まではそんなに遠いわけではないので1分程度歩けばたどり着けるところにある。
ガチャ。
食堂はこの館の中でもかなり広い空間なので扉もそれなりに大きくなっている。
「私はただ食事するだけの場所がなんでこんな広いのか意味が分からないし無駄すぎると思うけど。」
この部屋の真ん中には昔に先代の王が各地の職人を呼び寄せて作らせたというテーブルがある。
その模様は蔦の生い茂る森を駆けるウサギが彫られており木目と相まってとても美しいもので、見たものを虜とすること間違いないと思わせる。
しかし毎日のように見ている私はそんなことどうでもよく厨房にペラがいるはずと思い厨房に入るとペラが一人で料理をしていた。
「おはよう、大変そうね手伝おうか?」
「あれ?いつもなら2時間ぐらい遅れてくるのに珍しいね。」
「そんなことはいいから!テーブルに座ってるからね!」
そう言い残しドアから食堂に戻ろうとしたとき
「あの~私でも何か手伝えることはありますか?」
ちょうど出ようとしていたところにフレンがやってきて正直私は驚いた。
あんなに死にたがっていたのに食欲がわくとは考えていなかったからで死ぬ気がなくなったのかと考えたがそんな簡単に消えるわけないと考えたが訳が分からなくなり、さっさと厨房を出た。
私はテーブルに付随している椅子に座りへらが料理を持ってくるのを待っていた。
「シラリアごめんねちょっと遅くなっちゃったけどその分味には期待してよ、完璧に作れたはずだから。」
「そうなの?まあ別に気にしてないけどありがたくいただくわ。」
私の目の前にはホカホカなグラタンが置いてある。
私は何も考えずにスプーンで一口分をすくい口に入れる。
「からっ!何よこれ!何を入れたらこんなに辛くなるのよ!」
まるで唐辛子を二十個すり潰してグラタンのチーズの膜で隠していたのではと疑うほどに。
「何を言ってるの辛いわけないでしょ?もしかして調理が遅かったことへの仕返しのつもり?凄いね!そんなに演技がうまかったなんて初めて知ったよ!」
「ばかね!そんなに信じられないならこれ食べなさいよ!」
そういってグラタンを渡す。
「まったくもう、そんなわけないのに ん!かっっっら!なにこれ?どうなってるの?」
「ほら、言ったとおりでしょいったいどんな作り方したのよ。」
「ごめんね~おかしいなちゃんとレシピ通りに作ったんだけどね~」
「もういいわそのグラタン責任もってあなたが食べてよ、私は何か口直しになるものでも作るから。」
「仕方ないね、私の分も頼むよ。」
「分かってるって、そう言えばあの子フレンはどこに行ったの?」
さっき入ってきたフレンがまだ出て来ないのが不審に思えていた。
「あの子ならさっき自分の分の料理は自分で作るって言ってたからレシピだけ渡しておいたからまだ中にいるんじゃない?」
そう聞いたとき私は嫌な予感がした、なぜなら厨房は自殺のための道具のある場所でありそんな危険区域に自殺をしに来たなんて言っていた少女を一人にしていては何が起こるか予測ができないからである。
私は急いで厨房に行きドアを開けるとフレンが包丁を自身の首に突き刺し血まみれになっている惨状を予想していたのだが特にそんなこともなくただ普通に料理をしているだけだった。
「あれ?どうしたんですか、シラリアさんの分の料理ならさっきペラさんが持っていきましたよ。」
「いやそういうわけじゃ無くて何と言うか…そう!ここに来るのは初めてでしょう?だからいろいろ教えてあげようかなって思ったのよ!」
私は素直に物事を言うことが得意ではなく気後れしてしまうことが多くこの時も必死に別の理由を探ししどろもどろになりながら不貞腐れ気味にフレンに言い放った。
しかしフレンは気にすることもせず私に詰め寄ってきたまるでその様子は罪を犯した下人を取り調べる神のように静かな顔のままでありこちらがすくみ上ってしまうほどでこの子の後ろには何があるのかわからないが底知れぬ何かを見たのである。
「どうしたんですか、私にここの使い方を教えてくれるんですよね?それともこのままあなたと共にこの世を離れ神の裁きを受けるのがお望みというのならそうし」
ガチャ。
「シラリアどうしたの?そんなところで青ざめて、もしかして風邪でも引いたの!」
私は恐怖のあまり声の出せる状況ではなかった、さっきの言葉が永遠に頭で反芻し脳の行動を制限されているような感覚であり五感がすべて全く機能せず私の意識はペラが抱えてくれたがその後ろで無表情でいるフレンを見たことで接続が切れた。
私は目を覚ましたその時隣には心配そうな顔をしているペラとフレンがいた。
「大丈夫なのシラリア!よかったあのまま二日も寝続けてたからとっても心配したんだよ。」
ペラはよかったよかったと泣くほど喜んでいるが実は当の私が何が原因でこうなっているのか一切記憶がなかった。
そんなことはあり得ないと思い必死に記憶に問いただそうとするがそんなことはしなくてもよいと脳にいる私のデコイが押し返すかのように私は詮索することもも出来なかった。
ペラに聞けば記憶の断片でも手に入るかもしれないがそんなことはする必要がない、いや、しても何の意義があるというのだろうかと私のデコイが語る。
その日はとりあえずペラが一日中看病してくれるとのことで久しぶりにゆっくりおしゃべりすることができたが、私の心が何かもやもやするので水をバケツ一杯ほど持ってきてもらいそれを私は一気飲みした。
もちろんこの行動に深い意味などはなくペラからすればまるで奇行だといわんばかりであったがそれにより私の中は洗い流せた気がする。
まあ、それによりお腹が苦しくタプタプとした感覚が不快であったことは言うまでもない。
その後も私たちは喋りを止めることはなかったが、ペラも眠くなったと言って自室に戻って行った。
私の体は制御装置を失った機械のようにふらふらと足がどこかへ歩みを進める、意識はもうろうとしており自分の意思かそうでないかですらわからぬ状況である。
そして次に意識がはっきりとしたときにはフレンの目の前にひざまずいていた。
「なっ!フレンこれはどういうことよ!」
フレンはこっちすら向くことなかった。
「どう驚いた?それならよかったわもし人格が戻らなかったらどうしようかと思ってたところよ。」
この子はいったい何お言っているの?一切状況が呑み込めないし動かそうと思っても体の自由が一切きかないから立つことすらできない。
少女だと思って何にも警戒してなかったけどもしかしてこの子何か特殊な能力でもあるのか、だとしたら相当危険な状態だわ。
「全然警戒なんかしなくてもいいよ、ただ私の話を聞いてほしいだけだからそっとおとなしくしてね、まあこのまま命の終焉を迎えないようにね。」
動けない私の目の前に包丁をチラつかせる、恐らく昼間に盗んだんだろう。
そういうとフレンはゆっくりと私の方に向きなおし話し始めた。
「私の生まれはここからずっと南にあるテオラードっていう小さな村なんだけど…知ってる?」
「えぇ、本に載ってたわ。」
「なら話が早いわ、今その村で大量の作物が隣国のキルナプール帝国によって搾取されているの、元々キルナプールは人口の爆発で土地と食料その他諸々が必要になったからね。」
「じきに作物も底をついて村人たちが飢えによって全滅するのも必然の状況で私だけそんなことで死ぬのは嫌だったから逃げてきたの。」
「フレン1人で?」
「そうよ、村人のことなんて何も考えてないわ、だって私が助かればそれでいいのよ、だけど逃げてきたのはよかったけど私のような少女にまともな仕事なんてなかったの、色んな所を転々と歩いてはこの能力で好き勝手させて貰ったわ。」
今私を縛っている原因ね。
「そこでしばらく歩き回っているときにこの館のことを聞いたのよ、困り果ててた私にとっては神の御恵みなんだわと思ってウキウキでここへ来たの、でもねこの館はいろんな噂があったからどうすれば入れてもらえるかすごく迷ったのよ、そこでまるで路頭に迷ってるふりでもすれば入れてもらえるかもしれないと思ったのよ。」
私は驚愕したこれまでのことがすべて偽であり私たちはフレンの思いのままになっていた事実に私はそんな単純な人間であったかと思うがそれはまだ理解できる、しかし私の体を支配しているのは一体どういうことなのかと疑問に思っているが一向に話してくれないのでズバッと聞いてみた。
「で、この今の私の状況はどういうことなの?」
虚勢を張り声もやや震えていた、こんな経験は当たり前だけど初めて。
「ああそのこと、私催眠が得意でね特にマインドコントロールが得意なの、人間の脳って意外と脆いものよ、脳を操るっていうのは全身を支配したことと同じなのよ、毎日こっそり洗脳の下準備をちゃんとしてたからね、あなたバナナで転ばなかった?あれも仕上げの一種だったのよ。」
確かにそんなこともあったわね、そう考えれば思い当たることがちょくちょくあった。
時折夜中に誰かに見られているような気配がすることがあったがそれも下準備の一環だったのね。
「大体はあなたが思ってる通りよ、そろそろお話も終わりにしましょうか。」
フレンが立ち上がりこちらを高いところから見下ろす形となったとき私は何をされるのかと身構えた。
「パチン」
乾いた指から出される音が私の耳に入ると失われた身体の自由を取り戻していった。
えっ!私は驚いた。
てっきりこのままフレンに拘束されていいように操られるのかと思っていたが開放するのはなぜ?
「フフッなんでって思ってるようね、大体別にあなたを操って何かしようなんて考えてないしただ私のことを知っておいてほしかっただけよほらもう動けるようになったでしょ早く出て行って。」
私はその高慢的な態度にムカッと思いはしたが変に怒りを買ってまた動けなくされたら困るので黙って部屋を後にした。
今さっき起きたことがまるで夢のようでぼんやりとしているが意識ははっきりとしているし操られているといった感覚もない。
ぼんやりと考えながら私は自室に戻ったがさっきのことが衝撃的過ぎてうまく思考がまとまらない、
ペラにも相談しようかと思ったが相談したところでどうにかなるような話ではないし、ペラを巻き込んでしまう可能性があるし、第一あのマインドコントロールというものがどういったものかがよくわかってない。
そう考えこんでいると夜も更けてきて窓から差し込む朝日の陽が私の考え事を払しょくさせるかのようにさんさんと部屋にたまっている。
私は眠る気にもならないので朝食を作りに厨房に向かう、あまりこんなに早い時間に起きたこともなかった。
いつもならペラを起こしに行くのだが今日は別に起こさなくてもいいかと思ってペラの部屋を素通りした。
食堂にかかっている大きな掛け時計を見ると5時20分であった、こんな時間に起きていることはまあまあある、大抵は寝ずに起き続けてる時ね。
じつは私はあまり料理が得意ではなくしかもいつもペラに作ってもらっていたから食後のデザートやお菓子しか最近は作っていない、「大丈夫?」と自問自答するほどで正直めちゃくちゃ心配。
「えっと、まずパンをオーブンで焼いてそれからベーコンをフライパンで焼くっと、それをパンにはさんでっとまあこんなものかしらね。」
めったに料理をしないせいでいちいち声に出さないと覚えられない、しかも火加減とかほぼ適当だからこれ美味しいのかな?と思ってしまう。
見た目はよくできてるが中と味が不安すぎる。
「はむっ、もぐもぐもぐ。」
うん、意外においしい。
何と言うかよく言えば宇宙の無限を想起させるような味かと思えばゴミを煮詰めたようにも思える不思議な味で不思議なことに不快感もなく美味しくいただいた。
(自分で作って不思議な味って意味わからないけど)
食べ終わった後も椅子に座ってぼーっとしていた、さっきからだんだん頭が重くなるような感覚がある。
あれから小一時間ほど頭を抑え込んでいればよくなるかなと思っていたが目測が甘かったのか一向に収まる気配がなく仕方ないので無理して立ち上がり自室に戻ろうとしましたが無理をした副作用かは分からないが頭痛と同様に世界がぐにゃりと曲がり、いやそうなったように見えた。
おかげで足元もおぼつかなくなり私は「いたっ!もうなんで急にこうなったの、食べる前は大丈夫だったのに。」
私はふっと思った、さっき食べた食材に何か原因があったのではないかと。
昼間にペラは一人で厨房にいた、つまり食材にも仕込み放題だったってことを考えるとまずいことをした。
今すぐにでも調べに戻りたかったが生憎そんな状況でもないので早く自室に戻ろうとしているがもうどこを歩いてるかもわからないし足もふらふらして歩くという動作もままならない。
このままでは埒が明かないので少しずつ壁に近づきそれを支えとしてよろよろと歩いていたがさっきよりも頭痛がひどくなりついには壁に寄り掛かる形となり朦朧としている中ついに意識が途絶えた。
目が覚めた時には世界が歪みあたり一面が紫色になっていた。
私はさすがに恐ろしくなりあまりの出来事にパニックになり正常な判断ができなくなっていた。
かといってここに座っていても何も好転しないし頭の痛みもだいぶ引いてきたから行動するなら今しかないと自分に言い聞かせて立ち上がり視界が歪み色別判断もおぼつかない中必死に自室に戻ろうとしているが、果たしてこの道で在っているかどうかさえ怪しくなってきた。
30分ほど歩いたかな?
もう時間などどうでもよくなってくる、さっきからずっと歩いているが一向に自室が見つからない。
ありえないが私を避けているのではと疑いたくなってくる、今の私を誰かが見ればただ徘徊している暇人のように映るだろう。
「まずい、そろそろ足も疲れてきたし早くふかふかベットにダイブしてそのまま寝たいのに何でこんなに私の部屋がないのか理解できないわ。」
だんだん焦りが見えてきて独り言が多くなった。
いや、まだ独り言の言える体力は残っているのはいい事ね。
それから時間がたつにつれて足元はしっかりするようになってきたがどうも部屋の配置がおかしい、見た目こそ変わらないのだが階段のあるべき場所に壁ができていたりどれだけ進んでも同じ場所に帰って来てしまう、まるで幻想の空間を見せられていて、ある地点を通過すると自動的に元の位置に戻されるような仕組みが施されているかのようにも思える。
さすがの私も少々疲れが限界点に達したことで歩くのが面倒になり馬鹿らしく思えてきた。
「もう嫌、適当にここで寝よ。」
私はついに歩行を止め壁によろよろと寄りかかり1秒足らずで眠りについた。
どのぐらい寝ていただろうか、感覚を取り戻すのに数秒かかった。
視界はいつもの通りで紫などは微塵も見えない。
元に戻れたのは良かったがなぜこうなっていたのか調べないとまた同じことが起こりかねないので
原因を探すことにする。
「さっきのあれっていつからだったっけ?」
思い出そうとするが頭にロックがかかったように固く閉ざされていて取り出すことができない。
「あれ、ここ何処?」
さっきまで混乱していて頭がぼーっとしていたが冷静に今の景色を見るとさっきの場所とまるで違う。
眠る前はどれだけ視界が悪くても館内だったのに今目の前にあるのは冷たいであろう黒い壁とその手前にある頑丈そうな鉄格子である。
鉄格子に近づこうと思ったが手に手錠のようなものが壁と鎖で連結されていて立ち上がることもできない。
鎖は錆で赤褐色になっているので、何とか壁から鎖が抜けないか何度も引っ張ってみるが外れる気配がない。
あれから2時間は経っただろうか、誰も来る気配がない。
私はここで死んでしまうのだろうか、そんな不安を胸に抱きつつ誰かが見つけてくれるのをじっと待っていた。
声を出して助けを呼ぶことも考えたが体力が続くかわからないし大体声が届くのかもわからないのでやめた。
そんなことを考えて少し時間が経った頃「ガチャ」と扉を開ける音とともにこちらに向かって階段を下りてくるような音が聞こえる。
「やぁ、元気かしら?監禁ドキドキツアーは楽しんでるようでよかったわ。」
ここから見て左奥の扉から誰か来たと少しほころんだ顔が落胆の表情に変わる、フレンは目の前まで来ると飄々と言い放った。
「あなたいったい何が目的なのよ、私を閉じ込めてどうするつもり。」
もはや定番と言える必死の抵抗のつもりで言ったのだがフレンには一切効果がなく鉄格子の前まで来るとしゃがんで私を見ている。
「貴女もう粋がるのやめた方がいいよ死期を早めるだけだから、ってそんな話しに来たんじゃないのよ、なんで私が貴女を閉じ込めたか知りたい?」
正直私は現状圧倒的不利な状況にあったためここで彼女を逃がすと本当に死ぬかもしれないと判断したので何でもいいから引き留めようと決断した。
「その前にどうやってここに連れてきたのか教えてもらえる?」
「あら、そんな上から目線でものを言って私が言うことを聞くと思ってるの?」
くっ!こんな奴にへりくだらないと生きれないの!
「まあ私は優しいから許してあげるわ。」
「そうね、まず貴女私と別れた後食堂に行ったでしょ。」
そうだった私は食堂に行ったんだ。
「貴女が料理に悪戦苦闘している間に特殊な副作用たっぷりの睡眠薬をこっそり出来上がって放置されてたサラダに入れておいたのよ。」
確かにあのサラダなんか苦い箇所があったのはそのせいか。
「最初は気づかれるかと思って近くでこっそり見てたら何にも気づかずに食べてるのよ、笑いをこらえるのがつらかったわ。」
フレンはそう言いながらあはははと笑っている、なんて腹立たしい。
「そのあとは簡単よ、眠った後は夢で彷徨うように操作しとけば自然にこの地下の牢屋に誘えるってこと、あの薬には強い幻覚作用があって、貴女はまっすぐこの牢獄に自ら飛び込んで行ったのよ。」
「はぁ」
ため息が出るわ、こんな少女にいいように使われるなんて自分の危機管理能力が著しく低いなんて思ってもみなかった。
「自分の愚かさを恨みさい、とは言ってもこれからどうしようかな。」
わざわざこんなところに私を連れてきてなんの目的が?
「フレンもういいでしょ早くここから解放しなさい!」
私はひたすら啖呵を切る,それしかすることがないと言える。
というか私への要求を早く教えてほしい。
「貴女今の状況理解してる?どうこう言ったところですべて私の気分次第で死or生が確定すると考えなさい。」
そんなこと言われてもどうすればいいのか…
「まあいいわ、解放してあげる」
ん!どういう考えなのか全く読めない。
「解放はしてあげるけどこのことは脳から消去して新たな記憶を植え付けてあげる。」
そういうと少女の顔が遠くに行ってしまい私は真っ白な虚無の空間に移動させられた。
何が起こったのか解らないなりに考えてみるとおそらくこの空間はマインドコントロールによって作り出された超空間である。
身体は何不自由なく動くし心なしか軽やかになった気さえする。
「あーーー」
声を出してみても空虚に声が吸収されていきまるでこの白いのがすべて吸音材でできているのかと錯覚してしまう。
待てども待てども一向に世界が変わらないので暇すぎて死にたい気分だったが、この世界では死ぬことはおろか身体に一切の変化もないしお腹がすくこともない、喉も渇かないので苦しい感情が脳を占めている。
~現実世界~
すーすーとかわいい寝息を立てて獄中の中シラリアは気持ちよく眠っている。
「フフッ起きてるときはあんなに息巻いてたのに寝るとかわいい少女なのね。」
こうなったのはすべて私の思惑が的確かつ巧妙だったから、そうこの計画は私がこの館に来て決めたことだった。
今日私がこの館を乗っ取ってやる。
~計画の始まり~
私がこれまで何をしていたのか教えてあげる!
これまでに私が二人に見せていた姿は偽りで最初どうやって館に入れてもらうか考えてたんだけどここに来るときに森で彷徨って死んでる人の死体を見てこれだ!と思ってすぐに死に関する言い訳を考えていろんな案が出た。
例えば両親が出かけたきり帰ってこないからここに探しに来て死にかけたところに館を見つけたことにするとか、家出してきたけど行く当てもないから森の中に入ったら抜け出せなくなったとか考えたけど…どれもこれも家に追い返されるような気がしたし、館に入れてもらえたとしても死にかけたと言えば心配されてあの二人が私を観察するように目が私を追うようになるから不用意な行動がとれなくなる、それはかなりきついからそこをなんとかできる言い訳はないか森の中で館を探しながら歩いてたら、先に館が見つかったからどうしようか焦ってるときに思いついたのよ。
もう私自身がシンプルに死にたくてこの森に入ったっていえばあの二人(この時は中に何人いるかはわかってなかったけど)は死にたがってる少女がいきなり来たら面食らっておどおどするんじゃないか、って思ったの。
切羽詰まったときにこんな案を思いつけるなんて私の潜在能力が恐ろしいわ。
なんて思ってる暇もなく、そもそも食料がなくなってて結構危なかったからね、火事場の馬鹿力ってやつかな。
そして館に入ることには何とかうまくいったけど問題は二人の目をかいくぐりながらこの館の形容、部屋の内装・位置の把握などなるべく細部まで調べたうえで計画を立てたかったから先に二人を観察していたの。
何日か観察していたおかげでペラと呼ばれる人がのほほんとしていて何かが起こったとしても鈍感だから何とかごまかせるし私の言うことも素直に聞いてくれるとんでもないお人よしだってことに気づけたわ。
一番の問題はシラリアといったかしら?
彼女はさすがこの館の主といった様子で警戒心が高くて近寄りがたいオーラを発していたわ。
でも彼女は寝る時間が朝でその時間は実質的に常に徘徊している悪魔が行動できない時間のように楽に自由行動がとれることが分かったのよ。
その時間ならもしペラに見つかっても気分を入れ替えたいとか適当なこと言ってれば何とか誤魔化せるから正直リサーチした甲斐があったわ。
その時の私の顔は一仕事を終えたかのようなニコニコ顔だったけどここまではあくまで脳内趣味レーションでしかなくて本番では何が起こるか全くわからないからこんなところで気を抜いて笑ってるようじゃ先が思いやられるわ。
まぁ私ほどの才能が有れば館の調査なんてパッパッとできるのよ。
三日くらいかけて判ったことを言うと。
「館の形は正面から見て入り口が高さ三メートルあり、館自体の大きさは正面から見て幅が横200メートル、奥行きが150メートル程あり対角線上に4本の柱のようにそびえ立つ円柱に円錐が乗っかっている。
また尖塔もいくつか見ることが出来る。
館の色合いは壁が白くなっていて屋根は対極的に黒になっていて壁と屋根ではっきりと分けられている。
というのが大まかな情報であとは内装を調べようとしたんだけどこの館は部屋の数が特に多くてとても調べきれないから生活に使うところとか重要そうなとこだけをチェックしたの。
例えば〜キッチン、お風呂、2人が普段使ってる部屋とか。
諸々はしっかりチェックしたわ。
さて、そろそろ起きてもらおうかな。
〜白の喧騒〜
あれからどれだけがたっただろうか、この世界は白すぎて幻聴が聞こえてくる。
しかし声は統一されておらず点でばらばらであるため何一つ理解できないしそれを理解しようと思いもしない。
しかし、逆にここまで暇だとその声に耳を傾けること以外することがない。
「誰が話しているの?私とお話しましょう」
私は明らかにおかしくなっている。
自分ではそれが分かっているが行動を止められない、というかそれしかすることがない。
声はずっと聞こえるが何と言ってるかまではわからない。
例えるなら壁の向こうで誰かが話しているといった程度にしか聞こえず、会話することなど無理である。
早くこの空間から抜け出したいと思っているがそう簡単に出られないことはこれまでのフレンの力を見せつけられたのもあって半分ほどあきらめが身体を鈍らせている。
身体を動かすのも億劫なのでどこが地面かわからない白に身をゆだねて体を横たえるがここでは眠気が存在していないので眠る行為が愚となる。
私はこの状況はかなり絶望に近いものだと思い直していた。
まるで檻に入れられた動物になったような心境で心苦しいと本来思うはずなのだがここでは感覚がマヒしていて脳の動作がまるで作業を停止した工場のように動いていない為何も思うことはない。
よって完全にフレンの作戦通りとなっているのが使い物にならない自身であっても感じられる。
「はぁ なんか奇跡でも起きてここから出られないものか、ペラはどうしてるのか心配だけどある意味心配ないか。」
つい独り言が出てくる。
もはや自我の失われるときも近いのかもしれないがさすがに易々と思い通りになるのも癪だしという思いが確かにさっきまではそこに存在したが今は早く楽になりたいとの一心に心変わりしている。
しかし、ふと遠くを見ると虚無ではないキラキラした空間が新たに拡張されていることに気が付いた。
重くなった足腰を立ち上がらせて夜に光に集まる蛾のようにふらふらとキラキラした空間に吸い込まれていくように進んでいく。
...近いと思っていたが以外に遠いことはよくあることだろうか?
あれから歩き続けているが少し近づいたかな?程度止まりで一向にたどり着けない。
ただこの空間では全てが虚無と化すようで疲れることはないのでいくらでも歩くことはできるが、精神的に参ってくる。
その後も私はひたすら歩き続けているとそれは突然訪れた。
「な、何!」
私はとても驚いた、なぜならキラキラした空間がぐんぐん近づいて一気に体を黄金に包み込みまるで金をドロドロに溶かしたような空間で息が苦しくなるかと身構えたがそんなことは無いと分かっていた。
私は段々虚無から引きはなされ海中から釣り上げられるブルーフィッシュになったような気分のままいつしか眠っていた。
〜目覚めよ〜
私は息の詰まる感覚を取り戻した。
つまり現実へ帰ってきたのだ、相変わらず牢に閉じ込められたままだが。
「あらやっと起きたのね。」
元凶の音がする、帰ってきて早々か。
「あら、出してくれるって言ってたはずだけど?いつ出してくれるの?」
「まぁまぁ、落ち着いてよ今出すから。」
そう言うとフレンはどこで見つけたのか分からないがこの牢の鍵を取り出して鍵穴にガチャリと嵌め込んで回した。
「はい開けたわよさっさと出たら?うふふふふ」
本当にムカつく。
私の手に鎖が結びついていて離れないのを分かっていてわざとやっている。
フフッ
フレンは笑いを堪えるのに必死なようで口元に両手をやりこちらをチラチラ見ている。
こんなにムカついたのは生まれて初めてだ。
「フレン! さっさとこの鎖も外しなさい!」
「あ!ごめんね〜その鎖の鍵どこかに落としちゃったみたぁい!」
完全にバカにされている。
「このままあなたを見て笑ってたいけど私忙しいの、じゃあね。」
そう言い残しフレンは外界と繋がる扉を閉めて再び暗くなった。