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ずっと足踏みしてろよペンギンども、私は死んでも構わない

作者: 一色 良薬

 “警告地帯! 警告地帯! ゾーンレッド! ゾーンレッド!”


 海岸に設置されたスピーカーよりけたたましいがなり声が響き渡る。

 断崖絶壁の先に広がる美しい海は透き通った青さを失い、濁った血みどろの巨大な池沼と化していた。

 この海も汚染されてしまうとは。

 足踏みをしている場合ではなかったと、私は群れの中から見える赤い水面を睨んだ。

 ゾーンレッド。

 突如海面が赤く染まると生存競争が活発になり、生ける海洋生物が狂暴化する現象が相次いでいる。

 狂暴化は海に棲む者だけではなく、海上にいる者や水中に飛び込んだ者でも徐々に症状として出てくると世界各国のニュースで取り上げられていた。

 正確な原因は突き止められてはいないが、ある学者が唱えた「市場の競争が種族や分野を超えて激戦化してしまっているのかもしれない。海という広く大きな世界を通じて」という分かるようで、分からない説明が有力とされている。

 証拠に海面は阿鼻叫喚の死屍累々な様が漂っている。

 遠目からでも認識できる肉片の残骸。塩の匂いに乗っている腐敗臭。

 地獄絵図のような世界をただ恐々と眺めているだけのペンギン集団。

 その中に私も混ざっていた。

 この海を越えない限り、私たちは自分が目指すそれぞれの目的地に辿りつくことができない。

 海がまだ荒れ果てた競争社会になる前から、私たちはずっとこの崖から眺めているだけで、その先に行こうと考えてはずっと足踏みをしていた。

 そして赤く染まった海を見て今更飛び込んでもきっと殺されてしまうだろう。なんて醜い言い訳をかましてまた眺めているだけ。

 いつまでたっても誰もファーストペンギンになろうとしない。

 それじゃあ駄目なんだ。

 例え死んだとしても。

 あの海の波に攫われて沈み、無残な姿になり果てたとしても。

 いつまでもここにいたら死んでいるのと同しだ。

 ずっと足踏みしてろよペンギンども。私は死んでも構わない。

 後ろから助走をつけ、ペンギンを押しのけて崖から飛び降りた。

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