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妹が吸血鬼の花嫁になりました。  作者: 緋村 燐
5.それぞれの思惑と別れ
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唯一無二の存在 前編

 とりあえず、愛良の無事を確認しなきゃ。


 八階まで上るエレベーターの中で思った。


 自分のことを考えたところで今はまだ気持ちの整理が出来ないし、愛良のことも心配だったから。



 自分の部屋に一度荷物を置いてから、私は愛良の部屋のドアをノックした。


 コンコン


「はーい」


 すぐにドアを開けた愛良は、私の顔を見てギョッとする。



 一応顔は洗って来たけれど、赤くなった目元は簡単には戻らない。


 でも戻るまで待ってるわけにもいかなくて、来てしまった。


「愛良、襲われたって聞いたけど大丈夫? ケガとかしてない?」


 そう聞いた私に、愛良の方が泣きそうな顔になった。



「あたしは大丈夫だよ。お姉ちゃんの方こそ大丈夫なの? あの岸って人がそっちに行ったんでしょ? そんな顔して、何があったの?」


 部屋に入れてくれながら、心配そうに次々聞いてくる愛良。



「聖良先輩⁉ なんて顔してるんですか⁉」


 すると先客がいたようで、中から瑠希ちゃんが顔を出した。



「あ、瑠希ちゃん……。愛良に付いててくれたの? ありがとう」


 田神先生の話では学園について行ったのは零士だけだったみたいだから、多分後から話を聞いて様子を見にきてくれたんだろう。


 お礼を言うと瑠希ちゃんは「友達ですから」と返してすぐにスマホを取り出した。



「聖良先輩こそ嘉輪先輩が必要そうですよ⁉ 呼びますからね!」


 そう言うと、止める暇もなく電話をかけてしまう瑠希ちゃん。



 確か嘉輪は今日も用事があるとかで午前中出かけていたはずだ。


 流石に帰ってるとは思うけど、わざわざ呼びつけるのは少し心苦しかった。




 でも、嘉輪には聞きたいこともある。


 本当は田神先生に聞ければ良かったんだけれど、そんな状況じゃなかったし。



 だから私は愛良に差し出された濡れタオルを目に当てて、冷やしながら嘉輪が来るのを待った。



 コンコン


「あ、来たみたいだね。はーい!」


 私と嘉輪の分も飲み物を用意してくれていた愛良がそう言ってドアを開けに行く。


 私は少しは赤みもおさまったかな? と瑠希ちゃんに聞いて確認してみる。



「大丈夫です! さっきよりはマシな顔してます」


 親指をぐっと立てて言う瑠希ちゃんに、「マシって……」と何とも言えない気分でいると嘉輪が近くに来た。



「聖良? どうしたの? 何があったの?」


 嘉輪はついさっき帰ってきたらしくて状況を何も聞いていないらしい。


 なので瑠希ちゃんと愛良が簡単に説明してくれた。



 まずは愛良の方で何があったかを話してくれる。


「学園の中等部校舎にあたし忘れ物しちゃって、零士先輩について来てもらってそれを取りに行ったんですけど……」


 そう話し始めた愛良の言葉をまとめると、忘れ物を取りに教室に行った帰りに明らかに学園関係者とは思えない吸血鬼がいたんだとか。


 しかもその人は操っていたらしいH生と一緒にいて、おそらくそのH生の手引きで学園に入り込んだんじゃないかとのことだった。


 今回は愛良を直接狙って侵入してきたというよりは、何か別の目的があったみたいでその人は逃げる方を優先していたみたいだったとか。


 だから零士一人だと愛良を守る方を優先しなきゃならなくて、その吸血鬼は逃がしてしまったらしい。



 田神先生は零士が撃退したって言ってたけど、実際にはちょっと違ったみたいだ。


 まあ、伝聞だとそうなっちゃうのかな?



 何にしても、愛良が無事だったならそれでいい。



「それで、あたしの方は大事にはならなかったんだけれど……」


 そう言って愛良は私の方を見る。


 その視線に誘導されて嘉輪も私を見た。



「っ……」


 次は私が話す番だとは分かっているんだけど、話しづらい部分もあるため言葉に詰まる。


 すると瑠希ちゃんが私の代わりに愛良の言葉を継いだ。


「聖良先輩の方にも現れたらしいんです。その……岸って吸血鬼が」


 私の様子をうかがいつつ岸の名前を口にした瑠希ちゃんは、今度こそ私の言葉を待つように後は黙った。



「……」


 それでも話し出せないでいると、嘉輪が探るように聞いて来る。



「岸に、また血を吸われたの?」


「っ!」


 どうして分かったの⁉


 と一瞬思ったけれど、そう言えば傷が塞がっても匂いだとか気配みたいなものが吸血鬼には分かるんだったっけ? と思い出す。



「他にも何かされたの? 鬼塚先輩達は何をしてたの? また襲われるなんてっ!」


 質問を続けているうちに感情が(たかぶ)ってきたのか、語気が荒くなる嘉輪。


 そんな嘉輪の言葉の一つを私は強く否定する。



「襲われたわけじゃ、ないっ!」


「……え?」


「襲われたんじゃないっ。私が吸って良いって言って、飲ませたの」



「聖良?」

「お姉ちゃん?」

「え? 聖良先輩?」


 信じられないとばかりに驚く三人。



 分かってる。

 みんなからすれば岸は私を狙う悪者で、言わば敵だ。


 みんなはそんな岸から私を守ろうとしてくれてる。


 それなのに守られているはずの私が、その敵の手に自ら進んで行ってしまうようなものだ。

 信じられないと驚くのも無理はない。



 ……だから言いづらかったのだけれど……。



 でも言ってしまったからにはちゃんと伝えなくちゃ。


 理解してもらえなくても良い。


 ただ、私の心がどこにあるのかちゃんと知っておいて欲しかった。




「あいつ、弱ってたの。まともに血が飲めなくなってるって言って……私の血なら多分大丈夫だって……。別に死んで欲しいわけじゃなかったし、ぶん殴りたくても弱った状態の岸を殴るなんて出来なかったし」


 そこまで話して「ああ……」と納得の声を上げたのは愛良だ。


「お姉ちゃん、弱ってる人に弱いもんね……」


 長年一緒にいて私の性格を分かり切っている愛良だからこその納得。


 そうして少しでも理解してもらえたから、私はそれに後押ししてもらって続きを話す。



「それで血を吸わせて……それでその、なんて言うか……熱がね……」


 そこの部分は恥ずかしくてハッキリ言えなかったんだけれど、三人は私から少し視線をそらしながら「あー……うん」と理解を示す。



 嘉輪と瑠希ちゃんは吸血鬼だから分かるだろうけれど、愛良も理解するってことは……。



 愛良、吸われたことあるんだな。


 そしてそのことを誰も何も言わないところを見ると相手は零士かな?



 何にしてもいつの間にって気分だ。



「えーっと、とりあえず血を吸われたときに感じるもののことは分かってるから、進めて」


 嘉輪が言葉を選びながら先をうながす。


 詳しく言わずに済んで良かった。

 流石に恥ずかしいし。



「えっと、それでその熱を収めるためにキスされたんだけど……なんて言うか、甘くて……」


『……』


 三人は黙り込む。

 だから私はそのまま話すしかない。



「その、だからつまり……嫌じゃなかったの……」


「聖良?」


 驚きの声で私の名を呟く嘉輪。


 そのままこの気持ちを否定されたくなくて、私はまくし立てた。



「岸は、誰よりも私を求めてくれて。そしてそれは、私がずっと欲しかったもので……」


「聖良先輩?」


 瑠希ちゃんの呼び掛けも無視して続ける。



「あとから田神先生がきてくれたけど、そのとき田神先生を見て思ったのっ……足りないって。田神先生が私を求めてくれてる程度の思いじゃ足りないってっ」


 途中から感情が昂って涙がこみあげてくる。


 それでも、最後まで言い切った。



「お姉ちゃん?」


 三人の反応が怖くて視線を下に向けていたけれど、愛良の呼び掛けでそろそろと顔を上げる。


 三人とも驚いた顔をしていたけれど、その目はそろって心配そうなものだった。



 そして、どう言葉を掛けたらいいか迷っている様子でもある。



 それでも確かめるように、ゆっくりと嘉輪が言葉を紡いだ。


「つまり……聖良は岸のことが好きになっちゃったのね?」


「っ!」


 言葉にされて、更に実感する。



 好きなんて言葉じゃ表しきれない。


 強く求められて、それを嬉しいと感じて、だから私も求めてしまう。


 その感情は一言では表しきれない。



 でも、言葉にするならやっぱりそれしかないんだろう。


「……うん、好き。……私、岸のことを好きになってしまったみたい」


 自分でも口にして、涙があふれてくる。



 岸は敵だとか、田神先生に悪いとか、色んなものが邪魔をしてちゃんとは認められなかった気持ち。


 それを言葉にしたことで……認めたことでさらに感情があふれてきた。



 好き。


 会いたい。


 どうしてあれほどまでに私を求めてくれるのか知りたい。


 岸のことをもっと知りたい。



 でもきっと、この私の思いはみんなには認めてもらえない。


 それが分かっているから、尚更辛かった。



「分かってるんだよ? 岸は愛良を狙ってるやつらに協力してる、いわば敵みたいなものだって。そんな奴好きになったって、誰からも認めてもらえないって……」


 涙声で話し出す。


 三人が言いたくても言えないだろうことを私の方から口にする。


 言われなくても分かっているから、と。



「きっと、田神先生を好きになれれば何の問題もなかった……。でも、もう……」


 この感情を知ってしまったから。

 気づいてしまったから……。



 私の心は、もう他には向けられなかった。



「聖良……」


 そのまま泣き続ける私の肩に嘉輪がそっと手を乗せる。


「聖良の気持ちは、分かったから。……辛いね」


「っ!」


 寄り添ってくれる言葉に喉が詰まる。


 否定しないでくれたことが嬉しかった。



「……お姉ちゃんの気持ち、ちょっと分かる。誰かを好きになる気持ちは、自分じゃあコントロールできなくなるものだもんね」


 零士を思い出しているのか、愛良はそう言って困ったように笑った。



 そんな二人に勇気づけられて、私は瑠希ちゃんを見る。

 嘉輪と愛良とは違って、まだ戸惑いの表情が抜けていない。


「……認められないってことは分かってるし、受け入れられないならそれで良いの。ただ、知ってて欲しかっただけだから」


 二人に触発されて本心とは別のことを言わなくても良いんだよ、と先に言っておく。


 でも、瑠希ちゃんは戸惑いを残したまま口を開いた。



「いえ……いいえ。その、私はその岸って人のこと話でしか知らないですし……それにそこまで人を好きになったこともないので分からないですけど……」


 言葉にしながら自分の中で答えを見つけたのか、その目から戸惑いが消える。


「でも、聖良先輩の思いは伝わりました。確かにみんなから祝福されるようなことじゃないと思います。でも、それでも好きって気持ちは消せないんですよね?」


「うん、無理」


 理解を示そうとしてくれる瑠希ちゃんに、私は笑って答えた。



 すると瑠希ちゃんは困った様に笑う。


「それじゃあ、仕方ないですよね」


「うん……ありがとう」


 認めるとまではいかないかも知れないけれど、三人に受け入れてもらえて安堵する。


 少しだけ心が軽くなった。

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