呼び出し目撃 前編
クラスメイトや他のクラスの生徒達から珍獣のように遠巻きにされ、不躾な視線を送られながらも今日の授業が一通り終わった。
中等部では愛良もこんな感じなんだろうか。
私は一人じゃちょっと耐えられなかったかも知れない。
ほぼ常に一緒に居てくれた嘉輪のおかげだ。
「見てるだけの奴らは無視すれば良いのよ」
と言って、私が気にしないように話しかけてきてくれていた。
おかげで何とか無事に1日目の学園生活を終えられそう。
授業も前の学校より進んでいるものは無かったし、人間関係以外での不安はほとんど解消された。
人間関係は言わずもがな……。
あの後他のクラスメイトも良く見てみると、同じクラスに石井君が居た。
あれだけ背が高いのに、私に対して無反応だった上に話しかけても来ないからすぐには気付けなかった。
気付いてから目が合った時に軽く会釈すると、会釈を返してくれただけで他の反応は無い。
学園内では特に関わろうとはしないって事かな?
そう思って私の方からも積極的に話しかけようとはしなかった。
ちなみに移動教室の時にチラッと見えたけど、零士は隣のクラスだった。
同じじゃ無くてホンッッッッッットに良かった!
田神先生が気を利かせてクラスを分けてくれたのかも知れないけれど。
とにかく、初日は予想以上にクラスに馴染めなかったけれど友達は出来たから最悪では無くて良かったかな。
と、心の中で今日一日をまとめてみながら帰りのHRを過ごした。
愛良がどうだったのかも気になるし、早く帰ろうと帰り支度をしていると嘉輪に声を掛けられる。
「ねぇ聖良、ちょっと時間ある?」
「え? えーと……」
早く帰ろうと思っているので、時間があるかと聞かれると正直微妙だ。
嘉輪の言う“ちょっと”が数分なのか小一時間くらいになるのかでも違う。
聞かれたのが嘉輪で無ければさっさと帰る所だけれど、友達との時間を無下にするのは気が引ける。
そう思って返事を迷っていると、嘉輪は続けて要望を口にした。
「そんなに時間は掛からないわ。隣のクラスに私の幼馴染がいるんだけど、聖良に紹介しておきたいと思って」
「幼馴染?」
「うん。私と同じ吸血鬼とハンターのハーフで、HV生だから何かあったとき頼れる様にと思って」
ハーフでHV生だから頼れるという所が良く分からなかったけれど、転入したてで知り合いが少ないのは確かに心もとない。
それに、紹介するというだけならそれ程時間も掛からないだろう。
そう判断した私は快く頷いた。
すぐに帰れる様に鞄を持って隣のクラスに行く。
教室の出入り口の所で室内を見渡していた嘉輪が、すぐに目的の人物に気付き片手を上げてその幼馴染の名前を呼んだ。
「あ、正輝!」
その名前を聞いて私は少し驚く。
幼馴染としか聞いていなかったから女子だと思い込んでいた。
そっか、男子って事もあり得たんだなぁ。
ウッカリウッカリ。
なんて思いながら呼ばれた正輝くんとやらが来るのを待った。
「嘉輪、どうした?」
そう言って近付いて来た男子はかなり背の高い人だった。180㎝は確実にあるだろう。
綺麗な茶髪はもしかしたら染めているわけではなくて地毛なのかもしれない。
鼻は高めで、少し彫りも深い。
ハーフっぽいイケメンだ。
でも何だろう。
見た目はカッコイイと文句なく言えるのに、何故かカッコイイと言うより可愛いと言ってしまいたくなる様な雰囲気を持っている男子だった。
「ちょっと紹介しておきたかったからさ。ほら、彼女が今日転入して来た香月 聖良」
そう言った嘉輪が今度は私に向き直る。
「で、このおっきいワンコが私の幼馴染の佐久間 正輝」
「おっきいワンコって言うな!」
すかさず非難の声を上げた佐久間くんだけど、言われ慣れているのか本気で怒っている様には見えなかった。
それに、おっきいワンコって何だか的を射ている気がするし……。
大きくてカッコイイけど可愛い雰囲気。まさに大型犬って感じだ。
「えっと、香月姉妹の姉の方だよな。はじめまして、聖良さん」
「あ、はじめまして。佐久間くん」
「正輝で良いよ。俺も名前で呼ぶし」
「わかった、じゃあ正輝くんで」
良いとは言われたけど、やっぱりいきなり呼び捨てはちょっと抵抗があった。
嘉輪は同性だし、彼女からの無言の圧力があったから呼び捨てにしたけれど。
「聖良は狙われやすいと思うし、信頼出来る味方が多い方が良いと思ってね」
「そうだな。吸血鬼の“花嫁”なんて、どっちつかずの存在だからな」
「あ、あの!」
二人の会話に疑問を覚えたので思い切って割り込んでみた。
「私が狙われやすいってどういうこと? それに吸血鬼の“花嫁”ってのは愛良の事でしょう?」
私の質問に二人して目をパチクリさせている。
そして呆れたような眼差しを二人分向けられた。
「……あの人たち、ちゃんと説明したのかしら?」
「さあ、でも本人が信じられないってだけかもしれないよ?」
何を言っているのかよく分からないけれど、二人はそう言った後ちゃんと説明してくれた。
「確かに“花嫁”はあなたの妹の愛良ちゃんよ」
「でも聖良さんも同じく“花嫁”として見られているんだ」
“花嫁”として?
「確かに、愛良には劣るけど特別な血を持ってるって言われたけど……。でも、愛良の方が狙われるってのは変わりないでしょう?」
『……』
揃って黙られてしまった。
「うん、これあれだ」
「あの人たちの説明も足りないけど、聖良さんの認識も偏ってるって感じだね」
「えっと……」
もう少し分かるように説明して欲しい。
そう思うのだけど、二人だけで話が進んでいく。
「仕方ない。あの人たちにとってはやっぱり愛良ちゃんの方が重要って事でしょ。聖良は私達が守ろう」
「そうだね。聖良さんにももっと危機感持ってもらわないとないし、俺達が頑張ろう」
よく分からないうちに二人で何やら決意を固めている。
口を挟めないまま「えっとー」と困っていると、二人は改めてこっちを向いた。
「とにかく、聖良も狙われてるってことはちゃんと理解してね」
「そう。出来る限り俺達みたいなVH生と一緒にいてくれな?」
二人の真剣さに押され、よく分からないけど「わ、分かった」と答えた。
ついでに、さっき疑問に思ったことを聞いておく。
「そういえばさっきもVH生だと頼れるとか言ってたけど、どういうこと?」
「あー」
「それなー」
私の質問に二人は揃って困った顔をした。
何かこの二人仲良いなぁ。
恋愛感情的なものは感じないから、流石幼馴染ってことなんだろう。
「説明が難しいんだけど……。吸血鬼の“花嫁”って立場が特殊なのよ」
「吸血鬼から見れば力の素とも言える存在で、守るけれど自分のものにしたいと狙っているのがほとんど。で、人間のハンターから見ればそんな風に狙われてる一般人。だから守らないといけないけど、そこまで狙われる理由が“花嫁”だからじゃあ良く分からない。と言ったところかな」
「へー……」
吸血鬼側の話は思っていたのとそこまで変わりはない。
でも人間のハンターの話は初めて聞いたから何というか新鮮な気分だ。
「特にハンター側は、理解度が人それぞれでバラバラなのよ」
「そう、まとまりがないって言うか……」
「だからそこでVH生ってわけ」
さっきから嘉輪と正輝くん、交互に話してる。
息ピッタリだな。
幼馴染って言うより、姉弟とか双子って感じ。
「……ねえ、ちゃんと聞いてる?」
ちょっと別のことを考えていたら嘉輪にジト目で見られた。
「き、聞いてるよ!」
うん、ちゃんと聞いてたよ。
違うことも考えちゃってたけど。
「……まあ、良いわ。それでVH生の事ね」
「VH生は吸血鬼でありながらハンターの仕事を目指している生徒だ」
まだちょっと不満顔だったけど、嘉輪達は続きを説明してくれる。
「だから吸血鬼側の考えもハンター側の考えも理解している人が多いのよ」
「えっと、つまり……」
ちゃんと聞いていたと主張する為にも、私なりに理解したと説明しようと考える。
「V生やH生よりもVH生の方が私達の助けになってくれるって事ね」
簡潔にまとめられたとドヤ顔で言ったけど、何故か二人に微妙な顔をされた。
「んー、まあ、間違いでは無いけど……」
「でもちゃんと理解してくれてるのか疑問に思ってしまうなぁ……」
と、なんだかダメ出しを食らってしまう。
二人の反応が不満だったため、つい唇を尖らせてしまった。
「聖良、あなたの顔でそんな表情すると子供っぽく見えるわよ」
笑い混じりに言われる。
「それは私の顔が子供っぽいって事?」
子供っぽく見えると言われたばかりだけど、つい唇を尖らせたままにしてしまう。
「まあ、童顔ではあるかな?」
と、正輝くんにもハッキリ言われた。
「……正輝、それ傷付く言葉だから」
「え⁉」
「残念美少女とは言われたけど、童顔とまで言われるとは思わなかった……」
ちょっとショックを受けていると、正輝くんは慌てて謝罪してくる。
「ご、こめん! そんなつもりは無くて……ちょっと思った事がそのまま口に出ちゃったって言うか」
「だから正輝、それフォローになってない」
「え? ああ、そっか。ってごめん」
更に慌てはじめる正輝くん。
その様子が面白くてつい吹き出してしまった。
「っぷ……ははっ。正輝くんって面白い」
「……そ、そうかな?」
「……」
嘉輪はなんとも言えない呆れたような眼差しで正輝くんを見ているけど、正輝くんは私が笑ったからとりあえず良かったって感じにホッとしてる。
そんな様子も面白くて、さっき感じた小さなショックなんて吹き飛んでしまった。
嘉輪に続いて正輝くんも好きなタイプだな。
あくまで友達としてだけど。
ひとしきり笑い終えたら、今日は紹介したかっただけだから、と嘉輪が言って正輝くんとは別れる。
「聖良は愛良ちゃんと合流するの?」
「うん。校門の辺りで待ち合わせようかと思って」
生徒玄関に二人で向かいながら、前の学校でもそんな感じで待ち合わせてた事などを話していた。
そして階段を下りる手前辺りで、窓の外に集団が見えたのでチラリと何の気もなしに見てみたんだけど……。
「……え?」
思わず眉を寄せて訝しむ。
集団の中に良く知った顔があったこと。
そして、その表情が決して楽し気なものじゃなかったから。
「聖良? どうしたの?」
立ち止まった私に嘉輪が声を掛ける。
私は集団から視線を外さないまま答えた。
「あそこに、愛良がいるの」
指し示すと、嘉輪もそっちを見た気配がする。
そして様子を探るように少し黙って見ていた。
「……あのストレートの髪の子ね。そこまで物騒な感じじゃないけど、だからって良い感じでもないわね」
そう呟くと、嘉輪は「来て」と私の腕を引く。
「行きましょう。あっちから回り込めるから」
「嘉輪……ありがとう」
まだ校内の構造に詳しくないから、嘉輪が案内してくれると本当に助かる。
だから素直にお礼を言った。




