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臨戦態勢――ガイシュウイッショク

『どうする! PSと一戦交える以外に道はねえぞ!』

 焦りを伴ったスリングの声が、スピーカーから聞こえる。

「そんな事はわかってる!」

 モニターに映る黒いPSは、目を模したモノアイでこちらを静かに見つめている。あちらから仕掛けてこないのは、こちらの出方を窺っているからか。

 しばらくの間にらみ合いが続く。不意に、スリングとの通信に、別の信号が介入してきた。それはうるさいくらいのノイズが混じっていたが、コンピューターの処理によって、鮮明に聞き取れるまでに雑音は排除された。

『……あー! あー! 聞こえるかテメェら! 聞こえたら応答しろ!』

 それは基地からの通信だった、さらに言うならばスヴェンらの上司にあたるロイズからの通信である。スヴェンがそれに応えようとするよりも速く、スリングが不満をぶちまけた。

『テメェこの野郎! 斥候の偵察機(ドローン)は何してやがる! PSが居たぞPSがッ!』

 口角泡を飛ばす勢いでわめき続けるスリングを制するかのように、データが送られた。受信されたそれはモニターの隅に小さく表示される。

 そのウィンドウには前方の黒いPSと同じ3D画像が添付されており、暫定的な命名として、その上部に「陸上用機体(スプリンター)」と書かれていた。

『やれやれ、やっと繋がったか。それが送られたデータから割り出した敵PSの推定性能(スペック)だ。飛行能力は無いが、SU(スカイユニット)と同じか、それ以上の機動力を持ってるらしい。ったく、なんだってサウスにそんなPSが配備されてんだか……』

 人ごとのようにぼやくロイズ。

 確かにサウス軍にはSUを上回るPSを開発するような技術は持ち合わせていないはずだった。

 もし、今目の前に存在するPSの性能が送られてきたデータと合致するとするならば……。

『おい、それってかなりヤバイんじゃねえか? 二対一とはいえ』

 基地にいるロイズへ向かって不安げに問うスリングの声、思わずスヴェンも声を漏らした。

「そう……なるよな?」

 しばしの沈黙が続く、それを破ったのは能天気なロイズの声だった。

『なる!』

『逃げるぞスヴェン』

 ロイズの返答に、スリングは一瞬でそう言った。冗談で言っているようには聞こえない、事実、彼のSUは微かに身じろぎしていた。

『敵前逃亡は軍法会議』

 その言葉に、今正に回れ右をして逃げようとしていたスリング機の動きがピタリと止まった。

『…………』

『ちなみに私が基地(ここ)での最高権力者だから。死刑よ死刑?』

『…………』

『ああ、そこに味方がいるってことは敵前逃亡の他にも、味方を見殺しにしたって罪状も追加だな』

『…………』

『こりゃ死刑確定ってことか? お前らが帰ってきた時が楽しみだ』

『戦うぞスヴェン』

 ついにスリング機が携帯型コイルガンを手に取った。

『おー、やっとやる気を出したか、私は嬉しいよ』

『何を仰いますやら! オレは最初っから()る気出してました!』

『よーしそれじゃあ行ってこい』

Yes Ma'am(りょうかい)!』

 叫び声と共に、スリングが先手を打って出た。続けざまにコイルガンを連射する。

 それに対するスプリンターが一瞬だけ身をかがめたかと思うと、次の瞬間、消えた。

 消えた、とするにはいささか不適切かもしれない。正確に言うならば、彼らの視界から外れたのだ。スプリンターのいた地点に微かな砂埃が巻き上がっている事に気付いたスヴェンは機体を上方に向ける。果たしてそこに目標は佇んでいた。

「上だ!」

 右腕がないのにも関わらずその機体は絶妙なバランスでビルの上に立っている。鋼鉄の塊であるはずなのに、乗られたビルは大きな音ひとつ立ててはいなかった。

 左手に持った大型のハンドガンが、スヴェンを狙う。

「!」

 それに呼応するかのように、素早くスヴェンは機体を横にずらした。後を追うように、弾丸がコンクリートの地面を抉ってゆく。

 そこから先は反射的だった。

 右手に装備しているコイルガンをスプリンターの胴に向け、二連続でトリガーを引く。

 だが、スリングと結果は変わらなかった。目標はまたも飛翔すると、音もなく道路に着地する。そして、左手の銃を背部にマウントすると、腰に付けられた巨大な刃物を左手に取った。それは装備されると同時に淡い光を発し、数秒が経つ頃になると真っ赤な光を発するようになる。

熱刀身(ヒートサーベル)か!? 随分原始的なもんを!』

「だからって油断はできない、全力で行くぞ!」

『言われなくてもわかってんだよ!』

 キーボードを打ち叩き、スヴェンは機関銃を手に取った。スリングは高周波ブレードを手にしている。

『さあ、ショータイムだ筋肉野郎!』 


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