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日陰者と巨大な兵器――メカニック

 廃墟と化したビルが建ち並ぶ市街地を、スヴェンとスリングは飛んでいた。

 サノア市、かつて北と南を結ぶ巨大都市として名を馳せたこの町に、昔のような栄華は無い。過去の遺物だ。あるものと言えば倒壊した建造物と、ひしゃげた標識くらいのもの。スヴェンの右隣に建っているのは戦争廃絶を訴えかける看板だった。

『俺達にとっちゃ、皮肉にしか聞こえねえな』

 自嘲の色濃いスリングの声が流れてきた。

『それにしても、どうすんだ? 通信兵から受け取ったデータに表示された地点に味方はいなかったし。闇雲に捜したところで見つかりはしねえだろ?』

 確かに彼の言うとおりではあった。救難信号が発せられたとされる地点に味方は既にいなかったのだ。

「だからこうして、車輪の跡をたどってるんだろ」

 その地点から、スカーブ軍が正式採用しているジープの(わだち)が伸びていたのである。まるで自分達はあちらに行った、とでも言うように。

『ああ、でも、なんで場所を移動させたのかね?』

「たぶん、敵の襲撃を受けたんだ。救難信号は暗号化されてなかったらしいから、もしかしたら敵にもそれは行ってるかもしれない」

『まさか……あり得ないとは言い切れねえが……サウス共にみつかるとやばいな』

「襲撃をかけたやつがいるとすれば、おそらく、敵はまだいる」

『くそっ! 行くぞスヴェン!』

「了解」

 二人の駆るSUは、速度を上げ、轍を辿っていった。



「ソロル、本当に大丈夫なのか?」

 大丈夫なのか? とはどういう意味だろう? とソロルは考える。私の身を案じての言葉なのか、それとも「自分は助かるのか?」という意味なのか。

 おそらくは後者だろう。戦場において、他人を気に掛けている暇など、兵達にはない。それは工兵であるソロルも同じ事だった。

「た、多分大丈夫だと、思います……」

「そうか。まあ、オレらにできる事があれば、言ってくれ」

「わかりました」

 答えたソロルの耳に、戦車兵と工兵の会話が聞こえてきた。

「にしても、PSに戦場のシェアはほとんど取られちまって、オレらみたいな人間はそろそろ廃業じゃねえか?」

「まあな、最近じゃ、人間よりも無人で、PSより低コストなフロートの方が、楽でいいらしい」

「痛みのない代理戦争、か」

「おいおい、そんな事言えた立場か? ごまんと殺してきた俺達が」

「ちげえねえ」

 そんなやりとりを横で聞きながら、ソロルはその場に座り込んだ。 

(助かる……んでしょうか……?)

 それを口に出したりはしなかった。そんな事をしたらそれを打ち砕くかのように、敵が出てくるような気がして、できなかった。

 彼女らアパラ第五独立部隊は、スカーブ国軍第五基地に向かう際、敵の襲撃を受けて撤退。使用されていない野球ドームに隠れていた。

 隠れてから、何度か彼女らの頭上を敵フロートが通過したが、幸いな事にそれらは彼女らに気付くことなく、通り過ぎていった。

 こんな時には、いつも、彼女は妄想を膨らませる。幼少の頃から、ものを考えるのだけは得意だった。

(きっと大丈夫、きっとすぐに味方が駆けつけてくれる。PSが来ればフロートだって倒せるし、基地に着いたらシャワーだって浴びられる。食事だってこんなレーションじゃなく、ちゃんとした物が食べられる……)

 ソロルはうずくまって、静かに考えを巡らせていた。

 突然、通信用の機械にかじりついていた通信兵が、声を上げた。

「救難信号に反応があった! スカーブ基地から二機のPSが来るらしい! 助かるぞ!」

 その言葉に、ドーム内の兵達が沸き立った。やった、ついに、と。それに反応してソロルも顔を上げる。

(助かる……? 私達が……?)

 呆然とその言葉の意味を反芻する。それはすぐに実感を伴ってこみ上げてきた。先ほどの戦車兵が喜びに顔を緩めている。

「やっ――――」

 不意に、衝撃が全身を叩き飛ばした。

 轟音が、耳を突き抜け、頭に響く。

 爆発が、熱風が、ソロルの身体をなぜた。

 コンクリートの床に叩きつけられ、無様に転がる。

「そん……な…………」

 その瞳に映るのは、人の形をした黒い影。鋼鉄で形作られた、人を殺すための装身具。それに刻まれているのは、敵国軍の紋章。


 PS(パワードスーツ)だった。

 

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