幕間――ショウキュウシ
「納得いかねぇ」
憮然とした様子でそう呟いたのはスリングだった。
「何が」
「全部」
周りが喧噪に包まれているにも関わらず、しかしスリングはそれに負けない声量で答えた。
「納得いかねぇんだよ」
「だから何がだって」
「だから全部だって」
「オレらがランチェスの相手を任せられたのは分かる。けどよ、それに関連する情報を調べる許可をもらおうとしたら、あの女上官の答えは『後にしてくれ』だぞ?」
いかにも不満たっぷりだとでも言いたげな表情で、彼はフォークでボイルされたニンジンを突き刺した。
「あの人にも、都合はあるんだと思いますよ」
と、スリングをいさめるように言ったのはランチェスだった。彼はコーヒーが注がれたカップを傾けながら周囲に視線を泳がせている。初めて来る場所だから間取りを確認しているのか、少しでも戦場に出張った経験があると、こういった癖が付いてしまうことも珍しくない。
「にしたってよ、昨日だけならともかく、今日も無理たぁどういうこった?」
今は昼時、ここは食堂。
訓練を終えた兵士やPSの整備を終えた工兵が一様に席へ着き、食事をとっていた。
休暇中であっても空腹はやってくる。スヴェン、スリング、ランチェスの三人もその例に漏れず、昼食をとっていた。
「またあとで、もう一度頼みに行ってみるか」
朴訥とした調子でそう提案したのはスヴェンだ。それに対してスリングは露骨に嫌そうな顔をする。
「はぁ? どうせ無理だろ、また断られるに決まってる」
「そうとは限らないんじゃないか? 可能性は無いこともない」
「いいや無理だね。アイツは俺らに会おうともしねぇよ」
「じゃあ、どうするんだよ」
スヴェンの問いにスリングは「決まってんだろ」と吐き捨てるように答えた。
「データベースに勝手にアクセスすんだよ」
「おい」
「なんだよ」
「お前、馬鹿だろ」
「じゃあその馬鹿についてきてるお前も馬鹿だな」
「それなら、ついてかない」
「スイマセン来て下さい」
軽口を叩きながらも、彼らの顔はあくまで真剣だ。
時折後ろを確認しつつ、スリングは潜まった声で言う。
「おいお前ら、抜かるなよ」
「抜かるも何も、お前が何しようとしてんのかがいまいち分からないんだけど」
「だからだな、今から基地のホストコンピューターにアクセスしようって話だろ?」
「いや、『だろ?』って言われてもな……」
後頭部に手を当てて、スリングに対し呆れたような表情で言うスヴェン。
「あのう、スリングさん」
と、そこで最後に立っていたランチェスが尋ねた。
「あん? どうしたよ?」
「アクセスするというのは良いんですけど、どうやってするんですか?」
「どうやってって……普通に」
「普通、と言うと……?」
「諜報部かどっかに行って頼んでみようかと」
「あの、多分それは無理じゃないかと思うんですけど」
「……………………え?」
「だから僕達は、許可をもらおうとしてたんじゃないんですか?」
「……………………あー……」
二人のやりとりを眺めながら、スヴェンはスリングに向けて冷たく言い放つ。
「やっぱお前、馬鹿だろ」