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地図を描くのは勝者の仕事――トシショウメツ

「妙に性能が良いから、まさかとは思っていたが……」

 彼女、ロイズは革張りの椅子に身体を預けながら額に手を当てる。自分の意志に関係なく、独り言が口から漏れた。

 ロイズの前に置かれているのは数枚の紙片。先刻、刃を交えた陸上用の機体『スプリンター』。その腕部パーツを解析した結果がそこには記されている。

 彼女の部下であるスヴェン上等兵が戦闘によって破損させた腕を、基地内でも指折りの名メカニックに様々な検証を要請しておいたのだ。ほんの数時間で使用されている合金の種類や配合比率、強度とパーツ(ごと)の推定馬力まで割り出したその人物にはほとほと頭が下がる。短時間で終了してこそいるものの、分析結果の信頼度は低くない。そこまで突拍子もない数値がたたき出されていたわけでも無く、なによりその機体と対峙したロイズの個人的評価ともさほど離れていなかったからである。

 最終的にメカニックが下した判断は、『このパーツは少なくともサウスの物ではない』ということ。

 その事実は彼女にとって重い物だった。 

 ――第三勢力。二つの大国が争っているなかでそのような軍勢が現れることが危惧されていなかった訳ではない。むしろ今までその存在が露呈しなかったことの方が驚きだ。

 確かに今までも歩兵を主とした軍隊を持つ小国や、ゲリラ戦を仕掛けてくるレジスタンスは少なからずいた物の、どれも取るに足らないような小さな勢力としてしか認識されなかったのである。

 だが、今回は違う。

 PSを独自に開発するには莫大な資金と技術の他にも、いくつもの条件が必要となる。それは研究施設であったり、パーツを量産するための工場であったり、様々だ。少なくとも広大な土地は必要になる。資金を提供してどこかの国に開発を依頼するという方法も無いわけではないが、そもそもPSを生産するに足る技術を有しているのはスカーブとサガフロントの二国だけであったはずだ。しかも、ことPS関連の技術に限って言えば、サガフロントは自分たちスカーブに大きく遅れを取っていた。情報の流出という線もありえなくはないが、限りなく薄い。

「――スカーブと同等か、それ以上の性能を持つ機体、か……」

 その兵器を駆動させるためのエネルギー源たり得る唯一の物質『ドライヴ』を入手することも必要になる以上、自然とPSの開発が可能な地域は絞られてくるのだが、彼女が得た情報を統合してみた上でもそのような地域はなかった。

「一体全体、どこがどんなルートで手に入れたんだ? あの機体は……」

 また声が漏れる。

 と、この部屋で唯一の出入り口である重々しい雰囲気を醸し出す木製の扉から、およそ似合わないような軽い音が三回続けて発せられた。

「入りな」

 木板一枚を隔てた向こう側にいるであろう人物に向けて、入室を促す。

「失礼するよ」

「何だ、お前か……」 

 そこから入ってきたのは白衣を纏った一人の男である。スマートな銀縁の眼鏡を着用しているが、ボサボサの髪と無精ひげがそれに勝る野暮ったさを演出している。

「アレ? なんか悪かった? 色々とお困りかなーって思ったから来たんだけど」

 言いながら彼は白衣のポケットから数枚のマイクロディスクを取り出した。手のひらに収まるサイズのディスクケースにラベルが貼られている。

「困ってるかと聞かれたら、確かにはいと答えるしかないんだけどな……」

 その言葉を聞いて、男は乾いた笑みをその顔に浮かべる。

「でしょ? ボクはそれを提供しに来たんだよ」

 彼の名はジャン・クリスト、当基地の兵器研究施設に勤務している。施設内での地位はほとんど平社員のようなものだが、事実上もっとも軍に貢献しているのは彼として問題ない。

 風の噂では、変わり者が集まる研究所という場の中でも彼は群を抜いているらしく、金や権力に目が向かないというのだ。

 基本的に彼は兵器開発を行っているが、それ以外の分野にも幅広く手を伸ばしているとも聞く。

 時折、思い出したようにロイズの元へやって来ては、何故か彼女へ助力を惜しまない人物である。

「君が欲しがっているであろう情報さ」

 表情を変えないままにジャンはロイズに歩み寄り、ディスクケースを机の上へと置いた。

「情報? んなもんお前の権限で調べられる範囲なんてたかが知れてる。すまんが必要ないと思うぞ」 軍によって情報が規制されている今では、階級の低い彼に閲覧が可能な情報は限られてくる。ロイズがあの手この手を使ってかき集めたのにも匹敵するようなモノを彼が持っているとは考えにくかった。

「まあまあ、ここはひとつ見てみてくれよ。頼むから」

 とはいえ、ジャンがここまで食い下がるのも珍しいことではあった。

「仕方ないね、ほらこっちに寄越しな」

 何枚かのディスクの内、一枚を適当に選び出して、手近に置いてあったタブレット型のコンピューターにそれを入れる。微かな駆動音の(のち)、ディスプレイにディスク内のファイルが表示された。

「これは……、何かの兵器設計図、か? なんだってこんなもんを……」

「きわめて単純かつ明快に説明してあげよう。それは『ドライヴ』のエネルギーを利用した新型爆弾の設計図だ」

「なっ……! そりゃあ、開発が禁止されてるはずじゃないか! なんでこんなモノがここにあるんだ!?」

「そう、その爆弾の開発はどんな立場の国だろうと開発が禁止されている。君が言いたいことはボクにだって分かる」

 その兵器を開発することは固く禁じられている。今ではスカーブの小学生だって知っているようなことだ。

 だからこそ、おかしいのだ。

「設計図が存在しているということ自体がおかしい、そう思っているんだろう?」

 黙したまま何も語らぬロイズに、ジャンは少なからず肯定の意を読み取ったらしい。何事もなかったかのように語り出した。

「――数年前、一つの国が世界地図から消えた」

 その語り口には、どこか昔を惜しむような声色が備わっていた。 









ぼちぼち更新ができるように頑張ります。

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