始まりの街−2
「あ、あの……」
はっ、いけないけない。トリップしていたようだ。
「私の手錠も外すことは可能でしょうか……」
さっきの女の子だ。
見た目は人間、中学生? くらいだろうか、黒髪で薄汚れた服を着ている。
まぁ助けるか。
「いいよ、助けてあげる」
パキン。
「わっ! あ! ……ありがとうございます……!」
一瞬大きな声を出したがすぐに静かな声になる。
「いや、もう大きな声を出していいよ、聞こえないようにしたから」
「えっ? えっ?」
「おーいみんなー! みんなも助けるよ!」
ざわつき始める牢屋。
「大丈夫、見張りは来ないよ」
そういうと、何人かの子供が僕に手錠の解除を求めてきた。
「何、みんな万引きでもした?」
あれ、みんなの反応的に違うっぽい。
「僕たち、奴隷になったんです」
奴隷!
なるほど、ここは奴隷小屋だったか。別に犯罪を犯した子供達を捕まえるためじゃないのか。
ってことはこの子ら、今売られるの待ちってことかよ! あれ、これって僕も売られる感じ?
「そうだ、俺たちは望んで奴隷になったんだ」
その声は奴隷の中でも整った服を着ていた少年。
「お、俺たちを売れば、家族が助かる……。助けてもらうなんて、できない!」
彼の周りには3人くらい同じ目をする子がいた。
「え、でも僕誘拐されてここにきたよ?」
「ほ、ほら! 言ったでしょ、言ったでしょ!」
僕に続いてさっき手錠を外された子供が騒ぐ。
「そ、そんな……それって、違法じゃないか……」
「だーかーら! 違法なんだって、ここの奴隷商売人!」
その子と少年がギャアギャア言い合う。うーむ、子供って感じでいいね。
話の漢字から察するに、実はこの国では奴隷制度は違法じゃないのかな? だけどそれは奴隷側にその気がないと奴隷にはできない。誘拐してきた子供を奴隷にするのは会おうとなのだろう。
「他に誘拐されてきた子はいるの?」
僕がそういう都心としてしまった。
「僕と彼だけか」
「なーお前、なんでそんなに偉そうなんだよー」
「ちょ、ちょっと」
おや、さっき僕に賛同した子が楯突いてきたな。
「君、名前は?」
「ノア! お前は?」
ノア、というのか。ふーむ覚えておこう。
「ノアくん。僕の名前はロゼ……ロゼだ。実はねぇ、こんな見た目だけど、僕はちょーちょーちょー強いんだ。だからこの手錠も壊せたのさ」
「ふーん」
おお、自分から聞いてきたのにすぐに興味を失うこの子供っぷり! どこの世界でも子供は同じようなものか。
「んで、君は?」
僕は小綺麗な服を着ている少年にも名前を聞く。
「……俺は、いや、私はオリュマス公の第三子、アルヒューマ=オリュマスだ」
ざわつく牢屋。
……なるほど、貴族か。
僕は他の子の名前も聞いた。
「あの、ロゼさん」
この子は最初に助けた女の子、名前はロウエ。
「ロゼさんは、これからどうするんですか」
「んー、やっぱ奴隷にはなりたくないし、逃げるかな」
僕がそういうとまたざわつく牢屋。ざわつきすぎだよ君達。
「あ、あの……私……やっぱり怖いんです」
ロウエは今にも泣きそうだ。
「私もアルヒューマ様みたいに、自分から奴隷になった……んですけど、っでもやっぱり怖いんです!」
そりゃそうだ。こんな子供が、自分からとか……。絶対親から強制されてるよねぇ。
ああ! 助けたくなってきたかも!
「私も外に連れてってください!」
「お、俺も…」
「私も…」
ゾロゾロとロウエに続いて声を上げる子供たち。
「!」
誰か来る。
「みんな静かに。誰か来る。見た目だけの手錠をもう一度かける」
僕はそう言って全員の腕にダンボール生の手錠を一瞬でかける。
「―――」
なんかしゃべってるな、聞いてみよう。
「やっぱヤベェよ誘拐は……」
「ウルセェ、こいつもどうせ親がいねぇ、一人で歩いていただろうが」
「それ絶対とは言いきれねぇだろ、ああくそ、でもノルマがなぁ」
「そうだノルマだ、クソ領主め、何が子供十人集めてこいだよ」
「おいそれドアの先で言うなよ」
「は、あのガキどもがなんかできるっつうのかよ」
「なんか辺境の貴族がいるらしい、一応な」
「あーったよ」
ガチャリ……
階段を降りてくる。
二人、剣を携え、かなり体つきがしっかりしている。一人は両手にはだらりと動かない男児を抱え、一人は腰に鍵をつけている。
鍵の方が扉に近づき、牢屋を開ける。不用心だな、出てもいいのか?と思ったらギロリと睨まれる。
「おらよ!」
どざぁ!
「ちょっと」
思わず声が出てしまった。
乱暴に男児を投げて牢屋に入れたのだ。
「ああ!? なんだゴラァ!」
はぁ〜と深いため息。ここでやるしかないか。
「なんだ、と呼ばれたら、そうだなぁ、なんていえばいいか……」
ぐ、ぐぐぐ、ぐぐぐ……
徐々に視界が高くなる。
「な、なんだこいつ、体が……!」
「僕は君たちにとっての、不幸、だと思ってくれればいいさ。ああでも、名前を名乗っておこうかなぁ」
「こいつ、子供じゃないのか!?」
やがてその体は大人の女性となった。
「初めまして。僕の名前はロゼ・ミネランス=ベンチェヘルト。別の世界の神様さ」