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始まりの街−1

 ロゼ・ミネランス=ベンチェヘルトは退屈していた。


 数々の困難を乗り越え、幾度の別れを経験し、十分すぎるほどの平和を満喫した。


 その世界でロゼは4000年生きた。だからだろうか、もうその世界を知り尽くしてしまったのだ。その未来も、その過去も、その世界にはどこにも自分の未知は存在しなかった。


 ロゼは悩んだ。


 このまま死んでしまおうか、それとも泥のようになにも得ない平和を喰らうか。


 そして結論は出た。新たな刺激は、自分の知らない世界にある。


 未知の世界、つまりここではないどこか。


 異世界。


 こうしてロゼ・ミネランス=ベンチェヘルトは自ら望んで異世界へと旅立った。



 異空間から出ると、そこには全く見たことのない世界が広がっていた。


「ふおおおおお……」


 僕は思わずそんな声を漏らす。


 古いレンガ調の家、知らない食べ物が並んでいる屋台、知らない感触の地面、空気の匂い、風の音。


 そして、犬の耳を生やした人間。


 トカゲのような顔と体つきの人間。ふよふよと宙を浮かぶ妖精。クトゥルフに出てくるような職種の顔を持つ人間。いや、あれは本当に人間か?


「ふおおおおおお……!」


 僕の心は久しぶりに高鳴った。


 何にも知らない世界だ。


 僕は異世界転移に成功した。




「ええと、まずは自分の状況確認からかな」


 ワクワクが止まらない。でも一旦落ち着いて、僕の状態を確認だ。


 うん、いつも通りの可愛い僕。


 空に浮かべた鏡を消してもう一度路地を見る。


 どこかの街だろうか、かなり賑わっている。


「hcふkjhg! jcfxr!」


「hvfgxdtvkhbjk!?」


「#$%&‘()IUHGR$」


「うん、何言ってるかわかんないね」


 流石に言葉が通じないと何もわからないままだよな……


「はい、やすいよー! ガリンの実!」


「竜族を彼女にしたのか!?」


「ちゃんと手を繋ごうね」


「よし、覚えた」


 とりあえずこの国の言葉は今一瞬で覚えた。店先に見知らぬ文字も書かれてあるが……流石にあれはわからない……


 だが、言葉が通じればコミュニケーションは取れる!


「あい、やすいよー! おや嬢ちゃん、見ない顔だね。どうしたの?」


 僕はとりあえず屋台の奥で人を呼び込むおじさんに近づいてみた。


「これ、なぁに?」


 僕はひょいと赤い果実を手に取って見せてみる。


「ああ、これはガリンの実だ。お嬢ちゃん、買ってくのかい?」


 ずい、ずいと身を乗り出してくる店主。なんか圧を感じるなぁ。


「ううん、ありがと」


 僕はそういうとそれを戻して少し離れる。


 そう、食べてみたい。僕はあれを食べてみたい! しかし、お金を持っていない!僕の知っているお金が使えないことくらいわかっている、だからあのおじさんがお客さんと取引しているところを見るのだ。


 しばらくすると別の客がガリンの実を買って行った。その時、確かにお金をいくつか渡していた。


 だが、よく見れなかった。くそう、ちゃんとみないでお金を作るとめちゃくちゃに怪しまれるんだよな。


 でもこれでわかった、この世界にもお金という概念はある。街の雰囲気は中世のヨーロッパって奴なんだけど、文明レベルはどんくらいなんだろう。


 ふむ、やれることがなくなってしまった。物々交換だったら何かしら作れたのだけど……


 僕はそんなになんでもできるわけではない。流石に、自分の知らないことはできないのだ。例えば、異世界の文字。いきなりそれらをみて解読しろと言われても、少ない文だと読めないし、変にグニャグニャしているから、参考できる文字もない。


 知らないことは知らない。もちろん、誰かの記憶を読めば知ることは可能だ、でも、僕はそんなつまらないことはしたくない。


 僕はこの世界に道を求めてやってきたんだ。知っていく楽しみをなぜ自分から無くしてしまうような真似をするんだ。


 僕はこれでいいのだ。地道でいい。


 さ、て、と。


 道に落ちてる小銭でも探そうかな……




 しばらく歩くと、突然誰かに抱き抱えられた。


 瞬時に把握、誘拐だ。


 ヘぇ〜この世界、結構治安悪いんだ。とか考えていたら。


 いきなり、とんでもない睡魔に襲われた。


 僕は全く抗えず、考える隙もなく、そのまま眠った。




 気づけばそこは牢屋の中。


 体を起こそうとした時、自分の手にかけられている手錠に気づいた。


 うわ〜、まじか〜。


 またまた状況確認。同じ牢屋に1、2…僕を入れて8人いるな。全員子供、男女バラバラ、中には獣人の子供もいるようだ。


 薄暗い……あかりは牢屋の外にある。折に近づいて通路を覗く。


 上り階段。地下だろうか、それ以外は壁と通路だ。狭っ!


 ふぅ〜と腰を下ろす。


 え〜、どうしよっかな〜。


 僕はこれでも、前の世界で神と称えられていた。僕自身も神だと自称していたし、神の心持ちを大切にはしていた。


 そんな僕は、目の前で困っている人がいたら、助けたくなってしまうのだ。本当はそいつ自身の力でなんとかして欲しさもあるのだが、まぁ体が先に動いてしまうのだ。


 あと、見過ごしてしまうと、僕の自由気ままライフに棘が刺さる。抜くのは簡単だが、それも思うと棘だ。


 ……まぁ一旦この手錠は外すか。


 パキン。


 素直に壊れた。それをみた同じ牢に入っていた子供がざわつき始める。


 うるさくされたら困るな、防音壁を貼っておこう。


「あ、あの……」


 声をかけられてしまった。


「なんで、破魔の手錠を壊せるの……?」


「破魔の手錠?」


「魔力を吸う手錠……犯罪者がつける奴……」


 魔力!


 その女の子の声は静かだったが確かにそう言っていた。


 つまり、あの謎の睡魔。僕が捕まった時のあれ。実は目覚めた瞬間から考えていたのだが、それにようやく結論が出た。


 あれが魔法なのか!


 奇妙な話だった。僕の世界にも同じような力はあった。いわゆる異能力と呼ばれるそれらは空を飛んだり炎を出せたりした。僕もその異能の力でこの世界にやってきたわけだし。


 しかし、あの睡魔はそれでは防げなかった。つまり、あれは異能力ではなく、他の何か。


 つまり、この世界にしか存在しない力だ!


 す、すごい……! とんでも無くワクワクしてきたー!


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