ポーカーフェイスの彼女と初キスしてもポーカーフェイスでした。
「なあ…俺ら、付き合って3ヶ月になるじゃん?その…そろそろキス…しない?」
「え?」
放課後、2人きりの教室。
窓際の席で恋人の音羽と話していたら、何だかキス…したくなった。
「…別にいいけど」
音羽はいつもと変わらない無表情で、そう言った。
彼女は、いつも無表情で。俺が告白した時も、初めて手を繋いだ時も、彼女の表情はほとんど変化がなかった。まあ…俺はそんな、音羽のミステリアスなところに惚れたんだけども。
ギシッ…
彼女の席に手をつき、彼女の顔に顔を寄せる。すぐ目の前に、彼女の顔。彼女は俺の目をじっ…と見つめる。いつもと変わらない、ポーカーフェイスで。
「ほっ、本当にキスしていいの?」
「うん、いいよ」
「俺…キスしたことないから鼻息とか荒いかも」
「いいよ別に。はい」
そう言いながら、音羽はすっ…と目を瞑った。
夕日色に染まる教室。
彼女にゆっくりと顔を寄せるたびに、ギシギシとした机の軋む小さな音が、教室内によく響く。
夕日を浴びる彼女の顔が、まるで絵画の中の少女のような、神秘的でそして…美しくて。
ふるりと艶めく彼女の唇に、だんだん近づく。それと同時に、胸のドキドキ音が、だんだん早く重くなっていく。
ぶわっ!と、窓の外から突風が来て、教室のカーテンが持ち上がるような音が瞼の向こうでした、時。
──────……
俺は、音羽の唇にキス…した。
音羽の唇は、やわらかくてあったかくて。
重ねた唇から、全身にじわじわと熱いものが広がっていき、体が発熱する。
ちゅ…ぱっ。
「ふはっ!!」
鼻息を恐れ、息を止めてキスした俺は、音羽の唇から離れると、まるで陸にあげられた魚のようにパクパクと酸素を吸った。
「息止めてキスしたの?そんなことしたら息苦しいに決まってるじゃん」
彼女はいつもの無表情でそう言った。付き合って初めてのキスなのに、彼女は顔色をひとつも変えてない。
俺は、こんなにドキドキしてるのに…
「…なあ、音羽は俺とキスしたこと…嬉しくないのかな?もしかして俺のこと…別に好きじゃない?」
感情が読めないミステリアスなところが、彼女の魅力で大好きなところだけど…でも、そのポーカーフェイスが、時々不安になる。
…俺のこと、本当に好きなのかなって思ってしまう。
すると彼女は。
「…ごめん、いつも無表情で。でも、そうしてないと…幸せで顔が緩んじゃうから」
両手で顔を覆う彼女。その向こうは、夕日のように真っ赤で、にへらぁっと幸せそうに微笑んでいた。