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春が来る

作者: しお

注意!投稿主の偏見などがあるかも知れません。

軽い気持ちで投稿していますので、軽い気持ちで読んでいただければと思います。

「おはよ、さっちゃん。」いつも通りのその声に私はため息を吐きながら返答する。

「おはよう、毎朝早いよね、ユウトくん。」

「さっちゃんが早いからね。それに合わせてるだけ。」ニコリと笑う彼。ここだけなら、仲の良い友人程度だがーー

「なんたって君の彼氏になるんだから。」...先程のため息の正体はこれである。まず私は彼と付き合っていないし、付き合う気もない。ーーにも関わらずこんな事を言う彼との出会いは数ヶ月前まで遡る。

 ーーー

「...あの、落としましたよ。」そう言って拾った物を目の前の男性に渡す。男性と言っても、私と同い年くらいだろうか。

「ん?あ、どうも。」彼はそう言って微笑んだ。

 ーーー

「んん?あ、さっきの...!お隣だったんですね。」家に帰ると先程の男性が隣の家から顔を出した。

「僕はユウト、よろしくお願いします。」

「あ、わ、私はサツキです。よ、よろしくお願いします。」これが私たちの出会い。

 ーーー

「いや、だからここはですねーー」彼は私と同い年だったのだ。生憎(あいにく)、学校は違ったが、勉強を教えてもらう程度の仲にはなった。

「ーーと、いうか、もう敬語やめようよ。」

「...私も何でまだ敬語使ってるのかわかんない。」その後に彼は大笑いしたのだが、私は何が面白いのか分からなかった。

 ーーー

「おかえり、さっちゃん。」

「何それ?あと何で私の家の中にいるの?」

「さっちゃんったら、まったく。不用心だよ。」

「?」

「二階の窓の鍵開きっぱなしだったんだから。」

「いや、普通の人はそんなところから入ってこないから。」この時は冗談として流したが、彼の行動が異常性を帯びてきたのはこの時からだったのだろう。

 ーーー

「さっちゃん。僕と付き合っ欲しい。」

「え?い、いや、なんかそれは違うって言うか...」

「...恥ずかしがらなくても良いのに。まあ、返事はゆっくり待つから。いつまでも、ね?」彼は、そう言って微笑んだ。

 ーーー

「ほら、遅れちゃうよ。」そして現在。あれからずいぶんとたったが、私は返事をしていない。

「あ、忘れてた。さっちゃんにお弁当作ったんだよ。」そう言って手渡される布袋。

「あ、ありがとう?」

「何で疑問系(笑)。...人に渡すのは初めてだから、美味しくなかったら、捨てて良いからね?」

「捨てはしないよ流石に。...って、捨てるほど不味い可能性がある...?って、こと?」

「...い、いや、食べられるはず。」目を逸らしてそう言う彼。

「とにかく、ありがとね。」そんな話をしていると、ある場所に着いた。

「じゃ、ここでお別れだね。」そう、彼の通う学校と私の通う学校の分かれ道である。

「はぁ、これから半日、ゴミみたいな時間か。じゃあね、さっちゃん。」言い方!その言い方はアウトじゃないかな!?

「うん。またねー。」ああしてる分にはカッコいいんだけどな。

「彼氏クンかい?」その声にハッとする。

「ち、違うよ!って、おはよ、ヤヨイ。」

「おはよー、"さっちゃん"?」...っ!

「み、見てたの?」

「あははー、顔真っ赤ー。」

「も、もう!」

 ーーー

「お昼行こー、さーっちゃん。」

「わ、わかったから、さっちゃんは、やめて。」そう言いつつ彼からの弁当を取り出す。

「おやおや?珍しい。お弁当かい?」

「うん。彼からーー」そこまで言って口を抑える。

「むむむー?か、れ、か、ら?」ニヤニヤとにやけだすヤヨイ。

「ほら、行くよ。」恥ずかしさを紛らわすように、私は移動を始めた。

 ーーー

「何、これ?」弁当の中身はどうやって作ったのか、ハート形の料理ばかり。何よりも驚いたのが、弁当箱自体がハート。

「いやー、サツキちゃんへの愛に(あふ)れてるねー。」ヤヨイは驚きながらもそんな事を言う。

「...っ!」勢いに任せて素早く口の中に入れる。

「ーー美味しい。」

「え?愛情は最高のスパイス?言うねー。」

「言ってないよ!?」なんだかんだあったが、弁当はとても美味しかった。

 ーーー

「おかえり、さっちゃん。」何でいるの?とはもう聞かない。

「ただいま。って、そうだ!牛乳買い忘れてた!」

「買っといたよ。」

「え?...ほ、本当だ。あ、ありがと。」

「うん。で、弁当美味しかった?」

「あ、うん。美味しかったよ。」

「何でそんな微妙な顔なの!?不味かった!?」私微妙な顔してるのか。お昼のことを思い出してた。

「いやいや、美味しかったよ?なんならこれからも食べたいくらい。...弁当箱のデザインさえ普通ならね。」

「デザイン?あぁ、ハート形のこと?ダメダメ。僕からの愛だから。」微笑む彼。だが、その顔は少し暗くなり、口を開く。

「あの、さ。僕、ゆっくり待つから、って言ったけど、せっかちなんだよね。やっぱり。今、僕と付き合って、くれない、かな?返事が、聞きたい。あの時の。」真っ直ぐと、私を見つめるその瞳は、本物でーー

「な、なーんてねー。じゃ、帰るよ!洗い物しといたから!」そう言って彼は去っていった。

「...。」

 ーーー

「お、おはよ、さっちゃん。」少し気まずそうにそう挨拶する彼。

「おはよう、ユウトくん。」

「はい!弁当!き、今日は先に行くね!」...行ってしまった。

 ーーー

「おや?今日は一緒じゃないんだね。」

「う、うん。」

 ーーー

「弁当、なんか力入ってない感じだねー。」

「そう、だね。」

 ーーー

「...ただいま。」おかえり、という声はなかった。

 ーーー

「ユウトくん?いる?」チャイムを押しながらそう叫ぶ。

「...なに?さっちゃん。」いつも通りの明るい雰囲気だが、どこか陰がある。

「あっ、おかえり。が、最初だった。ごめんね。」

「どうしたの?ユウトくんらしくないよ?」

「ど、どうもしないよ。...僕らしくない、か。」パンパンと自分の顔を叩いて笑顔を作る。

「ごめん!もう大丈夫!...それでさ、返事は、聞かない。」いつも通りの雰囲気で彼は続けた。

「でも、聞きたいことはある。さっちゃんはさ、好きな人、いる?」好きな人、か。

「いないんじゃないかな。自分でも好きかどうかなんて、わかんないや。」

「そっか。うん。わかった。でも、さ。...僕のこと、好きになってもらうから、覚悟してね。」いつもとは少しだけ違う。彼の瞳と口調。

その日は、そんな調子で別れた。

 ーーー

「さっちゃん。デート行こう。」土曜日。私の予定を無視してそんなことを言い出す彼。予定はないけど。

「まだ付き合ってないからデートではないね。」

「まだってことは付き合ってくれるってこと?」

「え?あっ、そ、そうじゃ、なくて...。」

「可愛い。ほら、行こ。」

「...うん。...いや、待って。服選ぶから。」昨日からのこの変化はやはり慣れない。

 ーーー

「可愛いよ!可愛いー!さっちゃん可愛いー!」

「っ...!あ、ありがと...。」

「よし!次こそ行こっか。」

「どこに何をしに行くの?」

「決めてないよ?ぶらぶらしようよ。」

「...え?」

 ーーー

「王道は映画とか、遊園地とか、ショッピングとか、かな?どこがいい?もちろん、別に行きたいところがあればそこにしよう。」歩きながらそんな事を言う彼。

「うーん、映画館は、少し遠いね。遊園地のチケットも持ってないし、ショッピングが無難かな?」私は大きなショッピングモールを指差しながら、そう伝える。

「ショッピング...何か買いたい物でもあるの?」

「うん。少し、ね。」

 ーーー

「これなんかどう?」

「も、もう少し普通のを...。」

「十分普通でしょ。」

「い、いや、恥ずかしいよ。こんなの持ってたら。」

「じゃあどんなのがいいのさ。」

「こ、この黒いのとか」

「えー?普通じゃん。」

「普通な弁当箱を買おうとしてるんだから普通でいいの。」

「しまった。」今しまったって言った?

「じゃあこれで。」

「わかったよ。あ、待った待った!僕が出すから!」

「でもーー」

「デートなんて男に払わせるものだよ。」

「何か嫌な言い回し。」

 ーーー

「次は...って、こんな時間。お昼にしよっか。何食べたい?」

「こういう外食って、何が良いんだろう?ハンバーガーとか?それともカフェとかファミレスに入った方が良いのかな?」

「何が食べたいか、じゃないかな?」

「あっ、あのスイーツ...。」私の目に入ったのは甘そうで可愛いスイーツの載った看板だった。

「...あそこのファミレスにしよっか。」

「あっ...。う、うん。その、ありがとね。」

「何がー?」

 ーーー

「美味しかった。そっちはどうだった?」

「うん。甘くて、しっとりしてて、それでいてそれを崩さない最っ高のバランスだった。」

「そっか。良かった。でもスイーツの感想ばっかりだね。...もう少し買い物したら帰ろっか。」

「うん。」

 ーーー

「うん。意外と買ってないね。」手に持った袋を見ながらそう言う彼。

「...トイレに行ってくる。」突然歩みを止め、そう呟くと、荷物を私に渡して足早に駆けていった。...私に、渡して...。

そんな私のところに二人の男性が寄ってくる。

「お、可愛い娘発見ー。ねえ、君、俺らと遊ばない?」こ、これは!俗に言うナンパ!?

「いや、人を待ってるのでーー」

「大丈夫大丈夫。すぐ終わるから。」遊ぶんだったらすぐには終わらないでしょ。

「良いから、行くんだよ。」そう言って一人の男が私の手首を掴む。

「や、やめて下さい!離して!」必死にその手を振り払う。

「痛った。あー折れたわーこれ。どうしてくれんの?」

「え?そ、そんな簡単に折れるわけーー」

「あー痛いなー。どう責任取ってくれるわけ?」

「慰謝料だ!慰謝料!」

「お、そうだな。あー百万でいいわ。ほら、払えよ。」彼がうそをついてるのは明らかだ。

「え?あ、あのーー」

「払えないんなら、俺らと遊べば許してやるから、な?」助けて、ユウトくん!

「おい、人の彼女に何やってんだ?」黒く、重い声が響く。

「あ?誰だよ?」

「先に質問したのはこっちだろうが。答えろよ。...人の彼女泣かせて、何やってんだ?」

「あ?何?この娘の彼氏?いや、この娘が俺の手を折っちゃってさ。責任取って貰おうと。それとも、何?君が取る?責任。慰謝料百万だけど?」

「取ってやっても良いけど、その前に、事実確認しようか。どっちの腕が折られたの?」そう言いつつ、彼は私の前までくる。

「右手だな。あー痛いわー。ほら、百万。」

「じゃあ、救急車が先だな。その後は、警察か?」

「は?ここで百万払えば良いだろうがよ。」

「バカか?本当に折れてるんなら病院が先だろ。それとも何か?本当は折れてないので痛み何かありません。なので病院にも行く必要はありませんってか?」

「っ...!この!」男が殴りかかる。

「ユウトくん!危ない!」私は咄嗟とっさに叫ぶ。

彼はその拳を避けて手首をグッと掴んだ。

「っ...!あぁ!痛ぇ!折れる!」

「...折れてるんじゃなかったのか?右手。」

「っ...!」

「すぐにここからいなくなるのと、本当に折られるの、どっちが良い?」こんな彼は、見たことがない。いや、彼が意図的に隠していたんだろう。事実、私は少しだが震えている。

「わ、わかった!わかったからやめてくれ!」

「何がわかったんだ?」

「い、いなくなる!だ、だから!」スッと彼はてを離し、こちらを振り返り、微笑む。

「バカが!」男はすぐに立て直し、彼へと殴りかかる。

「ユウトくん!」

バキッと、何かが折れるような音が響く。

地面に膝をついたのは、男の方で、立っていたのはーー

ーー彼だった。

「あ?あ、あぁ。ぐぅ、い、痛い!」

「言ったよな。折る、って。救急車は呼んでやる。」そうして起こったことを警察などにも説明し終えた彼に、私は話しかける。

「ゆ、ユウト、くん?」

「...帰ろっか。ごめんね。遅くなって。」

「うん。...ほんとに、遅いよ。」

 ーーー

それから、家に着くまで私たちが話すことはなかった。

「じゃ、またね。」いつもの調子に戻った彼からそう告げられる。

「うん。今日は、ありがとね。いろいろと。」そうして私たちはそれぞれの家に入っていった。

 ーーー

"人の彼女に何やってんだ"あの言葉が私の頭の中をグルグルと回る。

「...まだ、彼女じゃ、ないよ...。」...ハッ、まだ?まだって言った?私は、彼が私の彼氏になることを受け入れつつあるのかもしれない。

「でも、カッコよかったな。...折ったのはダメだけど。」なんて、考えながら、私生活を終え、寝床に着く。

「おやすみなさい。」

 ーーー

あれからさらに数ヶ月が経過した、そんなある日。

「今日は少し早く帰れるな。」私はいつもよりも早く学校から帰宅しようとしていた。そんな私は見たーーいや、見てしまったのだ。

彼がーーユウトくんが、女の子とニコニコ話している姿を。

胸がモヤモヤした。これは、嫉妬しっと?何で?彼と、付き合ってる訳でもないのに。何で、こんなに苦しいの?

私はその場から駆け出し、すぐに家に帰った。

 ーーー

「少し遅くなったな。」そんな声と同時に、うちの扉が開く。もう、何で普通に入って来るのかなどという話はしない。

「あれ?さっちゃん?帰ってたんだ。今日は早いね。ちょうどよかった、君にーー」

「...。」

「どうしたの?何か、あった?」彼に心配されるとは、さぞ酷い顔をしているのだろう。

「ユウトくんは、私のことが、好き、なんだよね?」

「え?当然でしょ?大大大好きだよ?」

「っ...!...さっきは、楽しそうだったね。」違う。こんなことが言いたいんじゃない。

「さっき?ん?ごめん、いつ?」その言葉が、私を言いようのない苛立ちを覚えさせた。

「つい!さっき!女の子と、楽しそうに!」目の下が熱い。

「あー、あれかな?いや、勘違いだよ。彼女はーー」

「彼女!?私のことが好きなくせに!?」ダメだ。止まらない。

「落ち着いて、深呼吸。」彼はガシッと私の肩を掴んでゆっくりと続ける。

「吸って...吐いて...また吸って...吐いて。...落ち着いた?」

「...わ、わた、し...私...そ、その、ち、違くて、あのーー」

「落ち着いて、ゆっくり、ゆっくりで良いよ。一つ一つ解決していこう。ね?」いつの間にか、平静を取り戻した私がいた。

「う、ん。あの...あの子、は?」

「友達。」

「何で、一緒にいたの?」

「買い物だよ。ほら、さっき君に渡したい物があるって言ったよね?」

「聞いてない。」

「そ、そっか。そういえばそれどころじゃなかったね。これ、プレゼントだよ。女の子に何送ったら良いのかわからなかったから、あの子に聞いたんだよ。」そう言って彼は綺麗に整えられた箱を渡して来る。

「ちなみに、あの子は彼氏がいるから間違っても僕は手を出さないよ。」

「...私の、勘違い?」

「だから言ったじゃん。安心して。君以上に魅力的な女の子はいないんだよ。僕が保証する。」

「っ...!...ず、ずるいよ。」

「何が?と、言うかだよ、さっちゃん。もしかしなくても嫉妬してたんじゃないの?可愛いなぁ。」

「〜〜〜!」

「嫉妬があるってことは、さ。それなりに思ってはくれてるってことだよね?」

「...。」スッと彼から目を背ける。

「ねぇ、どう?僕と、付き合ってくれないかな?」いつもの調子で、でも、とてもまじめに、彼は告げる。

「...こんな、私で良いのかな?」

「そんな、君だから良いんだよ。」

その言葉を聞き、決意が固まる。深く息を吸い、答えを示す。

「ーーはい、喜んで。」

ちょうど、冬が明けようとしていた時期のことだった。

ご閲覧ありがとうございました。

短編小説のつもりだったのに、なぜかこんなに長くなってしまった。というのが個人的な感想です。

...いらないところは削ったはずなんだけどなぁ。

感想、ご指摘などあればじゃんじゃん書いちゃって下さい!

今後も色々投稿しようかなとは思っていますので、良ろしければ、それらもご閲覧ください。

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