81 にぎやかさが戻ってきました
聖女という標を失い、荒ぶっていた王国の精霊たちだが……アーシャの元にいる強大な力を持つ精霊たちのおかげで、あっという間に鎮めることができた。
各地を襲っていた災害は治まり、空は気持ちよく晴れ渡っている。
ルキアスに抱えられて空を飛びながら、アーシャは安堵の息を吐いた。
「ありがとうございます、皆さん。おかげでこれ以上の被害は食い止められました」
『なんていったって俺たち、泣く子も黙る大精霊だからな』
『あんなお子ちゃまたちを宥めるくらい朝飯前ですわ』
『ちょっとメッってしたらすぐだったね~』
『楽勝……』
(わぁ……みんなって思ったよりもすごい精霊だったんだ……)
確かに、普通の精霊よりは強い力を持っていると思っていた。
だがまさか、精霊たちを束ねる存在――大精霊だったとは。
「あの……私なんかと一緒に居て大丈夫なんですか? この地に残った方が……」
『えー、ヤダヤダ! アーシャと一緒の方が楽しいもん!』
『お前は危なっかしいからな、俺が守ってやるんだよ!』
アクアとフレアは自信満々にそう告げる。
(うーん、いいのかな……)
『アーシャが気にする必要、なし……』
『アーシャ、もともと精霊なんて言うのは自分の気の向くままに生きる存在なのです。我々にとって、アーシャと共に在るのが一番の望みなのですわ』
「アース、ウィンディア……ありがとうございます」
アーシャにとっても、家族同然の彼らが傍にいてくれるのはありがたい。
笑顔で礼を言うと、一連のやり取りを聞いていたルキアスがぽつりと呟いた。
「なるほど……だから、歴代の王は聖女を妃にしたのだろうな。精霊は聖女を守り、聖女は国を守る。間接的に精霊の恵みを最大限に享受できるのだから」
「なるほど……」
ただの慣習としか思っていなかったが、そんな理由があったのかもしれない。
納得がいくと同時に、アーシャは彼の言葉に一抹の寂しさを覚えていた。
(きっとそれは、魔王様も同じなのですよね……)
彼がアーシャを婚約者として迎え入れたのも、昔の恩返しという部分もあるのかもしれないが、アーシャの聖女の力を魔王領の改革に利用したいというのが大きいだろう。
そう考えると、少しだけ切なさがこみあげる。
向かい風を避けるふりをして、アーシャはぎゅっとルキアスの胸に顔を押し付けた。
その反応をどう勘違いしたのか、周りを飛んでいた精霊たちが騒ぎ出す。
『おいこらテメェ! どさくさに紛れてアーシャのふともも撫でてんじゃねぇよ!』
『許されざるセクハラですわ!』
「……どうやら羽虫がうるさいようだな」
『『ぎゃー!』』
「あぁ! フレア、ウィンディア!!」
ルキアスに弾かれ、フレアとウィンディアははるか後方に飛ばされてしまった。
だがすぐに、ぷんぷんと怒りながら追い付いてくる。
『おい、俺たちを食べ物に群がるハエみたいに追い払うんじゃねぇよ!』
『礼儀がなっていませんわ!』
『まぁまぁ、あとちょっとで王都だし仲良くしようよ~』
『魔王タクシー、絶好調……』
彼らの言う通り、地上には特徴のある王城の建物が見え始めている。
「魔王様、あそこに着陸お願いします!」
「承知した」
アーシャの頼みを受けて、ルキアスがゆっくりと地上へと降下を始める。
地上に降りてしまったら、彼と離れなくてはならない。
なんだかそれが寂しくて、アーシャが無意識のうちにぎゅっと彼の服の端を掴んでいたのだった。




