79 感動の再会です
彼は両手に四つの水晶を抱えている。
よくよく見れば先ほどまで装置に取り付けてあったはずの、精霊たちを閉じ込めた水晶が消えている。
(ファズマさん……みんなを助けてくださったんですね!)
アーシャを庇って捕らえられた彼らを取り戻すことができて、アーシャはほっと安堵の息を吐く。
一方セルマンは、いきなり現れたファズマに狼狽していた。
「な、なんだ貴様は!」
「あなたに名乗る必要は感じませんね。それより、そんなに国を守る精霊が欲しいならご自身でなってみたらどうです?」
「な……やめろ!」
ファズマはセルマンの体を軽く突き飛ばし装置の中へ入れると、素早くふたを閉め装置を起動させたのだ。
装置が光り輝き、アーシャは慌てた。
「ちょ、ファズマさん!?」
「おやおや聖女様、ご無事のようで何より……ではなく、しぶとく生き延びておられましたか」
「魔王様が助けてくださったので……じゃなくて! その装置は危ないですよ!」
「……その危ない装置を、あの男あなたにたいして使おうとしていたのでしょう? 因果応報ですね」
慈悲の欠片もない態度に、アーシャはあらためて彼は魔族なのだと思い知った。
「それより、この中にいるのはいつもあなたの周りをうろちょろしている精霊なのでしょう。さっさとこの狭いケージから出してやったらどうです」
ファズマが精霊の閉じ込められた水晶を手渡してくれる。
そこから感じる仄かな温かみに、今も彼らがそこにいることを悟ったアーシャは安堵でその場に崩れ落ちそうになってしまった。
(よかった、みんな……)
ぎゅっと四つの水晶を抱きしめ、アーシャは祈った。
「お願い、帰ってきて……」
祈りが通じたのが、ピキピキと水晶にひびが入る。
そして、まるで雛鳥が卵の殻を破るように……一気に四体の精霊が飛び出してきた。
『アーシャ、無事か!?』
『あぁ、一人でよく頑張りましたね……』
『もうだめかと思ったよ~』
『あの水晶、厄介……』
前と少しも変わらずに、わいわいと騒ぐ精霊たちに……胸がいっぱいになってしまう。
「フレア、ウィンディア、アクア、アース……」
一体ずつ名前を呼び、アーシャはそっと大好きな彼らを抱きしめた。
「おかえりなさい……」
「「ただいま、アーシャ!」」
感極まるアーシャの肩に、誰かが優しく触れる。
そっと顔を上げると、こちらを見下ろす優しい赤の瞳と視線が合った。
「俺たちも帰ろう」
ひと睨みで誰をも震え上がらせる魔王だとは思えないほど、ルキアスは優しくそう告げる。
アーシャは思わず頷きかけて……はっと我に返った。
「いえ、帰れません! この国の精霊の暴走を何とかしないと!」
「君を生贄に捧げようとした国だろう。助ける必要があるのか?」
「勝手に自滅させておけばいいのでは?」
「駄目ですー!」
魔族らしく揃って非情さをあらわにするルキアスとファズマに、アーシャは必死にぶんぶんと首を横に振った。
「まぁ、上層部の決定に憤りがないと言えば嘘になりますが……日々を必死に生きている民に罪はありません」
アーシャとて、聖女に選ばれるまではその一人だったのだから。
国の上層部が誤った決定を下したからといって、その罪を民が背負うようなことがあってはならない。
そう力説すると、ルキアスはどこか眩しそうに目を細め、苦笑した。
「君は相変わらずだな。相手が誰であろうと救おうとするその姿勢は、少しも変わらない」
「魔王様……」
かつて、幼いアーシャが傷だらけの彼を治療しようとした時のことを思い出しているのだろう。
今思えばとんでもないことだ。見ず知らずの人間……いや、魔族をこっそり物置小屋に匿い、世話していたなんて。
相手がルキアスでなければ、その場で殺されていてもおかしくはなかった。
だが、きっとあの時ああしたからこそ……今のアーシャとルキアスがあるのだ。
だから、アーシャは己の信念を曲げようとは思わない。
笑われようとも、馬鹿にされようとも、精一杯己の手を伸ばし誰かを救いたい。
まずは……あの装置に閉じ込められたセルマンを救出せねば。




