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65/84

65 捕まってしまいました

「ん……」


 ひどく体が重い。指先一つ動かすのも億劫だが、それでもアーシャは重いまぶたを開いた。


(そうだ、私……神官長に会いに来て、それで……っ!)


 見知らぬ神官長、捕らえられた精霊たち――倒れる前の光景を思い出し、アーシャはぱっと起き上がった。


「つぅ……!」


 その途端全身に痛みが入り、思わず呻いてしまう。


(私は魔法床トラップで気絶して、ここは……?)


 おそるおそる周囲を見回す。

 白い壁に、白い床。アーシャが寝かされていたベッド以外には窓すらない、不気味なほど簡素な部屋だった。


「……フレア、ウィンディア、アクア、アース」


 一縷の望みを託して呼びかけてみたが、いつも一緒に居た精霊たちが応えてくれることはなかった。 

 気配すらも感じられない。あの結晶に閉じ込められて、どうなってしまったのだろう。


(全部、私のせいだ……。私が、もっと慎重に行動していれば……)


 ぎゅっと唇を噛みしめて、アーシャは己の軽率な行動を後悔した。


(いいえ、今からでも……みんなを助けないと……!)


 ここがどこなのかすらわからない。

 だが、動かなければ何も始まらない。何も変わらない。

 震える足を叱咤して、アーシャは立ち上がった。

 だが、その途端――足元から、シャラ……と聞きなれない金属音がした。


「え……」


 思わず足元に視線をやり、アーシャは絶句した。

 アーシャの細い足首に武骨な足枷あしかせが嵌められており、そこから銀色の鎖が伸びていた。

 アーシャが足を動かすたびに、鎖が動いて不気味な音を響かせている。


「なに、これ……」


 鎖を辿ると、どうやらアーシャが寝かされていたベッドの足に繋がっているようだった。

 危機感を覚えたアーシャは、とにかく部屋の出口へ向かおうとしたが……鎖の長さが足りず、扉まであと一歩と言う所で行動を抑制されてしまう。


(私、監禁されてる……?)


 そう自覚した途端、恐怖と不安が押し寄せてくる。

 いつも一緒に居てくれるフレアたちどころか、ここには小さな精霊の気配すらも感じられない。

 本当に、アーシャはひとりぼっちになってしまったのだ。


(あぁ、私はまた一人になっちゃったんだ……)


 まるで、大好きな両親が突然いなくなってしまった時のようだ。

 あの時の絶望が、恐怖が蘇ってくる。

 体の力が抜けて、アーシャはぺたんとその場に崩れ落ちてしまう。


「私は、どうすればいいの……?」


 そう問いかけても、応えてくれる者は誰もいない。

 アーシャはただ、己の無力さを噛みしめることしかできなかった。




 こうして何もない部屋で一人でいると、嫌なことばかり思い出してしまう。


(昔、魔獣の侵入が激しかった頃みたい……)


 ベッドの上で膝を抱え、アーシャは幼い頃の記憶を思い出していた。

 まだアーシャが5、6歳ほどだった頃、国を守る結界が弱まっていたのか、頻繁に魔獣が国内に侵入してきた時期があった。

 国境近くの村に住んでいたアーシャは、魔獣侵入の報を聞くたびに、母の言いつけで狭くて暗い物置小屋に隠れさせられたものだ。

 アーシャの生家がある村は、どこにでもある小さな農村だった。

 幼いアーシャは畑で遊び、探検気分で農作業小屋に潜り込んだものだ。

 ある時、廃棄された小屋で何かを見つけて――。


「…………あれ」


 いったい、何を見つけたのだろうか。

 小屋に入るところまでは覚えているのに、その先がまるで記憶に靄がかかったかのように思い出せない。


(何か、ショックで記憶が飛ぶほど恐ろしいものが……? ううん、違う)


 小屋の中で何を見つけたのかは思い出せない。

 だが、それがアーシャにとって恐ろしい記憶ではなく、暖かな、大事な記憶だということはわかるのだ。


(どうして思い出せないの? それに、何で魔獣は出なくなったんだっけ……)


 気づけば、魔獣の侵攻は収まっていたのだった。

 だが、どうして魔獣の侵攻が弱まったのかは思い出せなかった。

 ……不自然に、その辺りの記憶が抜けている気がしてならない。


(今までは忙しかったから気にしなかったけど、どうして忘れてしまったんだろう……)


 まだ両親が生きていて、精霊たちと話せるようになる前の出来事だ。

 記憶から消えてしまった過去に、いったい何があったのだろうか……。

 愕然としていると、不意に扉の外に人の気配を感じた。

 アーシャは思わず身構え、じっと扉を睨みつける。

 ゆっくりと扉が開き、その向こうに姿を現したのは――。


「無様な格好だな、アーシャ」

「セルマン殿下……!?」


 この国の王太子でありアーシャの元婚約者でもあるセルマンが、嘲るような笑みを浮かべて立っていたのだ。

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