6 普通に出迎えられました
アーシャの作り出した光の柱は、天高くまで伸びて夜空を照らし出した。
その光は遥か彼方まで届き、王太子セルマンは王城にてその光を目撃し、我が目を疑った。
そして、もう一人……。
「……珍しい光景だな」
漆黒の闇世に、静かな声が響く。
アーシャが向かう先、魔族の領域にて――禍々しい空気の漂う城の、尖塔の屋根のふちに腰掛けながら。
一人の男が光の柱を眺めていた。
やがて傍らにもう一人青年が降り立ち、器用に跪いた。
「ご報告申し上げます。あの光の柱についてですが、おそらくは人間の国からの『渡り人』ではないかと」
「渡り人か……久しく目にしていなかったが、まだそんな気骨のある人間がいたとは」
「しかもあの光の強さ、おそらく聖女クラスの人間ではないでしょうか」
「聖女……か」
光の柱を眺める男がくつくつと笑う。
その瞳は、愉快そうな色を宿していた。
「よかろう。聖女を我が城に招くように」
「ここへ、ですか? いったいなぜ……」
「あの聖女に興味が湧いた。是非とも相まみえたい」
傍らの青年は不服そうな顔をしながらも、優雅に一礼してみせた。
「……仰せのままに、魔王陛下」
◇◇◇
「わぁ~、ここが魔族の領域ですか……」
精霊たちがいたおかげでラクラクと山を抜け、アーシャは魔族の領域へと足を踏み入れた。
こうして魔族の領域に立ち入るのは初めてだが、思ったほどは荒廃していない。遠くにはちらほらと集落のようなものも見える。
瘴気が強い分植物の生育には支障があるようで、山脈一つ隔てただけとは思えないほど、緑あふれるアレグリア王国とは景色が異なっている。
《とりあえずどうするよ》
《アーシャはお腹が空いてるでしょうし、町を目指すべきですわ》
《でも魔族のお金なんて持ってないよ? アース、偽造できる?》
《現物を見れば可能……》
「こらこら、通貨偽造は重罪ですよ。魔族の国の法律はわからないですけど……」
とはいうものの、お腹が空いているのは事実だった。精霊たちとは違い、人間のアーシャは時間が経てばお腹がすく。ずっと歩きどおしだったのでなおさらだ。
(うっ、ちまちま木の実を摘まんでたけど、そう言われると余計に空腹感が……)
意識すると余計に空腹感が増すような気がして、アーシャは慌てて意識を逸らそうとした。
何となく空を見上げると、向こうから立派なドラゴンが飛んできて……。
「あっ、ドラゴンです!」
《なにっ!?》
途端に精霊たちが騒ぎ出し、一気に臨戦態勢へと入った。
だが、ドラゴンはアーシャを傷つけようとするそぶりは見せず、地響きをあげながら地面に降り立つ。
驚くことに、ドラゴンが地上に降りたと同時に背中から人影が飛び降りたのだ。
現れた人物は、少しも臆することなくアーシャへ相対する。
(……この人も、魔族なのかな?)
外見年齢にだけ着目すれば、アーシャより少し年上の青年だろう。
癖のある銀色の髪に、きらりと光る眼鏡をかけている。
一見すると人間とそう変わらないように見えるが……。
(あっ、耳がちょっと尖ってる! なるほど、そこで見分ければいいのかな?)
「……渡り人とお見受けいたします。ようこそ、我が国へ」
「あっはい!」
青年が丁寧に礼をしたので、アーシャも慌てて礼を返す、
ボロボロの旅装束に付け焼刃の淑女の礼はみっともないかとも思ったが、青年は気分を害した様子もなく続けた。