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4 生贄を命じられました

 

 翌朝、朝食もそこそこに再びアーシャはセルマンの前に跪いていた。

 相変わらず彼は不遜な態度でアーシャを見下ろしている。更に彼の隣では、新たな聖女であるカティアがこれ見よがしに聖女の証のアミュレットを身に着け、嘲るような笑みを浮かべていた。


「一晩頭を冷やして罪の意識が芽生えたんじゃないか、アーシャ?」

「あ、すみません。昨日は部屋に着いてすぐに寝てしまって、朝も朝食が美味しくて味わっていたらこちらに呼ばれたので、あまりゆっくり考える時間がなかったんです」

「なっ……!」


 アーシャの返答に、セルマンは悔しそうに歯噛みした。

 そんなセルマンの様子に、アーシャは首を傾げた。


(何かいけないことを言ってしまったかしら……? でも、朝食が美味しかったのは事実だもの)


 あたたかな毛布にくるまれている時に、美味しいものを味わっている時に、深刻なことなんて考えられるはずがない。

 よくわからないけど謝った方がいいのだろうか……とアーシャが考えているうちに、セルマンは気を取り直すように咳払いをした。


「……まぁいい。今日お前を呼んだのは他でもない。お前の罪を償う方法を教えてやるためだ」

「罪、ですか……?」

「アーシャ、お前を『渡り人』へ指名する!」

「「なっ……!」」


 ヘルマンの宣言に、謁見の間は一気に騒然となった、

 アーシャも突然の宣告に、思わず息を飲んだ。


「渡り人」――それは、この国では生贄を意味する言葉なのだから。


 アレグリア王国は周囲を山に囲まれた地形であり、北の山脈を越えるとそこは魔族の支配領域となっている。そのため、遥か昔は魔物の襲撃が耐えなかった。

 精霊に愛されし聖女の力によって、魔物の襲撃を防ぐような結界を張っているが、それでも完全に魔物の侵入を防げるわけではない。

 そのため、昔から「渡り人」と呼ばれる巫女を魔族の領域に送る――いわゆる人身御供の慣習が存在した。人道に反するということで数十年前に取りやめられたはずだが。セルマンはアーシャを生贄として魔族の領地へ送るというのだ。


「殿下、おやめください!」


 必死に重鎮たちは止めようとしたが、セルマンは考えを覆すつもりはないようだった。


「どうだ、アーシャ。偽者のお前が聖女の座を穢し、その罪を浄化するためには誰かを『渡り人』にせねばならん。……お前が断るなら、誰か神殿の巫女を『渡り人』しなければならないだろうな」


 ひどく愉快そうに、セルマンはそう告げた。


(……ここで私が断れば、他の巫女が犠牲になってしまう)


 神殿でともに育った巫女たちの顔が蘇り、アーシャは唇をかんだ。

 ……悩みはしなかった、


「……承知いたしました。『渡り人』として穢れを浄化するため、魔族の地に赴きましょう」

 《王太子テメェェェェ! 許さねぇぞオラァァァ!!》

 《今ですわ! あのバカ王子にトライアングルアタックを仕掛けるのです!》

 《えっ、トライアングルってことは誰かハブられるんじゃない?》

 《悪いけどこの技、三体用なんだ……》


 相変わらずやかましい精霊たちが暴走しないことを祈りながら、アーシャは一刻も早くこの場を去りたいと願うのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いくら王子といえどまだ実務的な権力は何も持ってないはずだけど重鎮たちは止められなかったのか?さすがに宰相とかの大臣なら王子よりも権力は上だと思うけど。 [一言] この王子とことんまで馬…
[一言] アーシャさん。美味しいごはんと暖かい毛布で幸せって。なんだかちょっとうらやましい性格ですねぇ。 わたしもそんな大らかな人になりたいなぁ。 ばかがどんどん暴走していくのがちょっと面白いです…
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