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39/84

39 予想外の展開です

「ほほほ本当に申し訳ございませんでした! 私たちは決して魔王様や聖女様に逆らうつもりはございませんのでどどどどうかご容赦を……!」

「ちょちょ、ちょっと待ってください!」

「この泥棒猫!」と殴られるかと思いきや、なぜか逆に土下座されてしまった。


 思ってもみなかった事態にぽかんとした後、アーシャは慌てて床に頭を擦り付けるプリムを制した。


「とにかくお顔を上げてください。何か行き違いがあるようです」


 優しく声をかけると、プリムがおずおずと顔を上げる。

 その表情は怯え切っており、目には涙が浮かんでいた。


(……なぜ!?)


 アーシャは混乱した。

 ここに来る間にアーシャがしたことと言えば、普通に彼女を案内しただけだ。

 間違ってもこんな、ライオンに狙われた子ウサギのように怯えられる覚えはないのだが……。


「ゆっくり座ってお話しましょう。ねっ?」


 がくがく震えるプリムをなだめすかし、なんとか椅子に座らせることには成功した。


「アクア、精神安定作用のあるお水を出してもらえますか?」

《おっけ~》


 とりあえずコップを用意すると、アクアが指を一振りしただけでなみなみとコップに水が満たされる。

 アクアの作り出す清浄な水には、精神を落ち着かせる作用もある。


「こちらをどうぞ。毒などは入っていないのでご安心ください」


 コップを勧めると、プリムはちらりと顔を上げこちらに視線を向けた。

 決して怖がらせないように、アーシャはにっこりと微笑む。

 そんなアーシャの態度が功を奏したのか……プリムは震える手でコップを掴み、おそるおそるといった様子で中身を口にする。

 そして、驚いたように目を丸くした。


「おいしい……」

「お口にあいましたか? どんどん飲んでくださいね」


 微笑むアーシャを、プリムはどこか探るような瞳で見つめている。

 どうやら、多少の落ち着きは取り戻せたようだ。


(これなら……本題に入っても大丈夫そうですね)


 彼女と一緒に来た者たちによると、彼女はアーシャがここに来る前にルキアスの婚約者だったということらしい。

 彼女とルキアスがどの程度親密な関係だったのかはわからないが……アーシャとルキアスはただの契約関係であり、プリムとルキアスの仲を邪魔する存在ではないと伝えなければ。

 だが、そう考えた途端……ずきり、と胸が痛んだ。


(あれ、また……)


 なぜだろう。このことを考えると、いつも胸が痛むような気がするのだ。

 内心で不思議に思いながらも、アーシャは意を決して口を開いた。


「まずお伝えしておきたいのは、私は魔王様の婚約者となっていますが――」


 決して愛されているわけではないしあなたの邪魔をするつもりもありません……と続けようとした、その途端――。


「私は聖女様と魔王陛下の邪魔をするつもりはないから安心して!」

「えっ!?」


 今まさにアーシャが言おうとしていた言葉が、目の前の少女の口から発せられたのだ。

 呆然とするアーシャに、更にプリムは畳みかける。


「聖女様の噂は聞いたよ。もう魔王陛下とは寝所に出入りする仲だし、お世継ぎが生まれるのも秒読みだって!」

「いやいやいやちょっと待ってください!」

(プリムさん、なんでちょっと嬉しそうなんですか!?)


「この泥棒猫!」と頬をひっぱたかれるどころか、プリムはなぜか興奮気味に目を輝かせている。

 おかしい。これは明らかにおかしい……!


「あの……プリムさんは元々魔王様の婚約者でいらっしゃったんですよね?」


 おそるおそるそう問いかけると、プリムは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。


「うちの大婆様と魔王陛下のお父上との間でそういうやり取りはあったけど……ただの口約束だし。それに、私は魔王陛下のお妃様とか絶対無理だから!」

「え、どうしてですか?」

「私の方が聞きたいよ! なんで聖女様は普通に魔王陛下の傍にいられるの!? 怖いじゃん! ちょっと油断したら噛み殺されそうな気がしないの!?」

「いえ、魔王様はお優しい御方ですよ」

「大丈夫? 洗脳とかされてない??」


 大真面目にこちらを心配するプリムに、アーシャは思わず笑ってしまった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あ〜、上の世代同士の口約束だったんですね。 噛み殺されそうって、プリムの中の魔王様のイメージがとんでもない…笑 アーシャはまだちゃんと自覚してないですが、魔王様の婚約者のままでいられそうで…
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